由伸・坂本・菅野も受賞 「新人特別表彰」列伝

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、12月21日に契約更改を行い、大幅アップを勝ち取った巨人・戸郷翔征投手と「新人特別表彰」にまつわるエピソードを取り上げる。

由伸・坂本・菅野も受賞 「新人特別表彰」列伝

【プロ野球巨人】契約更改を終えサンタクロース姿で撮影に応じる巨人・戸郷翔征=2020年12月21日 東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

「初めて1軍で1年間戦った。今年は勢いで行けましたけど、来年(2021年)は研究されて行くと思う。“(実質)2年目のジンクス”を打破できるよう頑張りたい」

今季(2020年)は高卒2年目で開幕ローテーション入りを果たし、9勝6敗、防御率2.76と申し分のない働きを見せた20歳の戸郷。2ケタ勝利はなりませんでしたが、チーム内ではエース・菅野智之に次ぐ勝ち星を挙げ、リーグ優勝に大きく貢献しました。

12月21日、契約更改に臨んだ戸郷は、今季年俸の650万円から1950万円アップの年俸2600万円でサイン。使途について聞かれ「釣りが大好きなので、釣り竿を買います」と答えた戸郷。本業でも、年俸300%アップ(4倍増)という大魚を釣り上げました。

戸郷はプロ1年目の昨季(2019年)、シーズン終盤に1軍デビューを飾り、レギュラーシーズン2試合に登板。「前年までの1軍登板イニング数が30イニング以内」のため、2年目の今季も新人王資格を持っていました。しかし、今年は相手が悪かった。広島の大卒ルーキー・森下暢仁が10勝3敗、防御率1.91(リーグ2位)という成績を挙げたのです。

シーズン途中までは戸郷のほうが勝ち星で上回り、新人王争いは戸郷が一歩リード、という状況でした。しかしシーズン終盤、蓄積疲労もあってか戸郷が足踏みする間に、森下は白星を重ねて一気に逆転。記者による投票の結果は、森下・303票、戸郷・9票と、ほぼ満票に近い大差で森下に軍配が上がりました。

しかし、17日に行われた「NPB AWARDS 2020」には、新人王レースに敗れた戸郷の姿がありました。セ・リーグによる「連盟特別表彰」の枠で「新人特別賞」を受賞したのです。受賞理由には「最優秀新人賞(=新人王)に値する活躍を讃えて」とありました。

授賞式で「何とか1年間ローテを守れたのは嬉しかったですが、やっぱり新人王が欲しかった」と本音を漏らした戸郷。「今年以上の成績を残し、何かの賞を獲って、ここにまた来られるように頑張りたいです」と来季は投手部門タイトル奪取を誓いました。その意気やよしです。

ところで今回の戸郷のように、惜しくも新人王を逃した選手が「連盟特別表彰」の形で所属リーグから表彰されるケースは、過去にも何度かありました。過去の受賞者には、その後チームの顔として活躍した選手が多いのです。どんな選手がいたか、ちょっと振り返ってみましょう。

まずは1987年のパ・リーグ。この年は、2人の大卒ルーキー・阿波野秀幸(近鉄)と西崎幸広(日本ハム)がハイレベルな競り合いを演じ、阿波野が「15勝12敗、防御率2.88、201奪三振」に対し、西崎は「15勝7敗、防御率2.89、176奪三振」。勝ち数はともに15勝で、防御率もほぼ同じ。阿波野のほうが奪三振数は多いけれど、負け数の少ない西崎のほうが勝率は上……記者もかなり悩んだようです。

結局、奪三振のタイトルを獲得したことと、西崎を上回る投球回数・249回2/3が決め手となり、阿波野が新人王に選出。しかし、西崎も221回1/3を投げており「通常なら文句なしで新人王の成績。西崎も何らかの形でフォローしてあげないと」という声が多く、「パ・リーグ会長特別賞」が贈られることになりました。

阿波野と西崎のケースは投手同士で数字の比較ができましたが、厄介なのは「投手と野手」が争うケースです。1998年のセ・リーグ、川上憲伸(中日)と高橋由伸(巨人)。2人は、川上が明治大、高橋が慶應義塾大出身。東京六大学野球でシノギを削ったライバル同士で、プロでも同じセ・リーグのチームに入団。2人の対決は「平成の名勝負」と呼ばれました。

川上は1年目「14勝6敗、防御率2.57、124奪三振」。いっぽう高橋は「打率.300、140安打、19本塁打、75打点」。1年目の14勝と3割はどちらが価値が高いのか……ともにシーズン通じて1軍で活躍しただけに、これまた記者を悩ませることになりました。結果は、川上が受賞。決め手になったのは、両者の直接対決の数字でした。川上は、高橋を「22打数1安打」と完璧に封じてみせたのです。その1安打がホームラン、というところに高橋の意地を感じます。

筆者は1997年のオフ、ある番組で、中日入りが決まったばかりの川上と話したことがあります。「由伸には、プロでも絶対に負けたくないんです。野球ゲームに、自分の名前と、由伸の名前を入力して戦ってるんですよ(笑)」と語ってくれた明大4年の川上。グラウンドでは火花を散らす好敵手であり、プライベートでは親友、という関係は当時からでした。

この1998年はルーキーの当たり年。高橋と同じく、1年目から目覚ましい活躍を見せた坪井智哉(阪神、打率.327)、小林幹英(広島、9勝6敗18セーブ)の2人もセ・リーグ会長から特別表彰を受けています。

巨人には高橋以外にも、有資格の年にレベルの高い活躍をしながら、新人王を逃した選手がいます。まずはキャプテン・坂本勇人です。高卒2年目の2008年から遊撃でレギュラーに定着した坂本。成績は打率.257、8本塁打、打点43でしたが、全試合出場を果たしました。守備負担の大きいショートであることを考えると十分、新人王に値する活躍ぶりだったと言えるでしょう。

しかし……この年の巨人にはもう1人、よりインパクトの強い有資格者がいました。育成選手出身の3年目・山口鉄也です。リリーバーとして67試合に登板し、11勝2敗2セーブ・23ホールド、防御率2.32。リーグ連覇に大きく貢献した山口がこの年の新人王に選ばれ、坂本は「連盟特別表彰」を受けています。

2013年、1年目からローテーションに入り、176回を投げ、13勝6敗、防御率3.12、155奪三振。リーグ連覇に貢献したのが菅野智之です。これも新人王に値する成績でしたが、同じ年に15勝を挙げたルーキーがいました。ヤクルトの「ライアン」こと小川泰弘です。178回を投げ16勝4敗、防御率2.93、135奪三振。奪三振以外はすべて小川が上回り、新人王に輝きました。新人王を逃した菅野と、高卒ルーキーながら10勝を挙げた藤浪晋太郎(阪神)が「新人特別賞」を受賞しています。

こうしてみると、この「新人特別表彰」をバネに大きな飛躍を遂げた選手は大勢います。来季から背番号が「20」に変わる戸郷。まだ先行き不透明ながら、菅野がメジャー移籍すれば、投手陣の柱は戸郷が担うことになります。

契約更改の際、球団から「菅野が移籍しようとしまいと、来季、君が投手陣の柱になることは変わりない。15勝を目指して欲しい」と言われた戸郷。更改後の会見では「自覚も湧いて来ました。来年に向けて、いい心構えができると思います」と決意を語りました。“準新人王”から巨人軍のエースへ……3年目のさらなる飛躍に注目です。

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