2013年、アメリカの実業家イーロン・マスク氏が発表した、次世代交通システム「ハイパーループ」。超高速で目的地へと運ぶこの交通システムは、ロサンゼルスからサンフランシスコまで、車でおよそ6~7時間の距離を、わずか30分で運んでくれるという、まるでSFの世界を形にしたような、これまでの常識を覆す、ハイパースペクタクルな乗り物です。
実際に私たちがお目にかかれるのはもう少し先の話で、今は実用化に向けて、世界中の総勢約120チームが、実際に走らせる乗り物について日々研究を重ねているところです。
そんな中、アジア圏で唯一、一次審査を通過して全世界30チームの中に残った研究チームが、慶應義塾大学。この壮大な夢に挑み続ける研究チームにお話をお聞きしました。
取材に応じてくれたのは、慶應義塾大学大学院の狼嘉彰教授。珍しい名字の教授ですが、「狼」というギラギラしたお名前とは裏腹にとても温和で優しく、でも研究に食らいつく精神はやはり狼のようでもある、そんな魅力的な方でした。
今回はまずご挨拶ということで、改めて研究の概要からご説明いただきました。
慶應義塾大学大学院の研究チーム「KEIO ALPHA」が研究しているのは、ハイパーループの中を走らせる「ハイパーポッド」という乗り物。こちらは筒の中を、ほぼ真空状態にし、磁気浮上によって走らせるというものだそうで、家庭用電気メーターにも使われている「渦電流」を原理にしているとのこと。
今後の研究スケジュールについても見せていただいたのですが、これがなかなかにハード。次のステップに進むまでの流れが、なんと、数日単位で刻まれていました。「時間の短縮はコストの短縮」と教授はおっしゃっていましたが、いい研究をするためにはそれなりにコストが必要で、短期集中型で無駄なく進めていくことが、コストの削減に繋がるといえます。
実際走らせるところも見せてもらいました。立ち会ってくれたのは、狼教授率いるKEIO ALPHAの皆さん。このチームはいろいろな国出身の精鋭たちが集まったチームで、いつも英語で会話しながら、力を合わせて研究に取り組んでいました。
現状走らせることのできる場所が少ないらしく、研究所の一室での走行だったのですが、磁気浮上で車体が浮いて走っていく様子を目にすることができました。
最後に研究者を交えての対談を実施しました。
米国では、軍も民間も若者の夢を刺激し、次々に新しいものを生み出しているが、それに比べて日本は夢が少ないと語る狼教授。そんな狼教授は今、若者たちとともに、世界を股にかける大いなる夢に向かって一歩ずつ研究に取り組んでいます。
70代後半というご高齢でありながらも、年齢を感じさせないほどにエネルギッシュで一途な姿勢。夢を追うことに、大人も子供も関係ない。彼のその姿は、まさに日本人が忘れてしまった何かを思い出させてくれるものでした。
2017年の夢は、「来年には、ポッドの模型を人が乗れるサイズまで拡大して、大型イベントで設置したいですね。子供の国にあるようなトロッコ電車にして、子供たちを乗せて走らせたい。」ということ。
実現したら、間違いなく子供たちに夢を与える乗り物になりそうです。
来年1月には、米国での実験も行われるということで、今後の研究も目が離せません。今後も引き続き、KEIO ALPHAのチャレンジを追っていきますので、お楽しみに。
【取材・文:allnightnippon.com編集部 高野光一】