トランプ大統領がシリア撤退を決めた本当の理由

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(12月21日放送)に外交評論家・キャノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。アメリカ軍のシリア撤退について解説した。

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米軍、シリア撤収作業開始 シリア北東部ハサカで、クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」と警戒に当たる米兵=2018年11月4日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

アメリカ軍のシリア撤退~トランプ大統領が「驚くことではない」とツイート

アメリカのトランプ大統領は20日、シリアからのアメリカ軍撤収の判断について、「私が長年主張してきたことで、驚くことではない」とツイートした。「IS(自称イスラム国)が敵対するのはロシアやシリア、イランなどだ」と指摘した上で、「アメリカはこれらの国々のために負担してきた。アメリカ国民の生命を犠牲にし、何兆という金を払いながら、感謝されたことはほぼない。見返りのないまま中東での警察官の役割を続けたいだろうか」と述べている。

飯田)このニュースですが、各地で大きく報じられております。宮家さんは中東を回って来られましたが、どうお考えでしょうか。

宮家)トランプさんは何もわかっていないのですよね。「長年主張して来たから驚くことではない」って、長年主張しているから驚くべきことなのですよね。問題は「感謝されない。金を払っているのに見返りがない。警察官をやってもしょうがない」と、そういう考え方もあるでしょう。だけど、ロシアとイラン以外の世界中はみんなハッピーなのですよ。シリアもハッピーです。この人はわかっていないのだけれど、戦略的な方向性を示しているのだとしたら、もしかしたら意味があるのかなという感じがします。
いまアメリカの戦略的に物事を考えている一部の人にとって、人口の減っているロシアは大したことはないのですが、中国がいちばん強いわけです。そして中東で戦争を何十年やったって、結果は出ないのです。アフガニスタンで戦争をやったって、ロシアだってイギリス、インドだって、どこの国も全部失敗しているのです。こんなことを何十年やっても良いことはないので、もう止めて出て行きなさいと言う人たちもいるわけです。ロシアとある程度握って、中国をしっかり見据えなさいと言う人がいるので、その発想からするとシリアから撤退するのは1つの考え方なのですよ。
これが正しいとは言いませんが、そういった形で見ている人がアメリカのなかにいることも忘れてはいけません。その上で何が問題かと言うと、たった2,000人とは言っても、相当な精鋭部隊を入れているはずなのですよ。いわゆる特殊部隊ですよね。彼らが抜けるということは、彼らが支持して来たクルド系を含めて大きな力の真空ができますよね。その真空がどうなるかと言うと、恐らくトルコとシリアとイランとロシアが埋めてしまうということです。そのときにそれが安定に向かうかと言うと独裁が強まるので、独裁者が生き残るのが安定かは分からないけれど、クルドの後ろ盾であるアメリカがいなくなることになれば、バランスが崩れて大惨事になります。
それがシリアの国内だけで封じ込められれば良いけれど、必ずこぼれて出て行きます。その問題を考えると、ただ単にシリアの不安定化だけでなく、シリアの隣国への影響は避けられません。既にイラクは相当おかしくなっちゃっていますよね。シリアがこうやって混乱して来るときに、その周辺の国々が非常に心配なので、多くの専門家やアメリカの共和党の上院議員ですら「おかしい」と言っているのだから、本当はもう少しよく考えてやって欲しい気はしますよね。ただ残念ながら、トランプさんがこのような決定をするときは、必ず目くらましでやっています。

この撤退はロシアゲートの追求から逃れるための苦し紛れの行動か

宮家)先週はホテルに居ることが多かったので夜寝られなくて、CNNを見ていたのです。そうすると、もう滅茶苦茶ですよ、ロシアゲートの関係で。トランプさんってこういうときには必ず苦し紛れにやるのです。

飯田)国内で追及が厳しくなると。

宮家)いまはアメリカ合衆国政府機関が閉鎖しますから。

飯田)下院でつなぎ予算が否決されたという情報が入って来ていますね。

宮家)それで彼はサインしないと言っているから、どっちみち大混乱になるわけです。こういうときに衝動的なものをやって良いのかと思いますが、この人らしいなとつくづく思います。

飯田)クルド人の話が出ました。国を持たない最大の民族と言われます。トルコにもいて、イラクの北部やイランの一部にもいます。そうなると、それらの国々にもいろいろと波及があるわけですか?

宮家)各国でまた微妙に部族が違いますから、完全に連帯しているわけではないのですが、イラクの場合にはクルドで自治区を作っていて、イランでは封じ込められているかな。いろいろですよ。それが直ちにおかしくなるわけではないと思います。

アフガニスタンの派兵も大幅削減の予定

飯田)そしていま入って来た情報ですが、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルが報じたところによると、20日、トランプ政権がアフガニスタンに駐留するアメリカ兵およそ14,000人も大幅削減を検討しているということです。早ければ1月中にも帰還を開始すると。

宮家)先程も申し上げた通り、アフガンとかイラク、シリアからはもう出て行かなきゃ、戦ったってどうにもならないんだから、とトランプさんに誰かが吹き込んでいるのですよ。米軍の関係者はみんな反対ですよ。いわゆる伝統的な安全保障政策の担当者たちもみんな反対だと思います。当然です。ですが、トランプさんはそうじゃない可能性があるということです。

飯田)アメリカの軍をよく知っている人たちに、ケリーさんという補佐官が年内で辞めるという話になっています。ケリーさんやマティス国防長官などが、プレゼンスを無くして来ているわけですか?

宮家)ケリーさんは首席補佐官ですから、どちらかと言うともっと国全体のことを見なければいけないので、個々の問題はマティスさんだと思うけれど、マティスさんはじっと貝のように黙っていますから。喋ったら下手をすればクビになっちゃうから。彼がいなくなると困るので、長くいて欲しいなと思うけれど、なかなか実務の人たちが声を上げにくい状況にあるのは事実です。

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