ミュージックシーンの出来事をカレンダー形式で日替わりでお送りしている「大人のMusic Calendar」では、特別レポートして、クラブチッタの30周年記念「Flying KITTY Party 2018」(10月4日~7日)の模様を紹介する。3日目の10月6日は、「SATURDAY NIGHT ROCK SHOW」と題し、仲井戸“チャボ”麗市率いる豪華なメンバーでRCサクセションの名盤『ラプソディー』のトリビュートライブが行われた。RCサクセションの元マネージャーで『あの頃、忌野清志郎と』の著者である片岡たまきがそのライブをレポート。
1988年、クラブチッタが川崎駅前に誕生。この年、時代の流れによって大型ライブスペースが続々と作られたが、なかでもチッタは1,300人と最大規模。当初より企画運営に携わったのがキティグループだった。30周年記念「Flying KITTY Party 2018」の3日目、「SATURDAY NIGHT ROCK SHOW」(10月6日)を観てきた。
満員の客席は、すでに「待ちきれない」ファンの期待で会場の温度は確実に上昇している。
照明が落とされ、ルイ・アームストロング「ビビディ・バビディ・ブー」のSEに乗って登場したのは、キティアーティストに所属していた「バービーボーイズ」の杏子とKONTA。そして彼らのバンド「BBD BARBE de BAND(ビビデ・バービデ・バンド)」だ。
妖艶でかつエネルギッシュな杏子と、ソプラノサックス&ボーカルのKONTAのツインボーカルは、エッジが利いた演奏にのせて、ふたりのコーラス、層を成していくようにたたみかける掛け合いが独自の世界。杏子はフリルのスカートの裾をヒラヒラさせてステージを駆け巡り、ファンを煽る。演出なのか、地なのかと、ハラハラした場面があった。次の曲に入らずに、客席に背中を向けたまま無音の数分。客席はシーン。KONTAがやっと割って入り「…この沈黙が最高の贅沢だと思うよ」「いつまでも待っていなさい」と、あっけらかんと放った。曲調は、転調はげしく難解コードを多用するバービースタイル。「女ぎつねon the Run」、「負けるもんか」「なんだったんだ?7DAYS」など、個性的なステージ展開で10曲を披露した。
会場に流れる「「FA-FA-FA-FA-FA(Sad Song)」と重なって、客席からコールが起る。「チャボさ~ん!」「片山~!」と、サックスの片山さんはなぜか呼び捨て(笑)。「THE RHAPSODY ONLY CLUB CITTA BAND」のメンバーがステージにあがり、チャボがユルく「こんばんは。よく来てくれた。土曜の夜だぜ、楽しもう!」と客席に声をかけた。
1曲目「よォーこそ」のイントロが流れると、会場中、声援の嵐。それに押されるように、キラキラの衣装、青いアイシャドーで目を縁取った、なんともビミョーなニセ清志郎が登場! よく見るとワタナベイビーだ。センターでカマすジャンプに見入ってしまい、どうなるんだ! というコワいものみたさもあり。完璧な演奏に乗るベイビーの「ニセ」ぶりがいい。メンバーを歌で紹介するニセ清志郎。「♪ギターは、仲井戸麗市、チャボ!!」「このメイクをすると、チャボさんのことを呼び捨てにできるんだぜ!」と強気発言。続いて「♪チャボバンドを隣の席でみたことがある」と、ベースの岡本定義。きっちりリズムを刻み、赤いボーダーのTシャツ、赤いパンツ、赤々づくしがステージによく映える。次に、ドラムスのあらきゆうこ。「♪掌を返すとはこういうことだ。オノ・ヨーコバンドでドラムを叩き始めてから態度が変わった!」と、笑いを取りつつ紹介。ドラムプレイは圧巻。そして、RCサクセションを当時から支えたテナーサックス「ブルーデイ・ホーンズ」の片山広明。「♪ドクターストップなのに、お酒をコソコソ飲んでる」と暴露。目の覚める爆音、さすが艶々の音色だった。「♪キーボードロボットのさかいゆう」。当時のGee2woしかり、キーボードロボットにされてしまった。ベイビーは、「♪ワワワワ、タッタッタ、ナァナァナァ、、、」とリズムをきざんで「ワタナベイビー!」と自己紹介。歌詞アレンジが抜群の「よォーこそ」だった。
2曲目は、MAGUMIのボーカルによる「ラプソディー」。丁寧で存在感のある強い歌声に聞き入る。
チャボがチッタにむけてお祝いを言い、そして、「残念なお知らせをしないと」と続けた。客席は一瞬沈黙。「僕たち、、、今夜解散します」で、爆笑。「長い間ありがとう」。一気に笑いと拍手に包まれステージと客席が一体化していく。「ボスしけてるぜ」をラプソディバンドで披露した。
次は、「奄美の歌姫、ソウルシスター、元ちとせ~!」。黒い衣装に真っ赤なピンヒールのパンプスが小さく光っている。初期のRCサクセションアレンジで「お墓」。元ちとせのコブシとさかいゆうのコーラスが素晴らしい。
上手からブルースハープを奏でながら山崎まさよしの登場。「当時、新生RCサクセションを固めてるとき、『なぁ、清志郎、アコーステックの曲も欲しいなぁ』って、生まれた曲です」とチャボの曲紹介、山崎まさよしはアコギで「エンジェル」を歌う。チャボは山崎のことを、「滋賀県生まれの山口育ち。ポールマッカトニー本人の前で『All My Loving(ビートルズ)』を歌った男! ピックもらって欲しかった…」と紹介して、会場爆笑。
続々と歌い手が登場する。イントロが始まると、「イントロ当てクイズ」と「ボーカル当てクイズ」を同時にしてしまう。
「太陽の男、ミスター・SOLAR BUDOKAN(佐藤タイジがプロデュースするソーラーエネルギーによるイベント)!」。タイジが歌うは「エネルギーOH エネルギー」。ピッタシの選曲。
ピアノのイントロが流れ出し、さかいゆうが言う。「みんなの歌、『スローバラード』。…心を込めて歌うしかできないので、一生懸命歌います」と。よくのびる歌声、タイジのコーラスとチャボのギター、心のこもったあたたかい曲に仕上がった。
ここで、チャボが「清志郎、聴いてるよ」と天を指す。あの仕草を見るといつのときにも元気が湧くのだ。
さて、なんとサプライズゲストの森高千里がドラムを叩く。「MAGUMIにブチかましてもらおーぜ」と、曲は「キモちE」だ!!「初めて観たライブがRCでした!」とMAGUMIが言うと、「おお~!」と答える客席。「オレのガラの悪い友だちが暴れて、ライブが中断しました!」。「おお~」とチャボ。
「マイオールドフレンド! しょうがない、紹介するか。竹中直人!」。ストーンズのくちびるアイコンが全面にプリントされたスーツがメッチャ似合う。杏子は一転してカウガールふうミニスカート。曲は「たとえばこんなラヴ・ソング」。竹中さんは、内股でヘンなステップを踏みながら、「♪お前が好きさ」のところで、客席を指差し、チャボはふたりを、「平成の『ヒデとロザンナ』」と笑わす。
エンディング曲は、総勢13人による「いい事ばかりはありゃしない」だ。
1コーラスずつボーカルを回し、なにしろ全員がボーカリストという豪華な布陣。女性コーラスは、杏子、元ちとせ、森高千里だ。どこを見ても楽しい。竹中さんは千鳥足の演技をしつつ「♪吉祥寺あたりでゲロはいて」で、メチャ吐いているし。それをベイビーが介抱してるし。上手も下手もセンターもなにかしらが起ってる。
アンコールは、アルバム『RHAPSODY』のジャケットがプリントされたTシャツを着た出演メンバー全員で「雨あがりの夜空に」の大フィナーレ。
チャボが語り出す。「80年にキティレコードがRCサクセションを拾ってくれた」と。『RHAPSODY』をリリースした経緯や、その時代のエピソードを含めて、「オレも清志郎も、お礼を言ったことがなかったんだ。ありがとう!」と言い、当時のスタッフであった宗像“ムナさん”和男氏、今回の発起人、森川“ジャイアン”欣信氏を大いに讃えた。
今夜は、バンドメンバーがまるで家族のような、兄弟のような安堵感のあるライブを観た。途中、チャボがMCでポツリと、「あぁ、なんとなく思い出してきたなー、いろんなこと」と言ったが、そういう緩やかな時間が、こちらにも伝わってきたのかも知れない。
チャボは「来週もやっちゃう! 毎週やってたらスゴいな」と笑わせた。
【著者】片岡たまき(かたおか・たまき):RCサクセション好きが高じて、同バンドの80年代をスタッフとして支える。マネージャー&衣裳係&ファンクラブ会報誌の編集を担当。RCサクセション活動休止後、金子マリのマネージャーとして活動。現在、14人編成のアコースティック・オーケストラグループ「パスカルズ」のスタッフ。著書に『あの頃、忌野清志郎と —ボスと私の40年—』(宝島社)