田村正和 その魅力と独自の美学 ~すべて“当たり役”となるスター俳優

By -  公開:  更新:

※写真は「古畑任三郎ファイナル第1夜 今、甦る死」より(2006年1月3日放送)

画像を見る(全6枚) ※写真は「古畑任三郎ファイナル第1夜 今、甦る死」より(2006年1月3日放送)(C)フジテレビ/共同テレビ

【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第995回】

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。

5月18日、俳優の田村正和さんが心不全のため、4月3日に都内の病院で逝去したとのニュースが流れました。享年77歳。亡くなってから1ヵ月以上も経過してからの悲報に、驚いた方も多かったのではないでしょうか。

そこで今回は、田村正和さんの出演作とともに、その魅力と独自の美学に迫ります。

※写真は「眠狂四郎 コレクターズDVD<HDリマスター版>」より

※写真は「眠狂四郎 コレクターズDVD<HDリマスター版>」より

『眠狂四郎』~妖しくも美しい剣豪

昭和、平成のテレビ界を彩った大スター、田村正和さん。往年の映画スター・阪東妻三郎を父に持ち、1961年に映画『永遠の人』(木下恵介監督)で本格デビュー。

繊細な二枚目青年役で注目を集めるようになり、テレビドラマを中心に活躍し、1972年~1973年にかけて放送されたテレビ時代劇「眠狂四郎」で、お茶の間の人気者に。

己の出生に秘密を持ち、義理・人情・憐憫の情に眼をそむけ、孤独に生きる主人公・眠狂四郎。初めてこの役を演じたのは、田村さんが29歳のとき。その後も、スペシャルドラマで繰り返し狂四郎を演じ続け、生涯を通じての“当たり役”に。遺作となった「眠狂四郎 The Final」では、撮影当時73歳とは思えない華麗な剣さばきをみせています。

スキのない鮮やかな殺陣、川辺に佇むシルエット、そしてたまに浮かべるチャーミングな笑顔。妖しくも美しいニヒルな剣豪ぶりは、いま観ても、あまりの艶やかさに見入ってしまいます。

※写真は「パパはニュースキャスター」より (C)TBS

※写真は「パパはニュースキャスター」より (C)TBS

二枚目から三枚目へ……ホームドラマで体現した“理想の父親像”

そんな哀愁漂う風貌がトレードマークとも言える田村正和さんでしたが、1980年代~1990年代にかけてはガラリと路線を変更。三枚目な役どころに挑戦し、当時はその変貌に驚かされたものでした。

なかでも、私が特に印象に残っているのが「パパはニュースキャスター」。

これまでクールな印象が強かった田村さんが、突然現れた3人の“娘”に翻弄される父親役を好演。おませな娘たちとのやり取りが軽妙で可笑しく、また戸惑いながらも徐々に父性を目覚めさせて行く様子に、当時は田村さんが演じる父親像に憧れを抱いた人も多かったかも知れません。私もその1人でした。

※写真は「古畑任三郎ファイナル第1夜 今、甦る死」より(2006年1月3日放送)(C)フジテレビ/共同テレビ

※写真は「古畑任三郎ファイナル第1夜 今、甦る死」より(2006年1月3日放送)(C)フジテレビ/共同テレビ

そして、田村正和さんの代表作として忘れられないのが「警部補・古畑任三郎」シリーズ。

類まれな推理力と冷静な洞察力で、主人公の古畑任三郎が完全犯罪を企む犯人たちと対決する、いまや伝説のサスペンスドラマ。まずドラマの冒頭で犯人が明かされてから、犯行動機や手口を遡って暴いて行くという筋書きも、とても画期的でした。独特な口調で緩急自在に演じる姿は、痛快そのもの。

「この役を演じられるのは、田村正和しかいない!」

制作者や視聴者を瞬時に虜にしてしまうカリスマ性は、まさにスターの証と言えるでしょう。

※写真は『ラストラブ 』より

※写真は『ラストラブ 』より

テレビドラマだけでなく、映画でも印象的な作品を残している田村正和さん。

14年ぶりのスクリーン復帰で話題となったラブストーリー『ラストラブ』(2007年)では、成熟した大人の色気で観客を魅了。秋のニューヨークに佇む姿は年齢を重ねても美しく、“スクリーン映え”する俳優だということを改めて実証しました。

振り返ってみれば、田村正和さんはどんな役でも自分の色に染め上げて“はまり役”へと昇華させてしまう、不思議な魅力をまとった俳優さんでした。作品の、そして俳優としてのイメージを守るためにプライベートを明かさなかったことは、有名な話。

人前での食事は極力控えるなど独特の美学を貫く姿は、まるで田村さんご自身が“田村正和というスター俳優”を演じているようにさえ感じられ、そして徹底したプロフェッショナルな姿勢こそが、スターたる所以だったのかも知れません。

それぞれ作品のなかには、格好よくて、端正で、ダンディな“田村正和”が息づいています。いつの時代も、その輝きは永遠に不滅。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

※写真は「眠狂四郎 コレクターズDVD<HDリマスター版>」より

※写真は「眠狂四郎 コレクターズDVD<HDリマスター版>」より

■眠狂四郎(1972~1973年)

キャスト:田村正和、山本陽子、野川由美子、山城新伍 ほか
原作:柴田錬三郎(「眠狂四郎無頼控」新潮社刊)
脚本:高岩肇、石松愛弘、池田一朗 ほか
監督:井上昭、田中徳三、倉田準二 ほか

『眠狂四郎 コレクターズDVD <HDリマスター版>』
関西テレビ・フジテレビ系にて放送の全26話収録
価格:27,500円(税込)
発売:ベストフィールド
販売:東映・東映ビデオ

※写真は「パパはニュースキャスター」より (C)TBS

※写真は「パパはニュースキャスター」より (C)TBS

■パパはニュースキャスター(1987年、1989年、1994年)

出演:田村正和、浅野温子、西尾麻里(現・西尾まり)、大塚ちか子(現・大塚ちか)、鈴木美恵子(現・鈴木美恵)、所ジョージ、松本留美
脚本:伴一彦
プロデューサー:八木康夫
監督・演出:吉田秋生
主題歌:「Oneway Generation」本田美奈子
制作著作 (C)TBS
Paravi配信サイト https://www.paravi.jp/watch/11959

※写真は「古畑任三郎ファイナル第1夜 今、甦る死」より(2006年1月3日放送)

画像を見る(全6枚) ※写真は「古畑任三郎ファイナル第1夜 今、甦る死」より(2006年1月3日放送)(C)フジテレビ/共同テレビ

■警部補・古畑任三郎(1994年、1995年、1996年、1999年、2004年、2006年、2008年)

FODにて配信中
キャスト:田村正和、西村雅彦、石井正則、小林隆、伊藤俊人、白井晃、八嶋智人 ほか
脚本:三谷幸喜
企画:石原隆 ほか
音楽:本間勇輔
演出:河野圭太、松田秀知 ほか
プロデューサー:関口静夫 ほか
制作:フジテレビ、共同テレビ
FOD配信サイト https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4194/

※写真は『ラストラブ 』より

※写真は『ラストラブ 』より

■ラストラブ(2007年)

キャスト:田村正和、伊東美咲、森迫永依、片岡鶴太郎
原作:Yoshi
監督:藤田明二
脚本:龍樹
撮影:川田正幸
音楽:大島ミチル
配給:松竹
(C)2007「ラストラブ」フィルムパートナーズ

『ラストラブ』
DVD:5,170 円(税込)
発売元:スタイルジャム、テレビ朝日
(この情報は、2021年5月時点でのものです)

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

Page top