ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月29日放送)に元内閣官房副長官補・同志社大学特別客員教授の兼原信克が出演。ミャンマーで抗議デモを行った市民に治安部隊が発砲し、1日で114人が殺害されたニュースについて解説した。
ミャンマーで1日114人殺害~茂木外務大臣が強く非難
ミャンマーで3月27日、軍の記念日に合わせて抗議デモを行った市民などに治安部隊が発砲を繰り返し、地元メディアによると、少なくとも114人が死亡した。茂木外務大臣が状況を「強く非難する」と抗議するなど、国際社会からの非難の声が強まっている。
飯田)日本の自衛隊やアメリカ軍を含む、12ヵ国の軍のトップなどが共同で非難声明を発表しているという報道もあります。日本の場合は統合幕僚長でしたが、軍のトップが声明を出すということは珍しいですよね。
兼原)軍というのは通常、職業軍人の集まりなので、政治指導者に絶対に従うのですが、途上国に多いのですけれど、軍が政治化しているところがあります。日本の戦前の軍部も政治化していました。ここは軍が政治を仕切っている国なのですが、民主正規指導者のほうに政治を返さなくてはいけないと思います。
飯田)そうですよね。
兼原)軍の人は妥協できない人たちなので、言うことを聞かないとこうやって攻撃するのですよ。これが怖いのです。それで黙る国民もいますが、ミャンマー人は仏教徒でやさしいのですけれど、チベット~モンゴル系で気性が激しいので、怒るとサムライになってしまいます。もう市民も収まらなくなっています。
突き放してしまうと中国側に行ってしまう~腰を据えて民主化に持って行くしかない
飯田)日本はODAなど、さまざまなつながりが軍政時代からありますが、逆にいまはスタンスを取りづらくなっているのですか?
兼原)日本は一貫してミャンマーエンゲージャーなのです。アウン・サン・スー・チーさんが帰って来てからアメリカが入って来ました。それで「よかった」となっていたのですが、スー・チーさんと軍がうまく行かなかったのだと思います。それで軍が切れたというのが今回のクーデターで、そこを中国は「しめしめ」と思っているでしょう。この軍の革命は認められないのですが、彼らが権力を持ってしまっているものですから、どうやって元に戻すかということを真剣にやらないとなりません。「叩けばいい」とやると、中国が獲ってしまいます。
飯田)その空いたところは。
兼原)ここは腰を据えてやって行くしかないと思います。民主化へ向けて説得して行くしかないと思いますけれど、なかなか難しいですね。
飯田)アメリカもそうとうお金を入れたということですが、日本も経済特区であるティラワにメーカーが入っています。その辺が糸口になって行きそうですか?
兼原)軍というのは、経済があるから手加減する組織ではありません。ミャンマーはASEAN最後の西側の砦で、あそこをバングラデシュ、インドにつないで西アジアと東南アジアの回廊にして、ベンガル湾の交通もよくする「自由で開かれたインド太平洋」というのが日本側の構想なのですが、ここがひっくり返ってしまうとそれが切れてしまうので困るのです。発展したければ民主化の方に持って行かないとならないのですが、民主化するには妥協が必要です。軍人さんは妥協するのが下手ですからね。どこの国でもそうですが、困ったものですね。
アウン・サン・スー・チー氏の人気と強い態度に切れた軍部
飯田)テイン・セインさんが軍政をやりつつ民主化を進めた、スー・チーさんの前の大統領でしたが、あの人はその辺りの妥協をうまくやったということですか?
兼原)頑張って前に出て来たと思うのですが、外国人が家族だと大統領になれないなどという、アウン・サン・スー・チー条項のようなものをつくりました。そして一定の議席を必ず軍人が持っていなければならないなど、若干インチキ民主主義だったわけです。そのなかでスー・チーさんも、ロヒンギャなどの少数民族の問題では軍の方に立ったわけです。
飯田)それなりに妥協した。
兼原)協力したのですが、やはりアウン・サン将軍のお嬢様なので、「私がトップだ」となってしまうわけです。それで人気が大きかったので、軍が切れてしまったということだと思います。
飯田)あそこは多民族国家でもあるということですね。
兼原)スー・チーさんはビルマ族の多数派の方に舵を切ったわけです。少数民族は泣いているのですが。そのかわりビルマ国内での人気は跳ね上がって行ったのです。そうすると今度は軍を脅かします。そこで軍がスー・チーさんに意地悪をする。しかし軍が意地悪する度に彼女の人気が上がってしまうのです。そこで「グサッ」とやったのが今回だと思います。
建前と本音をうまく使い分けて粘り強く交渉する
飯田)自由で開かれたという旗を日本も立てているだけに、建前の部分と本音の部分を……。
兼原)分けると。表の世界では「いい」とは絶対に言えないですからね。今回のクーデターに対しては怒らなくてはいけないのですが、そこで足蹴にして突き放してしまうと中国側に行ってしまうわけです。それは下手な外交なので、裏で「きちんとしなくてはダメではないですか」と言わないと意味がないのですけれどね。その辺りが外交の技の問題で、難しいところではあると思います。丸山大使という方がいますが、この人は外務省随一のミャンマーの専門家なのです。アウン・サン・スー・チーさんとも姉と弟のような関係で話していました。頑張っていただきたいと思います。
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