巨人・阿部慎之助選手 試合前、地面に「冷静」と書いた理由
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、26日に行われた練習試合で、久々にキャッチャーとして先発出場した巨人・阿部慎之助選手のエピソードを取り上げる。
「特に何も書いていない。地面いじってみました」(阿部)
ジャイアンツの「扇の要」が帰ってきました。26日に沖縄セルラースタジアム那覇で行われた、中日との練習試合で、巨人・阿部慎之助が「9番・捕手」で先発出場。試合でマスクをかぶったのは、2016年3月20日、西武とのオープン戦以来、実に3年ぶりのことでした。
試合前から「ド緊張だよ」と漏らしていた阿部。「キャッチャー・阿部」のアナウンスが球場内に響き渡ると、阿部はホームベース後方にしゃがんで、地面に何やら文字を書きました。「特に何も書いてない」とごまかしましたが、実は「冷静」と書き込んだのです。
自分を戒めるように書いたこの一言。バッテリーを組んだ相手は山口俊でしたが、久々のスタメンマスクにもかかわらず、サインの交換や、守備陣形の指示、的確なリードなどは“冷静”そのもの。3イニングを1失点で乗り切りました。投手陣も、経験値の高い阿部の捕手復帰を歓迎しています。
「勉強になる部分はたくさんあると思う。ゲームのなかで見てもらった感覚を聞いて、次につなげられたら」(山口)
打っても、2回2死で打順が回ってきましたが、中日先発・大野雄大の外角の真っ直ぐをレフト前へ。9番での出場はほとんど経験がない阿部ですが、
「少ない打席だと思っていた、1本、どんな形でも結果が出てよかった」
とホッとした様子。原監督も、
「水を得たギョ(魚)のよう。打ち取られたように見えたけど抜けていく」「非常にはつらつと動いていましたので、そういう点では、私のなかでは非常に良かったです」
と、独特の言い回しで阿部を讃えました。
阿部が3年ぶりの捕手復帰を決めたのは、昨年11月のこと。原監督に自ら電話して、捕手復帰を直訴したのです。
「あと1、2年で現役が終わるかもしれない。最後はキャッチャーで終わりたい」
とはいえ、小林に加え、バッティングに定評のある大城、そしてFAで西武から新加入の炭谷と、巨人の正捕手争いは熾烈を極めます。ブランクのあるなか、そこに割って入るには、阿部といえども並大抵のことではありません。1月のグアム自主トレでは下半身をもう一度鍛え直し、2月にキャンプインすると、毎朝、全体練習の前にブルペンに入って、捕球練習を繰り返しました。
自主トレからキャンプまで、ずっとパートナーを務めてくれたのは、かつてバッテリーを組んだこともある朝井秀樹打撃投手(近鉄→楽天→巨人、2012年引退)。試合前日の25日は休養日でしたが、阿部は休日返上でブルペンに入り、朝井打撃投手の生きた球を受けて調整しました。
「本当に感謝している。あいつのサポートがなければ難しかった」(阿部)
1軍のキャッチャーの枠は「3」ですが、4人の候補のうち誰を選ぶかは原監督次第。指揮官は、阿部の捕手復帰についてこう語っています。
「キャッチャーで勝負(させる)。仮にまた『慎之助、ファーストいくぞ』と言ったら、チームは後退している」
1塁や代打専門で起用するのではなく、あくまで「捕手」として使う……もちろん阿部本人もそのつもりです。
「どうやってチームに貢献するか。それだけしか考えていない」
2014年以来、ペナントから遠ざかっている巨人。5年ぶりのV奪回は至上命題です。原監督にとって、前回監督時に、正捕手として2度の3連覇に貢献してくれた阿部の力は絶対に必要。3月20日に40歳の誕生日を迎える阿部ですが、キャンプで体をいじめ抜き、退路を断って「開幕スタメンマスク」を狙います。