1966年のドラマ『スタートレック』の放送や、1977年の映画『スター・ウォーズ』劇場公開、そして、『機動戦士ガンダム』は1979年から30年以上にわたって、TVシリーズ、劇場版が作り続けられるなど、壮大な宇宙空間を舞台に、人々を魅了する作品が作られてきました。
今となっては、アニメや映画の中では当たり前の舞台として登場する「宇宙」。現実世界とはどこか遠く、未知のイメージがあり、生活と切り離して考えてしまいがちです。しかし、宇宙分野の第一線で働く方は「ガンダムの世界への扉は、すでに開いている。宇宙船やガンダムを作る時代がくる」と話している方も多いと聞きます。果たして22世紀に“ガンダムの時代”は来るのでしょうか。
大学の研究室で、人工衛星に載せるカメラや、人工衛星をコントロールする計算機など、実際に宇宙に打ち上げるものを開発・製作している東京理科大学理工学部 電気電子情報工学科の木村真一教授にお話を伺いました。
編集部:木村先生の研究室では、宇宙にまつわる研究に取り組まれているとお聞きしました。
木村教授:木村研究室では、宇宙システムとロボットを主な対象にして、システム技術や自律制御技術などに取り組んでいます。ものづくりを依頼されることが多いので、冗談で「木村製作所です」と名乗ることもあるくらいです。人工衛星は打ち上げた後に修理ができないため故障しづらいように作られていて、開発に莫大なコストがかかっていました。ですが、私は大学時代に生物の研究をしていたので「ケガをしてもうまく適応していく」という生物の特性に注目して、「故障してもうまく適応していく」システムを開発しました。IKAROS(イカロス)に搭載されているカメラにも、この木村研究室の技術が使われています。
編集部:小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」といえば、世界初の惑星間ソーラーセイル宇宙機で、また搭載していたカメラも世界最小の惑星間子衛星として、とても有名ですよね。そんな宇宙の第一線で活躍されている木村先生も「ガンダムの時代は来る」とお話をされていると伺ったのですが……そんな夢のような世界は本当にくるのでしょうか?
木村教授:ガンダムの時代は確実に来ます。仮に、ガンダムを作って宇宙空間で動かして対戦させることを考えた場合、本質的な技術的困難はありません。ロボットアームは1997年から日本は作れています。宇宙空間で動くロボットは、既にあるんです。関節もありますし、アームを動かすことも出来ます。アームを動かしてもボディが動かないようにコントロールする技術も、1990年代に出来ているんです。それから、燃料をつかって移動する技術については、“はやぶさ”の電気推進エンジンも出来ているし、宇宙空間で燃料を使って動かす技術はすでたくさんあります。ただここに、量の問題があります。あの大きくて重たいガンダムを打ち上げて、宇宙へ持っていけるかというと、今は出来ません。ですが、宇宙で組み立てることが出来るわけです。
編集部:組み立てる……つまり、合体させるということですか?
木村教授:宇宙空間で合体技術は、すでに実現出来ています。国際宇宙ステーションはたくさんの部品を何回にも分けて宇宙に運んで合体させることで組み立てています。ただ、大くて重たいガンダムを作り上げるには“量”が増える必要があります。つまり、多くの方が、それを作りたいと思うかどうかなんです。ガンダムの時代がくる、みんなで頑張ろう、と思ったら一気に発展します。日本の規模はまだ小さいですが、世界的には、宇宙に携わろうという人や宇宙でビジネスをしようという人はとても増えています。
編集部:アメリカの民間企業「スペースX社」のようなイメージでしょうか?
木村教授:スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)は、宇宙開発のベンチャー企業からのスタートなんですよ。政府からの投資があっての民間企業ですが、NASAではなく、宇宙開発ができる会社が生まれたということです。人工衛星はさまざまな使われ方をされていて、とても小さなものであれば値段も低くなってきました。そういうことに目をつけた方々が小さな衛星をたくさん上げて、宇宙から災害や渋滞の状況を見たり、通信サービスを始めようとする方が生まれてきています。
編集部:宇宙に関するビジネスが増えても、文系のひとが宇宙関連の仕事をするというのは難しい話ですよね?
木村教授:いえいえ、宇宙システムを実現するにはいろんな工夫が必要で、研究者や技術者のものだけではないんですよ。色々なかかわり方があって、アプリケーションや産業として宇宙を広げていくためには、新しい利用の企画や経済学、宇宙イベントや宇宙プロモーション、それから「法学」で宇宙にかかわることもよくありますよ。「宇宙法」は宇宙開発の中でとっても重要な話題で世界中で議論されています。
編集部:もう、既に宇宙法があるのですね?
木村教授:宇宙法の研究者もいますよ。そういうのは法律の知識がないと、私たちではとても太刀打ちできませんからね。大学の先生が色んな分野で宇宙の研究をしていますから、宇宙とのかかわり方は幅広く、誰にでも宇宙ビジネスをするチャンスがあります。
編集部:たくさんの人が宇宙に関心を持てば、ガンダムの世界がより近づきそうですね。
木村教授:皆さんがイメージするあの大きなガンダムを使った世界はまだ難しいですが、小さいものならば実現できます。
編集部:小さいとは、どのくらいの大きさですか?
木村教授:ガンプラほどの大きさですね。私はこれを宇宙へ持っていって、対戦させてみたいです(笑)
編集部:先生、目がすごく輝いています(笑)。仮に、その小さなガンダムを宇宙へ持っていって、どんな対戦ができるのでしょう?ワープしたり、剣を振りかざしたり……
木村教授:宇宙空間を飛び越えるワープは、さすがに物理的に難しいですが、他の機能に関しては知恵の絞りどころですね。どのくらい小さく、きちんと、賢く動かすかなので、小さく作る発想が必要になります。宇宙で1番お金がかかるのはロケット代ですから、ガンダムが軽くて小さければ小さいほど実現できる可能性が高くなります。
編集部:現状では、小さなサイズのガンダムの世界が精一杯かもしれませんが、多くのひとが宇宙に関心を持てば、アニメからイメージする巨大なガンダムの世界も不可能ではない、ということですね。そんな、ますます身近になってくる「宇宙」の世界を子供たちにも感じてもらうため、木村先生は8月に宇宙教室を開かれるのだとか?
木村教授:そうなんです。日本で最も星空が美しい、といわれている南信州で、宇宙でも使えるカメラを作ります。木村研究室では、小惑星探査機「はやぶさ2」や小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(イカロス)」に載せられるカメラを作ってきたので、これを子供たちと一緒に作ります。扱うキットに宇宙で使えない部品は1つもありませんから、作ったらそのまま宇宙へ持っていけます。そして、宇宙教室で作ってもらったカメラの中から1つ、実際に宇宙へ持っていきます。
編集部:本物の宇宙カメラをみんなで作って、そこから宇宙を感じよう、というイベントなんですね。でも何故、レプリカではなく、本物を作ることにしたのですか?
木村教授:私たちは衛星に載せるものを色々と作ってきましたが、自分たちが作ったものが実際に宇宙へ行くことにいつも感動します。これは教育としても凄く意味があると思ったんです。私たちの周りにある、あらゆる物は誰かが考えて作ったものです。それを実際に自分たちで作ってみると、どうしてこんな風に作ったのか、どのようにして作ろうかと考えます。そして、作られたモノに対して敬意を払い、大切に扱うようになるので自分たちで作ることはとても大事なことだと思っています。
編集部:宇宙教室でのカメラ作りは、皆でどんなことを考えながら作っていくのでしょうか?
木村教授:この教室で作るカメラは「IKAROS(イカロス)」に乗せたものとほぼ同じものを作ってもらいます。宇宙へ持っていきますから、真空でも動くか?放射線が当たっても大丈夫か?ロケット激しい振動でも壊れないか?そういったことを皆で考えながら作っていきます。
編集部:組み立てるだけではないのですね!完成したカメラはいつでも宇宙へ持っていけるし、宇宙で使えるものをどのように作ればいいかも一緒に分かりますね。宇宙は遠い存在、技術者のもの、大人たちのもの、そういったイメージがありましたが、宇宙へのチャンスの扉はたくさん開かれていたのですね。私もこれから、宇宙に目を向けて注目していきます。素敵なお話をしていただき、ありがとうございました。
木村教授:ありがとうございました。
☆東京理科大学木村研究室HP
http://www.kimura-lab.net/
取材:allnightnippon.com編集部 望月知世