ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月12日放送)に慶應義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一が出演。北朝鮮が10月10日に行った軍事パレードについて解説した。
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10日未明に平壌で行われた軍事パレードに登場した新型大陸間弾道ミサイルとみられる兵器。10日付の北朝鮮の労働新聞が掲載した(コリアメディア提供・共同)=2020年10月10日 写真提供:共同通信社
北朝鮮が深夜に最大級ICBMを公開
北朝鮮は朝鮮労働党創建75年を迎えた10月10日深夜0時から、軍事パレードを行い、大陸間弾道ミサイル(ICBM)級と見られる、新型のミサイルを登場させた。軍事パレードは2年ぶりで、金正恩委員長は演説でアメリカを名指しすることは避け、「自衛的な戦争抑止力を引き続き強化して行く」と述べた。
飯田)「北極星4」と記された、潜水艦発射型の弾道ミサイルも登場したということです。深夜にこういうことをいきなりやるということに驚きました。
細谷)メッセージは比較的明確でして、ICBMは、アメリカに向けての大陸間弾道ミサイルですから、直接アメリカを攻撃するミサイルです。2018年に金正恩委員長がトランプ大統領と首脳会談を行い、その後の2年間、北朝鮮はアメリカを挑発することは避けて来ました。日本や韓国を威嚇するということはありましたが、ICBMを誇示することはありませんでした。トランプ大統領と首脳会談を行ったことについては、北朝鮮国内でもいろいろ反発があったようですが、トランプ大統領との間で交渉が進むのではないかということで、金正恩委員長は賭けに出たわけです。しかし、その後、米朝の動きは完全に止まってしまいました。国内のなかで、「金正恩委員長の判断は正しかったのか」という異論が出ていてもおかしくない状況です。
飯田)なるほど。
細谷)トランプ大統領の任期が終わる可能性もありますから、それまでに前進しなければ、米朝の会談は失敗だったという評価になってしまいます。ですから、北朝鮮としては、どうにかトランプ大統領がいる間に動かしたい。ところが、トランプ大統領自らがコロナウイルスに感染してしまいましたから、とても北朝鮮と交渉する余裕はありません。それで、北朝鮮は「核抑止力がある」ということを誇示することを進めたということだと思います。
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2020年4月11日、北朝鮮・平壌で開催された朝鮮労働党政治局会議で話す金正恩党委員長(朝鮮中央通信=共同) 写真提供:共同通信社
アメリカからの援助や投資によって経済発展するのならば、核抑止力を抑制する~経済発展は進まず、中国への貿易依存に戻った
飯田)北朝鮮にとっては、アメリカとの関係がメインになっていますが、そのなかで、日本や韓国がやれることは限られていますが。
細谷)ほとんどないでしょう。あくまでも北朝鮮はアメリカしか見ていません。北朝鮮は核抑止力というものを構築することと、経済発展することの両方を天秤にかけていたのです。経済発展ができるのであれば、ある程度、核抑止力開発を抑制してもいい。アメリカや、韓国、さらには日本からさまざまな援助や投資を期待したのです。ところが、この経済発展は進んでいません。むしろ、以前と同様に中国に9割以上の貿易依存をしているということですから、中国との関係を重視したまま、核抑止力を構築するという路線にまた戻ったということだと思います。
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米朝首脳会談 ドナルド・トランプ米大統領、金正恩朝鮮労働党委員長、米朝首脳会談、拡大会合、第2回米朝首脳会談、アメリカ、北朝鮮=2019(平成31)年2月28日、ベトナム・ハノイ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社
2017年とは異なる中朝関係
飯田)そうなると、金正恩委員長は中国との関係を断とうとして、自分の義理の叔父であるチャン・ソンテク氏を粛清したということも言われていますが、その路線に戻ったということで、国内の動揺はないのですか?
細谷)2017年に中国がアメリカに歩み寄って、ある意味では、北朝鮮に圧力をかける方向に動いたことに、北朝鮮は非常に怒りました。中国に浮気をされたわけです。ずっと自分を愛してくれると思ったら、浮気をされた。それで、いきなりアメリカにすり寄って、「あなたが優しくしてくれなかったら、自分たちもアメリカに寄るよ」ということになったのです。北朝鮮は中国から見たら緩衝地帯で、一定の影響力が浸透するということが中国には利益なのです。北朝鮮がアメリカに接近することは好ましいことではなく、中国は中朝関係改善に動きました。いまは、2017年のころとは、状況が変わっているということだと思います。