Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね【第1239回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画・ドラマを発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
3月14日、グランドプリンスホテル新高輪国際館パミールにて開催された、第48回日本アカデミー賞授賞式。最優秀主演女優賞に輝いたのは、今回が初受賞となった河合優実でした。そこで今回は、受賞作『あんのこと』とともに、河合優実の魅力に迫ります。

画像を見る(全6枚) (C)日本アカデミー賞協会
2019年デビュー、わずか5年で勝ち取った栄光
今年度授賞式において、会場内からいちばん大きなどよめきが起こったのが最優秀主演女優賞の発表時でした。
受賞したのは、『あんのこと』主演の河合優実。2024年、流行語大賞を受賞したドラマ「不適切にもほどがある!」で阿部サダヲの娘役を演じて、一気に大ブレイク。年末の「紅白歌合戦」では審査員を務めました。
映画は2024年だけでも、受賞作『あんのこと』を含め5作品に出演。主演映画『ナミビアの砂漠』が第77回カンヌ国際映画祭の監督週間で国際映画批評家連盟賞を受賞するなど、いまや飛ぶ鳥落とす勢いの若手女優です。
ちなみに声優を務めたアニメーション映画『ルックバック』は、今年度アカデミー賞で最優秀アニメーション作品賞に輝きました。
受賞作『あんのこと』は、2020年の日本で実際に起きた事件から着想を得て作られた映画。
主人公は、幼い頃から母親に暴力を振るわれて育った少女、香川杏。売春で金を稼ぎ、ドラッグに明け暮れる荒んだ毎日を送ってきた彼女が、薬物を断ち切り、更生しようともがく日々を描いたヒューマンドラマです。
ストーリーを簡単に紹介するだけでも、向き合うのがいかに大変なキャラクターであるか想像がつきますが、圧倒的な熱量で杏を演じきった河合優実。その原動力となったのは、本作のシナリオと出会った時に決意した「彼女(モデルとなった女性)の人生を、自分が生き直す」という思い。
河合さんの鬼気迫る演技と、置かれている環境によって変化していく表情に魂を揺さぶられた人も多いことでしょう。
2022年に『由宇子の天秤』『偽りのないhappy end』の演技が評価され、第95回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞を受賞するなど、元々演技力の高さには定評があった河合さん。現在24歳。その魅力を一言で表現するならば、求心力でしょうか。
公開中の映画『敵』で演じている女子大生役を例に取ってみると、あどけなさが残る少女のように見えることもあれば、グッと落ち着いた大人の雰囲気を醸し出すこともある。親しみやすさが感じられたかと思えば、ミステリアスな雰囲気を纏っている。
スクリーンの中に存在する河合優実を観ていると、その魅力に吸い込まれ、もっと彼女のことを知りたいと思ってしまう。ほかの女優とは被らないカテゴライズできない個性が、その求心力の源となっているように感じられます。
2019年のデビュー以来、出演した映画・ドラマの数は、早くも50本超え。いまや“時代の顔”とも呼ぶべき存在となりました。
「映画の世界に足を踏み入れてよかった」と、受賞スピーチで話していた河合優実。受賞の瞬間、入江悠監督、共演の佐藤二朗と抱き合って喜びを分かち合っていた姿が印象的でした。
映画の神様からの愛情を全身で受け止めている令和のミューズは、これからどのような役柄と出会い、私たちの前に姿を現してくれるのでしょうか。映画ファンよ、“河合優実の時代”に乗り遅れるな!

(C)2023『あんのこと』製作委員会
<作品情報>
あんのこと
DVD&Blu-rayリリース デジタル配信中
kino cinema新宿ほか上映中
出演:河合優実 佐藤二朗 稲垣吾郎 河井青葉 広岡由里子 早見あかり
監督・脚本:入江悠
音楽:安川午朗
音楽プロデューサー:津島玄一
製作:木下グループ 鈍牛倶楽部
制作プロダクション:コギトワークス
配給:キノフィルムズ
(C)2023『あんのこと』製作委員会
公式サイト https://annokoto.jp/

(C)1998 筒井康隆/新潮社 (C)2023 TEKINOMIKATA
<作品情報>
敵
全国公開中
出演:
長塚京三
瀧内公美 河合優実 黒沢あすか
中島歩 カトウシンスケ 髙畑遊 二瓶鮫一
髙橋洋 唯野未歩子 戸田昌宏 松永大輔
松尾諭 松尾貴史
脚本・監督:吉田大八
原作:筒井康隆『敵』(新潮文庫刊)
撮影:四宮秀俊
照明:秋山恵二郎
美術:富田麻友美
音楽:千葉広樹
録音:伊豆田廉明
フードスタイリスト:飯島奈美
企画・製作:ギークピクチュアズ
宣伝・配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ
製作:「敵」製作委員会
(C)1998 筒井康隆/新潮社 (C)2023 TEKINOMIKATA
公式サイト https://happinet-phantom.com/teki/
連載情報

Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/