アメリカの巡洋艦が台湾海峡通過~台湾を巡る米中それぞれの思惑
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月26日放送)に外交評論家でキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。アメリカ海軍の巡洋艦が台湾海峡を通過したニュースについて解説した。
台湾は中国の核心的利益の一丁目一番地
アメリカ海軍第7艦隊に所属するミサイル巡洋艦『アンティータム』が現地時間24日から25日にかけ、台湾海峡を通過したことが発表された。第7艦隊のクレイ・ドス報道官は声明のなかで、自由で開かれたインド太平洋へのアメリカの取り組みを示すものだと説明している。一方、中国外務省の華春瑩(カ・シュンエイ)報道局長は25日の記者会見で、台湾問題は中国とアメリカの関係で最も重要で敏感な問題だと指摘し、アメリカ側に抗議したことを明らかにした。
飯田)この間、『国防白書』を中国側が発表したばかりです。そこで台湾については、武力によって1つにすることも辞さないと。
宮家)中国の核心的利益の一丁目一番地ですから、中国もこれは武力を使ってでもやりたいでしょう。私の理解が正しければ、2000年を超えたころから、もしアメリカが助けに来なければ、中国は台湾をおそらく独力で武力解放できるようになったといわれています。あれから20年近く経っているわけですから、もう状況は大きく変わりました。台湾海峡の問題には歴史があって、1996年に台湾で初めての民主選挙、総統選挙があった。それに対し中国が威嚇して、ミサイルを2発放った。そのときにアメリカは空母機動部隊を台湾海峡に配置し、「何もできないだろう」と中国に対して威嚇をしました。実際に中国はそのあと何もできなかったのです。これがずっとトラウマとして残っているに違いない。
その後中国は何をしたかと言うと、空母キラーと呼ばれる弾道ミサイル、しかも中短距離の、非常に高速でターゲットに突っ込む誘導ミサイルを開発しました。空母にとってこれはなかなか防衛しにくい。ミサイル防衛が難しいので、いまや台湾海峡でもしも有事になって、空母が96年当時のようにのんびりとどんぶらこっこと通過していると、やられてしまうと思いますよ。そういう状況になったのでオバマ政権のころにはもうほとんど台湾海峡にタッチしなかったし、そうした状況は南シナ海も同じだったわけです。その後、トランプ政権になって状況が少し変わりましたね。ですから今回は中国が抗議をするのは当たり前で、中国にとってはアメリカがついに戻って来たか、ということなのですよ。
飯田)先日、シンガポールで行われたシャングリラ会合に合わせるような形で、インド太平洋戦略の報告書が出ています。そこには価値観について踏み込んでいるところがあって、自由や人権であるとか法の支配など、そういったものを守るためにもアメリカの軍隊は行動するのだと。そうすると米中の対立のフェーズは、価値観のところまで踏み込んだ形になって来ます。
台湾海峡での中国優位は変わらない
宮家)米中は昔から価値観が全然違いますが、最近では自由で開かれたというキャッチフレーズを、アジア太平洋ではなくインド太平洋と広げましたから、これは中国から見れば包囲網に見える。あんなに大きい国を包囲できるわけはないのですが、包囲網に見えるから、アメリカの出方が一段と厳しくなったと感じるのです。しかし台湾海峡について言えば、中国の軍事的優位は変わりません。今回のようにデモンストレーションをやって巡洋艦が通過したところで、それが米中の力関係を変化させることにはなりません。米中で我慢比べをやっているということですね。
飯田)いまの台湾政府としては、そうであってもアメリカを引き込んでけん制しておかないとならない。
宮家)そうです。最近アメリカはまた武器を売ってくれているし、いまのところはいいのです。しかし、これからトランプさんがいなくなったらどうなるか分からないですし、まだまだ台湾は安泰ではないですね。
飯田)そんななか、総統選も来年の頭にはあるというのが台湾です。
飯田浩司のOK! Cozy up!
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