ミャンマー「クーデター」~スー・チー氏と中国と国軍の複雑な関係
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月9日放送)に戦略科学者の中川コージが出演。ミャンマーで起きた国軍によるクーデターに関して、現地ヤンゴンに滞在する音楽ドキュメンタリー作家・石谷崇史のインタビューを交えて解説した。
ミャンマー最大都市ヤンゴンで3日連続デモ
ミャンマーで起きた国軍によるクーデターから、2月8日で1週間が経過する。最大都市のヤンゴンなどでは、3日連続となる抗議デモが行われている。
飯田)現地がどうなっているのか、現地ヤンゴンに滞在されている音楽ドキュメンタリー作家・石谷崇史さんに様子を伺っています。時差の関係で昨日(8日)のインタビューとなりますが、お聴きください。
当時の現地ヤンゴンの様子~街中は至って平穏だった
飯田)クーデターが起こったのは2月1日だったと、一報が入って来たのはそのくらいだと思いますが、その前から雰囲気のようなものはあったのですか?
石谷)街中の生活自体は平穏でしたけれども、一部でUSDP(連邦団結発展党)という、いわゆる国軍系の政党があるのですけれども、この政党がシュエダゴン・パゴダの辺りでデモをしたのですよね。
飯田)なるほど。
石谷)その件と、あとは各国大使館がクーデターの可能性があるということでアラートも出しました。ですから、そういう情報は流れていましたが、街中の見た目は至って平穏でしたね。
飯田)では街に軍が出て来て、「ちょっといつもと違うぞ」というくらいだったのですか?
石谷)それもまったくないです。軍は出ていませんでしたし、いまも出ていないはずです。私服の軍関係者はいるのかも知れませんけれども、いわゆる軍の車両などは一切見かけないです。
飯田)そうすると、いわゆる海外のクーデターと言われて想起するような、戦車や装甲車が出て来たり、武装した兵隊たちが街を警戒している、という雰囲気ではまったくないのですか?
石谷)まったくないです。1日目に日本のメディアが日本人の安否確認などをしていて、そのときはナンセンスだなと思っていました。
飯田)街の雰囲気など、いまはコロナで報道も入れないので、わからないところがくっきり見えて来た感じがします。ありがとうございます。
軍関係者にもクーデターを疑問視する人はいる
石谷)もう1点、ここは抜けている視点としてお話ししますが、国軍=悪に見られているところがあるのですよ。しかし、国を守る兵士たちがいるわけですよね。国軍の家族や兵士の人たちのなかにも、今回のクーデターを疑問視している人が多くいるようです。国軍系のバックグラウンドを持った企業などの人たちが心を痛めていて、自分たちのビジネスもこれからできなくなるので、国外に出て行くしかないなど、つらい思いをされている方がいる状況です。
飯田)なるほど。
石谷)USDP側だけが言われていますけれども、そういった側面があまり出て来ませんし、少数民族もたくさんいます。日本の人から見ると、「ミャンマーは1つの国」だと思うかも知れませんが、いろいろな宗教や民族がたくさんいるような多民族国家であり、それをまとめるアウン・サン・スー・チーさんですからね。大変な役割を担っていらっしゃると思います。
香港デモを想起させる状況~中国は関わっているのか
飯田)ヤンゴン滞在中の音楽ドキュメンタリー作家、石谷崇史さんにお話を伺いました。デモに対して、軍が出るというよりは警察が対処しているということ、そしてデモ等に関しても、直後はほとんど何もなかったということです。金曜日(5日)辺りから学生さんたちが外に出て、シュプレヒコールなどが始まったと。私も現地の情報をいろいろとったりしますが、6日・7日でデモがあり、6日のデモは労働者たちが工場から来たりして、統制のとれたものだったそうです。警察官に花束を渡すようなこともあったそうですが、7日ごろになると不満を抱えた市民たちが出て来て、統制がとれなくなって行き、そして昨日(8日)は放水なども起こったということです。これはだんだんと先鋭化して来ているということですかね?
中川)そうですね。現地の状況を見て、映像などでしか判断できませんけれども、やはり香港のデモを想起させるようなところがあります。軍事的な政権のなかで、強権体制下での民主的な方たちの抗議という形が見えて来ます。激化して死傷者が増えたりすると怖いなと思いますけれどね。
飯田)香港の記憶があるので、軍政の後ろで中国が糸を引いているのではないか、という説も出て来ますが。
中川)何か悪いことがあるときは常に中国あり、ということは私も見ていて思うのですけれども、冗談はさておき、実際に手を引いているかどうかはいろいろと考えなければいけない。中国が後ろで動いているということに関して言えば、まず1つ中国とミャンマーの関係として、ミャンマーは1対1の環境も含め、港湾設備とそこに敷設する鉄道をこの数十年、特にここ10年は中国側としては普請して来て、なかなか難しかったところがあるわけですよね。軍政下でも難しかったし、アウン・サン・スー・チー政権下でも難しかった。ただ、ミャンマーが重要なところだという部分は間違いなくあったと。
飯田)地政学的にも。
ミャンマーで重要な位置にいる経済マフィアの存在
中川)中国がどのようにミャンマーを見ているのかというと、今回の軍事クーデターに関しては、軍事政権側に中国がついているという二項的な対立ですよね。
飯田)そうですね、民主か軍かというところで。
中川)しかし、中国との関係には3つの勢力があって、1つは軍ですよね。1つはイデオロギーとしての民主的な勢力がスー・チーさんを代表してあり、もう1つ重要なのは、経済を押さえている経済マフィアというのが、ミャンマーでは非常に強い。
飯田)第3のプレイヤーがいるのですね。
中川)2プレイヤーの場合には肩入れしやすいのですけれども、三つ巴というのはなかなか難しくて、片方につくともう片方は別側についてしまうところがあります。要は、肩入れすると別の二項が固まって強くなるのです。もともとは1949年、中華人民共和国を建国したときに、いわゆる国共……国民党軍と共産党軍ですが、国民党軍の流れを受けた人がミャンマーの方へ流れて、そこで麻薬王などになって行ったりしたのです。クン・サという人がいるのですけれども。
飯田)敗走した国民党の残党みたいなものですか?
中川)残党と、現地の民族の方たちが合わさって、技術も持って現地の人たちの労働力も使ってということで、クン・サという人が有名ですが、そうなって行ったと。それがだんだん合法化して行く、というよりも国際的な圧力でマフィアが弾圧されるなかで……。
飯田)ゴールデン・トライアングルの辺りが弾圧されて。
中川)そのなかで、米国との関係も絡めて、どちらかと言うと麻薬からの利益ではなく、経済マフィアになって行った。現在でもその流れが脈々とあって、要は経済を牛耳っている彼らという世界があり、そして中国から見ると、軍の力かイデオロギーの力か、経済の力かという三つ巴の戦いだと中国は見ている。そうすると、どの力に肩入れするかというのは難しい状況になっています。
中国に経済的な門戸を開いていたスー・チー政権
飯田)確かにかつての軍政下、軍政末期のテイン・セイン政権のときなどは、ダムの建設などをめぐって中国とは対立し、むしろ離れて行ってしまいましたよね。
中川)ですから軍だけに肩入れしようとしても、経済の方の人たちが離れて行くし、なかなか難しかったのですよね。
飯田)むしろスー・チーさん側は、けっこう中国と関係がよかったという話もありますよね。
中川)実際にそれがイデオロギー的にどうかという話になると、想像でしかなくなってしまいます。ファクト(事実)だけで話すと、例えば2019年1月、当然スー・チー政権下だったと思うのですけれども、人民元を国際通貨として認めるという形にしたのですね。つまり、米ドル以外にしていいと。国境が接していますから、貿易の決済などもあるわけですよ。そうすると、いままではUSドルに換えてから決済していたのが、2019年の8月か9月くらいに、人民元で直接決済ができるようになったというニュースが流れたのです。これは大きいことで、直接的に人民元でクロスボーダーができる。ミャンマー側も政権側もオッケーしたという状況を考えると、十分にスー・チーさんは中国に対して門戸を開いていたということが、ファクトとして言えると思います。
飯田)それはまさに、一帯一路に乗るということですよね。
中川)完全に経済圏としては、人民元を国際通貨として認めると言ったわけなので、そういう方向性だったのだろうなという気がします。
飯田)そうすると、国軍の後ろに中国がついていて、アメリカが後ろについていた民主政権を潰した、という構図とは少し違うのですね。
中川)勧善懲悪で見てしまうと、その方が見やすいのですけれども、難しいです。あくまでミャンマーと中国のバイ(二国間)の関係で考えると、三つ巴に対してどうやって力を掛けて行くのかが難しい状況に、そもそも中国はあったと。それでいまの報道を見たとしても、軍事クーデターと言っているという感じですね。
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