2軍に落としたラミレス監督の梶谷への思い
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は9月19日の広島戦で5打点の大活躍、劇的なサヨナラ勝利のお膳立てをしたDeNA・梶谷隆幸選手にまつわるエピソードを取り上げる。
「最高です! 自分がいちばん興奮しているくらい、いい1本でした」(梶谷)
19日、横浜スタジアムで行われたDeNA-広島戦。逆転優勝に望みをつなぐ2位・DeNAは、必勝を期してエース・今永を先発に立てましたが、まさかの7失点を喫し5回途中でKO。6回の攻撃を迎えた時点で0-7と敗色ムードが漂うなか、ベンチで坪井打撃コーチが選手たちにハッパをかけました。「元気がないぞ! もっと声出して行こう!」。
その効果もあってか6回ウラ、5回まで無失点の広島先発・床田に、ベイスターズ打線が襲いかかります。
1死一・二塁から、まずセ本塁打・打点トップのソトが、反撃のノロシを上げる41号3ラン。これで4点差とすると、嶺井・大和が連続ヒット、さらに中井が四球を選んで、1死満塁のチャンスを作ります。ここでラミレス監督が代打に送り出したのが、梶谷でした。
広島2番手・九里のカーブを振り抜くと、打球は右中間スタンドへ飛び込む代打同点満塁弾に! その瞬間、ハマスタは大歓声に包まれました。しかもこの1発は、梶谷にとって通算100号のメモリアルアーチだったのです。
「プロに入ったときは(100本も)打てると思わなかったので、そこがいちばんの驚きです。100号が価値のある1本で、最高に嬉しい」
梶谷の活躍は、この1発だけではありませんでした。そのまま外野の守備につき、8回表に磯村の右中間に抜けそうな当たりを走りながらスーパーキャッチ。この回、DeNAは1点を勝ち越されましたが、8回ウラ、梶谷は同点二塁打を放ち、試合を再び振り出しに戻しました。
試合は8-8のまま延長戦に突入し、11回、DeNAはソトの42号サヨナラ3ランで劇的なサヨナラ勝ち。巨人が中日に敗れたため、その差は3ゲームに縮まり、奇跡の逆転Vに望みをつないだのです。
2発6打点、試合を決めたソトがいちばんのヒーローですが、この大逆転劇は、2度にわたる同点打を放ち、5打点を挙げた梶谷の存在があってこそ。ラミレス監督はまさに、こういう働きを期待していたのです。
梶谷は、田中将大・前田健太・坂本勇人らと同じ1988年生まれの31歳。俊足巧打、抜群の身体能力を誇り、2014年には盗塁王のタイトルを獲得。2017年には21本塁打を放ち、CS突破・日本シリーズ進出にも貢献しました。しかし、たび重なるケガに泣かされ、昨年(2018年)は右手首に死球を受けて骨折。右肩の手術も受け、シーズン終盤を棒に振りました。
オフに結婚、心機一転臨んだプロ13年目の今シーズンでしたが、「1番・センター」で開幕スタメンに名を連ねながら、7試合でわずか1安打。結果を残せず、4月8日に早々とファーム落ちしました。4月下旬、再び1軍に昇格しますが、代打で7打席連続ノーヒット。スタメンでも結果を残せず、5月6日、再びファームへ。ここから長い2軍暮らしが続くことになります。
ラミレス監督は、最初に梶谷を登録抹消したとき、理由をこう説明しました。
「彼は途中から出る選手ではなく、スタメンで出る選手。2軍で最初からゲームに出て、状態を上げてから帰って来てほしい」
梶谷は体調さえ万全なら、必ずチームに貢献してくれる選手。しっかり再調整して、優勝を争う時期になったら、また力を貸してほしい……2度にわたるファーム落ちは、厳しいようで、実は指揮官の期待が込められた計らいだったのです。
3ヵ月後、そのときがやって来ます。8月23日、巨人との直接対決で、梶谷は久々に1軍復帰。そのとき貧打にあえいでいたチームの起爆剤として、「1番・ライト」で即スタメン出場。今季1号2ランを含む2安打を放ち、勝利に貢献しました。
「こういう舞台でやれる、幸せな感情があった」
試合後、そう語った梶谷。DeNAの外野手争いは熾烈なため、復帰後は代打での出場も増えていますが、痺れるような場面でラミレス監督が起用してくれることを、梶谷は何より意気に感じています。目指すは、まだ味わったことのないリーグ優勝。
20日からは、サヨナラの余韻が残るホーム・横浜スタジアムで巨人と2連戦。巨人が連勝すれば5年ぶりのVが決まりますが、DeNAがもし連勝するようなことがあれば、その差は1ゲーム。まだまだ何が起こるかわかりません。
「みんなの気持ちが乗ったゲーム。とにかく、優勝だけを意識して必死に頑張りたい」
苦難を乗り越えて来た男・梶谷が再び奇跡を起こすのか? それとも巨人が宿願を果たすのか? 20日からの直接対決、注目です。