根本宗子が、横山由依と中山莉子、2人の“アイドル”を起用したわけ ~誰も観たことがないブランニューオペレッタ「Cape Jasmine」  吉田尚記・対談<前編>

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いまだに続くコロナ禍の中、注目の舞台公演が幕を開ける。約1年ぶりに演劇活動に復帰した劇作家の根本宗子が作・演出・企画を手がける、ブランニューオペレッタ「Cape Jasmine」(10月6~7日 日本青年館ホール)だ。演出家不在となった新作ミュージカルを、せめてもと記者会見のスタイルで楽曲だけ順に披露することとなった女優6人のユニークな物語。

注目されるのはそのキャスト。横山由依、中山莉子に加え、お笑いコンビ・ニッチェの江上敬子、今回が初舞台となるラッパーのあっこゴリラ、姉妹ユニット、チャラン・ポ・ランタンのもも、踊り子のrikoなどジャンルレスで異色の顔ぶれが揃った。

その中でも特に注目されるのがアイドルグループに所属する横山由依(AKB48)と中山莉子(私立恵比寿中学)。根本はなぜ2人を起用したのか---この3人に、ニッポン放送・吉田尚記アナウンサーが話を訊いた。

吉田アナは根本の舞台をずっと見てきており、お互いの番組・イベントのゲストに呼び合う仲でもある。そして吉田アナの代名詞の1つが「アイドル好き」。公私問わず様々なアイドル現場に参じており、もちろん横山・中山とも頻繁に現場を共にしている。そんな吉田アナならではの視点となったこの“対談”、今回はまず<前編>をお届け---

根本宗子、横山由依、中山莉子

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役者が本業の人は一人もいません

吉田:根本さん、舞台をやるのは久しぶり(2020年11月に下北沢・本多劇場にて上演された、月刊「根本宗子」第18号「もっとも大いなる愛へ」以来)ですが、このタイミングでやるってなったのは何か試す意図、作品にも反映される実験的なこととかがあると思うんですけど、それは何ですか?

根本:とにかく演劇とコロナの一番の“相性の悪さ”は、密になって同じ面子と同じ空間で長期間稽古すること。じゃあ、稽古時間を減らせるだけ減らしてみようというところからスタートして、そもそもわたしが、稽古2週間でできる台本を書けばいけるんじゃないかなと思って。でも、2週間だからといってクオリティーは下げたくないので、「新しいもの」が見せられれば、「見たことないもの」を作れば、これもアリなんだ、これも演劇なんだって思ってもらえるかなと思って、今回のキャストは役者が本業の人は一人もいません。

吉田:おお! なるほど。

根本:そもそも“舞台に立つ”ということを生活の一部でやっている人たちなので、素で舞台上に放り出されても、そのまま立っていられる。そういうフロントマンの人たちとつくり始めるということで、最初の一歩をちょっと飛び越えて、皆さんのアーチスト性を借りて、わたしが演劇をつくる感覚なので、わたしが今までつくってきたものとはつくり方が全然違いますね。

中山莉子

中山莉子

「不思議な美少女」中山莉子との出会いから6年、満を持して……

吉田:2人が「へぇ~!」って顔をしている(笑)。「なるほど!」っていう感じがしてるんだと思うんですけど、中山さん、思うところありますよね?

中山:わたしは、ふだんアイドルとしてステージには立たせていただいてはいるんですけど、いつもはエビ中(私立恵比寿中学)というグループのメンバーとみんなで立っているので、1人で舞台に立たせていただくことはやはりすごく“緊張”がありますし、今回お話をいただいて本当にうれしくてすぐに「参加したい!」って言ったのと同時に「わたしがミュージカルに出ていいのかな?」っていう“不安”もありました。だから、今の根本さんの(フロントマンの)お話を聞いて、すごくうれしく思いました!(笑)。

吉田:中山さんは、根本さんが脚本を書かれた作品に出てますよね?

中山:はい。6年前、14歳の時でした。(※ドラマ『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』)

吉田:僕、その作品のイベントの司会しましたね(笑)。根本さんと中山さんは、それ以来ですよね。

根本:ドラマのオーディションの時、中山さんは監督もわたしも即決だったんですけど、なにを言ってるか、あんまりわからなかったんですよ(笑)。「不思議な美少女が来た」っていう感じで(笑)。自分のいろんなことも話してくれて、どんな人なんだろうなと思っていたけど、その作品はわたしは脚本だけで現場は見られなかったので、いつか自分が演出してみたいなと思っていました。エビ中の舞台も観ていましたが、今回の企画を考えた時に「中山さんは絶対!」という感じでした。

横山由依

横山由依

横山由依には、何かに巻き込まれて大変な目に遭ってて欲しい

吉田:ふだん“ステージパーソン”をやっている方に出ていただきたかった、という根本さんのお話、横山さんはいかがですか?

横山:そういうことか!と思いました(笑)。日常的にステージに立っていたので、言われてハッとしたという感じですね。もちろん緊張することもありますけど、ステージに立つときはフラットな気分で入れます。これは、実は12年間のアイドル生活で根づいたものなんだなと、今言っていただいて気づきました。

吉田:横山さんの、個人的な側面でのキャスティングのポイントは?

根本:もともと横山さんの声がすごく好きで、セリフを書いてみたかったんです。そして、横山さんが今まで出られた舞台で「こんなこと言われて来たんだろうな」とか思って……

吉田:え! わかるんですか?

根本:同じ方の演出を受けたことがあるんです。同じ作品じゃないですけど、「きっと横山さん、こんなこと言われたんだろうな」とか思うところがあって。勝手にですよ(笑)。横山さんは舞台が好きで、やりたいんだっていうことも小耳に挟んでましたので、アレに出ても「やりたい」って思うんだと思って(笑)。

吉田:ちょっと待ってください!(笑) そんなすごいこと言われるの!?

根本:折れちゃう人が多い。なかなか根性が無いと演劇が好きにならないので、これって、相当演劇が好きだろうし、もっと自由度が高くて、「これも演劇なんですよ」というものが横山さんに提示できたらいいなと。それを面白がってもらって一緒にやれたら、わたしもたぶん新しいものが書けるし、横山さんの新しい一面も見られるのかなと考えました。あと、横山さんって、何かに巻き込まれてて欲しいじゃないですか(笑)

横山:(笑)

吉田:ああ! わかります(笑)

根本:何かに巻き込まれてる人、大好きなんで(笑) 大変な目に遭ってて欲しい。

横山:(爆笑)

根本:横山さんが困ってるっていうのは、客席の人はすごく心が動くと思うんです。

吉田:それは、すごくわかりますね。

根本:それって持って生まれたものなので、他の人がやったら全然成立しないこともあって。横山さんだから、客席の人が、例えば「頑張れ!」って思うのか、「わたしもそういうところがあるな」って思うのか。そういった横山さんだから届くものと自分が書けるものが、今はマッチするんじゃないかなと思っています。

吉田:“ヒロイン力”みたいなことですよね。

根本宗子

根本宗子

1つのチケットで“たくさんのもの”が観られる

吉田:根本さんはアイドルだけでも舞台を作っているし、今回のようにアイドルが何人か出ていらっしゃるという状態でも作っているじゃないですか。そうすると、役者さんとは違うアイドルが出る“意味合い”みたいなものを感じているんだなと思ったんですけど……

根本:すごくその本人に興味がないと役を書けないような性質の作家であるので、自分がキャスティングするときの仕方として、ご本人に興味があってお話してみたくて作ってみたいっていうのが大前提にもちろんあるんですけど……アイドルが一人でポンって舞台に入れられた時に、「これをやるのは難しいだろ?」「そのハードルを乗り越えられるのか?」みたいに意地悪な役を振られて試されているか、本当に「カワイコちゃん」として出るか……そのどちらかしかないのが、演劇やって楽しいって思う人があまり増えないんじゃないかなと思って。もうちょっと楽しんでもらえたり、当て書きされる楽しさというか「この役は自分がやるべき役だ!」って思ってもらいたくて自分は脚本を書いてるので。普通に、楽しいから一緒にやってるって感じで、無理強いはしたくないので。

吉田:わかります。わかります。

根本:演劇やりたくない、興味がないっていうアイドルの方を無理に舞台に載せようとは思ってないです。お互い興味ある同士ならやろうよって感じ。

吉田:アイドルファンからすると、根本さんが指摘したのは本当で、単なる「カワイコちゃん」のべったりしたやつになるか、試されてて辛そうなところを見るかのどっちかなのは、「いや、それじゃないんだよな」ってめっちゃ思うんですけど、今回はわざわざ新ソロ曲を用意してもらってソロステージを見に行くという感じなので、これはアイドルファンは見に行った方がいいなって、ストレートに思いました。

根本:これを観に来ると、それこそ演劇も観られるし、横山さんのライブも観られるし、中山さんのライブも観られるし、チャラン・ポ・ランタンのライブもあっこさんのライブも観られるし、みたいな。1つのチケットでたくさんのものが観られるみたいなものがあったら、自分はそれを観るかなと思って、というつくり方です。とにかく贅沢今回。

吉田尚記アナウンサー、根本宗子、横山由依、中山莉子

吉田尚記、根本宗子、横山由依、中山莉子

~こうして起用された2人は、どんな心境で「誰も観たことがないブランニューオペレッタ」の舞台へ上がるのか。<後編>へ続く---

根本宗子が、横山由依と中山莉子、2人の“アイドル”を起用したわけ ~誰も観たことがないブランニューオペレッタ「Cape Jasmine」  吉田尚記・対談<前編>

Cape Jasmine

「Cape Jasmine」
2021年10月6日(水)・10月7日(木)(全3公演)
10月6日(水) 18:30開演
10月7日(木) 14:00開演/18:30開演
会場:日本青年館ホール 東京都新宿区霞ヶ丘町4-1
公式サイト:https://event.1242.com/special/cape_jasmine/

取材・文/田中宏明  取材・文・構成・撮影/安田隆也

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