世界の蜷川の遺作、シェイクスピア喜劇『尺には尺を』にちょっと涙。。。 【ひろたみゆ紀・空を仰いで】

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世界のニナガワこと、蜷川幸雄さんが本当に惜しまれながら旅立ち、半月が経とうとしています。
残念ながら、その遺作となってしまったシェイクスピアの傑作喜劇『尺には尺を』を観てきました。

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左から、原 康義、多部未華子、辻 萬長、藤木直人、周本絵梨香

会場はおなじみ、彩の国さいたま芸術劇場。こちらでは、蜷川幸雄演出・監修のもと、シェイクスピアの戯曲37作品全ての上演を目指し、1998年に「彩の国シェイクスピア・シリーズ」をスタートさせました。
その32作目となる最新作であり、蜷川さんの追悼公演となってしまったのが『尺には尺を』です。

衝撃的な物語の展開から、喜劇であると同時に問題劇とも呼ばれるこの作品には、ひと癖もふた癖もある個性的で魅力的なキャラクターが登場します。

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前から、多部未華子、藤木直人

出演は、「彩の国シェイクスピア・シリーズ」に初登場の藤木直人さんと多部未華子さん。
そして『日の浦姫物語』や『ヘンリー四世』などで重要な役どころを演じてきた辻萬長さんら、近年の蜷川演出作品で活躍する豪華な顔ぶれが揃いました。

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辻 萬長

舞台は、空間、特に奥行きをとても効果的に使っていました。
シンプルな舞台背景なのに、時には街の騒めきを、時には聖なる祈りの場をと、観客をシェイクスピアの時代に誘います。
跳んだり走ったり、客席の通路もふんだんに使います。衣装も素敵でした。

蜷川さんらしく本番前からすでに舞台が楽しめます。
何もない広い舞台の床にモップをかけている人がいるかと思えば、衣装に身を包んだ役者さん達が一人二人と登場して、セリフ回しの練習や身のこなしを確認したり…。
そして、豪華な衣装がかかっているハンガーラックがでてきて、みんな衣装に袖を通すと物語の始まりです!

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左から、妹尾正文、藤木直人、辻 萬長

舞台はオーストリアの都ウィーン。この街を治める公爵のヴィンセンショー(辻萬長)は、全ての権限をアンジェロ(藤木直人)に委任し、国外に出かけてしまいます。
でも実は、修道士に変装して国内に留まり、権力が人をどう変えるのか、観察したいと思っていたのです。
ヴィンセンショーの統治下で法に寛容だったことに不満を持っていたアンジェロは、街を厳しく取り締まリ始めます。
折悪く、クローディオという若い貴族が、結婚の約束をした恋人ジュリエットを妊娠させてしまいます。
厳格な法の運用を決めたアンジェロは「婚前交渉は法に反する」と、彼に死刑を宣告。
クローディオの友人ルーチオは、修道院にいるクローディオの妹イザベラ(多部未華子)を訪ね、アンジェロに会って兄の死刑の取り消しを懇願するよう頼みます。
兄思いのイザベラはアンジェロに面会し慈悲を求めるのですが、なんんとアンジェロがイザベラに恋をしてしまうのです。
今や、権力の座にあるアンジェロは、クローディオの命を助ける代わりに自分のものになるようイザベラに迫ります。
イザベラはきっぱりとアンジェロを拒絶しますが、死の恐怖に耐えられない兄は、妹に自分を助けて欲しいと懇願するのです。
果たしてイザベラは純潔を守る事ができるのか、クローディオは処刑されてしまうのか…そして、ずっと修道士に身をやつして見守っていたヴィンセンショーが思いついた妙案とは…?

3 左から、松田慎也、辻-萬長、内田健司、多部未華子、原康義1
左から、松田慎也、辻 萬長、内田健司、多部未華子、原康義

この喜劇、観ていると誰が主人公なのかよくわからなくなってくるのですが、藤木直人さん演じるアンジェロは、とても厳格なはずなのに、身も心も美しいイザベラを前にすると男のサガが丸出しの今でいうセクハラ、パワハラ男になってしまいます。

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藤木直人

そして、多部未華子さん演じるイザベラは、修道女になろうとしている女の子。
修道女らしく純潔で聖なる心を持っていますが、修道女らしからぬ雄弁家で、早口で理路整然と説明したり説得したり…そして時には相手を罵る強さも持ち合わせています。

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多部未華子

何と言ってもこの物語のキーパーソンは、辻萬長さんが演じるヴィンセンショー公爵ではないでしょうか。
物語が始まるきっかけを作り、さらに修道士に身をやつし、陰で糸を引き物語を紡いでいくのです。

基本的には喜劇ですから、セリフ回しや仕草がとてもコミカルです。
劇場でみんな一緒にドッと笑う感じがいいんですよね、一体感があって。
さらに生である演劇は客席と演者の間の空気が笑いによってより良いものになる気がします。

次から次へと何かが起きる物語の展開の早さに、次はどーなるの?えー、イザベラは大丈夫?とハラハラドキドキ。
さらに拍車をかけるのが、油紙に火がついたようなセリフ回し。
そして、時々挟みこまれる笑いの要素。心配したり驚いたり笑ったり、観ている方も大忙しで一瞬たりとも舞台から目が離せません。

いくら厳格でも魅力的なものの前では我慢できないという人間のサガ…そして、さっき言ったことと今言ってることがまるで違う人々。
でも、その時々では本心を言ってるのかもしれません。この物語は、致し方ない人間の矛盾を見事に描いているのではないでしょうか。
「尺には尺を」というタイトルは「あなたがさばくそのさばきで、自分もさばかれ、あなたが量るそのはかりで、自分にも量りあたえられるであろう」という聖書のキリストの教えに由来しているのだそうです。

実はシェイクスピアは、この喜劇の結末をとても曖昧に描いています。ですから、演出次第でどうにでもなるのです。さて、蜷川さんの演出はいかに……?

私は、今のこのご時勢にピッタリな結末だと思うのですが…(蜷川さんを思うと似合いすぎて涙を誘います。)
あなたも自分の目で是非確かめてみて下さい。

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彩の国シェイクスピア・シリーズ第32弾『尺には尺を』
2016/5/25~6/11 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
演出:蜷川幸雄
出演:藤木直人、多部未華子、辻萬長 ほか

彩の国シェイクスピアシリーズ、この後は、北九州公演大阪公演が控えています。

蜷川さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。

撮影:渡部孝弘
レポート:ひろたみゆ紀

「ひろたみゆ紀・空を仰いで」

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たったひとつ眩しく輝く大きな太陽、おぼろげに優しい光を放つ月、一つ一つは小さいけれど幾千幾万という圧倒的な数でキラキラ輝く星たち…空の主人公たちです。
晴れの日もあれば曇りや雨の日、そして嵐の日もあり、毎日刻々と表情を変え、一つとして同じだったことがない空。
その空に輝く太陽・月・星も毎日姿を変えています。空には果てしないドラマがあるのです。

そして、私たちの世界もまた同じ。同じような毎日でも一日たりとも同じ日はありません。ひとりひとりに果てしないドラマがあります。
ここでは、人一倍空から遠いちっちゃいひろたが、空を見上げるように、低いところからいろんなものを見上げてひとつひとつドラマを探しにいきます。

プロフィール

栃木県出身。NHK宇都宮放送局のキャスター、レディオベリー(エフエム栃木)のパーソナリティを経てフリーへ。
以降ニッポン放送のパーソナリティやリポーターを務めるなどフリーアナウンサーとして活動。
2009年には韓国に語学留学。両国の文化を身につけパワーアップして活動中。

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