ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月7日放送)に慶應義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一が出演。香港で民主派53人が逮捕されたニュースについて解説した。
香港~国家安全維持法違反で最大規模の民主派53人を逮捕
香港で1月6日、元立法会の議員ら民主派53人が国家安全維持法の「国家政権転覆罪」を犯した疑いで香港警察に逮捕された。2020年6月末の国家安全維持法施行後、最大規模の摘発となった。
香港問題や台湾問題に中国が大胆な行動を取る可能性も~バイデン政権は介入主義を取らないと読んでいる
飯田)これに関連して、アメリカ人の弁護士ジョン・クランシー氏も逮捕されたということです。7月に行われた立法会選挙にまつわる人気投票のようなものを企画したのがいけなかったというような話が出ています。
細谷)これは短期的な視点と長期的な視点の両方必要だと思うのですが、短期的な視点としては、当初、中国はバイデン政権が成立した場合でも、対中政策は引き続き厳しいままだろうということを想定していたのだと思います。ところが、特に国防長官人事のミシェル・フロノイ氏が拒絶されたことを持って、党内の左派の影響から、バイデン政権のアジア政策が、「介入主義は取らず、内向きになる」ということが明らかになったわけです。いまは移行期のタイミングということもありますが、これによって、中国は香港や台湾の問題に関して、その移行期ということに加えて、バイデン政権になり、アメリカは口では批判するけれども、「強硬な軍事的手段は取らないだろう」と読んでいるのだと思います。これは今後、香港の問題や台湾の問題で中国が挑発的、大胆な行動を取るということの1つのきっかけになる可能性があると思います。
飯田)「力によって、もう香港は手に収めたぞ」というくらいの気持ちでいるわけですか?
細谷)今回の件は完全に一国二制度というものを中国が一切考慮しないという意思表示とも見えます。
強硬に台湾に介入できるという見立てを取りつつある中国
飯田)もともと一国二制度というものは、台湾を中国のなかに取り組む際の方便として、鄧小平氏が捻り出したというような話もありますが、これは台湾への相当なメッセージなのでしょうか?
細谷)そうですね。1984年にイギリスと中国が共同宣言で、「香港返還後に高度な自治をそのまま残す」ということを言っています。これはいまおっしゃった通り、台湾に対して、いわばショーウィンドウとして、香港が中国のなかに入っても、高度な自治を維持できる。それをある意味では呼び水として、台湾に対してより影響力を浸透させようとしたわけです。しかし、今回の香港のケースを見ると、台湾に関して、「そのような配慮はしない」という意思表示だと思います。つまりは国内問題として、強硬に台湾に介入できるというような見立てを取りつつあります。そういう意味では、台湾は大変なショックを受けていると思います。
飯田)台湾海峡や南シナ海で中国の人民解放軍が演習をするなど、相当プレッシャーをかけて来ている状況がありますが、この動きがさらに活発になるということですか?
細谷)そうですね、軍事的な圧力をかけるということ、これは「アメリカには介入させない」ということです。中国と全面的な戦争をしてまで、果たしてアメリカが台湾問題に関与するつもりがあるかということで、可能な限りエスカレーションをさせるという意思表示を示すと思うのですが、一方では台湾の内政にいろいろな形で工作をかけて来ると思います。香港でやっているような、「内側をコントロールして、内政に関与し、操作する」ということを台湾でも行おうとしているのだと思います。
対中包囲網の切り崩しにかかる中国~最大のターゲットは日本
飯田)昨年(2020年)にオーストラリアで中国の元スパイだと言う人がいろいろなメディアのインタビューに応じて、台湾の国会議員選挙や地方選に中国がいろいろな形で介入をしていたのだということが言われましたが、これは中国に近い国民党をテコにしながらやるということなのですか?
細谷)いま台湾全体で反中感情が高まっていますから、台湾に対して内政を操作するというのはしづらくなっている面が大きいと思います。そこで経済的な圧力をかけて、そこから政治的にも圧力をかけようと思っているわけです。ところが、台湾の半導体が、コロナ禍で収益が上がっているのです。デカップリングで、トランプ政権が中国との間で、従来の相互依存を大きく見直す方針を立てたわけです。これは台湾にとっても、経済的に難しい局面と、さまざまなビジネスチャンスとの両面が生まれたわけですが、これが続くかどうかということによって、台湾も判断が難しくなって来ると思います。EUと中国の投資協定がつくられました。いま中国は、世界のなかでの対中包囲網を徹底的に切り崩しにかかっています。そしてこれからの最大のターゲットの1つが日本だと思います。日本に対して経済的な圧力をかける、RCEPをつくるということは中国にとっては戦略的な勝利でもあるわけです。日本はコロナ禍で経済が難しい困難な状況にあるということと、中・長期的な戦略を考えて、どういう形でこれから対外経済対策を考えるのか。この2つをきちんと考えて行かないと、日本はまさに漂流して行ってしまうことになります。
「トランプ政権と違うスタイル」をバイデン氏が見せようとすることが、東アジアの混乱につながる可能性も
飯田)アメリカはファーウェイなどを排除しようとしていたのですが、先日、中国の通信3社の上場廃止手続きを一時中止するという報道がありました。「腰砕けちゃったか?」という見方もできますが、いかがでしょうか?
細谷)バイデン政権を見ていると、とにかくトランプ政権と違うことをやろうとしているのです。ですから専門家の間では、「アジア政策を含めて対外政策が継続するだろう」というようなことが言われていましたが、例えば「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」があるけれど、バイデン次期大統領は、1度もこれを使っていません。
飯田)はい。
細谷)トランプ大統領がやったことを否定するとなりますと、トランプ大統領は徹底的に対中強硬路線を取って来たわけですから、これとは違う交渉をするということ、特にグローバル・イシューズで気候変動問題であるとか、コロナ対策で中国と交渉するという姿勢を見せていますから、必ずしも私はバイデン政権が親中になるとは思っていませんが、過剰なトランプ政権とは違うスタイルを見せようとすることが、東アジアの混乱の原因になる可能性があるのではないでしょうか。
アジア政策に関して、どのように中国に対応するかという方針を日本がアメリカに示す必要がある
飯田)日本としては、中国と地理的に近いということもあって、影響を受けやすい。アメリカの姿勢を修正するなり、手綱を引っ張るなりしないといけないわけですか?
細谷)おっしゃる通りです。いまは東南アジアでもEUでも、オーストラリアでもインドでも、アメリカよりも遥かに日本に対する信頼度のほうが高いのです。アジア政策に関しては、バイデン政権を見て、その政策を日本が迎合するのではなく、むしろバイデン政権のアジア政策を日本が牽引して行く。そのことを東南アジアやASEAN、オーストラリア、インドは日本に期待していると思います。ですから、従来のような形でアメリカの政策を見て日本が対応するのではなく、先に日本が大きな方針を示して、そこにアメリカのバイデン政権が乗って来るような流れをつくらなければならないと思います。
飯田)その旗印がやはり「自由で開かれたインド太平洋」ということになりますか?
細谷)その言葉を、バイデン政権に合わせて変えるような姿勢を、日本は示すべきではないと思います。それは間違ったメッセージになるわけです。いまアジアのなかで、「正しい対中政策を進めて行く国が日本だ」という評価が、先ほど申し上げた通りこの地域で高まっています。むしろ日本がこの地域において、どのように中国に対応して行くかという方針を先に示す必要があると思います。
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