「民主化が崖っぷちにある」事態 スーダンの軍事クーデター
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月28日放送)にAPI主任研究員の相良祥之が出演。スーダンで起きた軍事クーデターについて解説した。
スーダン、クーデターで拘束の首相を解放もデモ激化 ~各国は経済支援凍結へ
アフリカ北東部スーダンで起きた軍事クーデターで、軍に身柄を拘束されていた暫定政権のハムドク首相が10月26日に解放され、アメリカのブリンケン国務長官と電話で会談したことが明らかになった。一方、スーダンの首都ハルツームなどでは、26日も市民が街頭での抗議デモを続けていて、現地の保健当局の話では、軍の発砲によってこれまでに7人が死亡、140人以上が負傷したと伝えられている。
飯田)地図で見ますと、スーダンはエジプトの南に広がっています。東隣にはエリトリアやエチオピアがあり、紅海を挟んでサウジアラビア、また西にはチャドがあります。相良さんはスーダンにいらっしゃったことがあるのですよね?
相良)ここに2年間、国連の仕事で住んでいたことがあります。
石油が出て、地政学的にもアフリカのなかで重要な国
飯田)どういうところなのですか?
相良)石油も出ますし、飯田さんがおっしゃったように、エジプトやリビアなどに囲まれていて、アフリカのなかでは地政学的にも重要な国です。
崖っぷちにあるスーダンの民主化
飯田)石油が出るとなると、利権の話にもなりますが、そういうものが今回の揉め事にも結びついているのですか?
相良)今回のクーデターは、スーダンが再び軍の独裁に戻るのかどうか、「民主化が崖っぷちにある」という事態だと思います。
飯田)崖っぷちにある。
中国は1990年代から石油の資源開発を始めた ~2019年までの30年間、独裁政権を続けたバシール大統領
相良)石油が出るので、中国が石油の資源開発をアフリカで最初に始めた国の1つがスーダンなのです。1990年代から始めています。背景には1989年、これもクーデターで政権を奪取したバシール大統領が、2019年まで30年間独裁を続けていた。このなかで、西ではダルフール紛争があり、南では南スーダンの問題があって、東でも紛争をやっていた。空爆もするという、かなり苛烈な統治をやっていたので、各国が制裁をかけたのです。そこへ最初に入ったのが中国で、1990年代に入っていました。
飯田)ある意味、世界の孤児的な存在になっている地域に対する試みを、中国はいろいろなところでやっています。
相良)1995年だったと思いますが、中国が最初の動きを仕掛けたのがスーダンです。
経済危機が続き、苦しい生活を強いられる国民
相良)私がいたのは2013年~2015年ですが、経済危機が長く続いていたので、インフレが激しく、ドルとスーダンの現地通貨の価格が毎日のように変わっていました。近年だと、インフレが年間で20%を超えているときもありましたし、世銀の統計を見るとコロナでますます厳しくなって、2020年はインフレ率111%。
飯田)111%。
相良)世界でも桁違いに大きなインフレが起きています。生活にも影響が出ていて、パンの値段も3倍になったり、ガソリンも高い。日本の比ではないくらいに人々が苦しいという経済危機が続いています。
2019年に軍と民主派で主権評議会をつくり、軍民共同の統治機構で首相を任命
飯田)そんななかで、独裁が倒されて民主化した。最近では、軍と民主化勢力の共同統治が続いていたのですよね。
相良)それが成立したのは2019年です。経済危機が続いており、2011年に南スーダンが分離、独立しましたが、石油の油田があったのは南なのです。南スーダンに石油を持って行かれてしまったという構造があり、「経済制裁もあって、石油もない」という状況が続いた。そこで民衆が立ち上がり、バシール大統領を追放しました。面白いのは、追い出したのが軍だということです。
飯田)なるほど。軍がある意味で裏切ったということですか?
相良)そうですね。2019年に最初に起きた動きとして、軍が追い出し、今度は軍がバシール大統領の代わりに統治をしようとした。しかし、民衆が「また独裁ではないか」と座り込みのデモを続けて、そこに軍が発砲し、120人以上が亡くなったと言われています。
軍の議長の任期が11月までに迫り、ハムドク首相の拘束につながる
相良)それを踏まえて、2019年に軍と民主派で主権評議会をつくり、共同で統治するということになったのですが、そこが脆い存在でした。軍民共同の統治機構で首相を任命するのですが、軍の議長を務めている人の任期が来月(11月)までに迫っていて、それも含めて今回のハムドク首相の拘束につながったのではないかと言われています。
予断を許さない状況
飯田)任期が切れると、民主派が強くなるのではないかということですか?
相良)2019年に民主化勢力と合意したものに基づくと、来月には文民の民主化勢力に議長を明け渡さないといけませんので、軍がそれを嫌がったということはあると思います。
飯田)立法と行政両方を民主派に取られるとなると、「コントロールできなくなる」という考えになったわけですか?
相良)行政的なことですね。「軍の統治がよかった」と言っている人たちもいて、それに関するデモもあったので、軍が押される形になったのだと思います。民主化への道は崖っぷちで、ハムドク首相は解放されましたけれども、まだまだ予断を許さない状況だと思います。
アメリカが即座に対応し経済支援を凍結 ~ハムドク首相の解放につながる
飯田)独裁政権が倒れて民主化になり、それがまた戻るというのは、「アラブの春」を迎えた国々が辿った経路に似ています。エジプトなどもそうですが。
相良)スーダンの北がエジプトです。エジプトなど、「アラブの春」を迎えた国が経験して来たことを見ているようですし、ミャンマーもありますよね。ミャンマーもスー・チー政権と軍が危うい形で共存して来たのですが、クーデターが起きてしまった。それに近いとは思うのですが、今回よかったのは、アメリカが即座に反応を示し、7億ドル(約800億円)余りの経済支援を凍結したのです。非軍事の対応、エコノミック・ステイトクラフトと言われますが、こういう圧力が効いて、ハムドク首相が解放されたという側面もあるかも知れません。
軍の背後にいるサウジアラビアともアメリカは交渉 ~今後に期待が持てる
飯田)凍結という形を各国が表明していますけれども、この流れが続くことになるわけですか?
相良)ドイツも援助停止を表明しているということです。アメリカはサウジアラビアとも話をしています。軍の背後にはサウジアラビアがいると言われています。
飯田)背後には。
相良)なぜかと言うと、イエメンで内戦をやっていまして、サウジアラビアとフーシ派との戦いになっているのですが、サウジアラビア軍をスーダンが支援して、スーダンの少年兵がかなり送られているという報道もありました。それもあり、サウジアラビアが国軍側を陰で支えているのではないかと言われていて、そこともアメリカは話しています。かなり国際的に圧力をかけていますので、ミャンマーと違って期待が持てるところではあると思います。
飯田)中国は、ここではそれほど存在感はないという感じですか?
相良)中国の議論にすぐなるのですが、中国は忙しいと思います。
飯田)なるほど。
相良)中国の南はミャンマーで、西にはアフガニスタンがあり、東には北朝鮮があります。これを全部支え切るというのは難しいですし、国内では恒大集団の問題などを抱え、経済的にも厳しい。昔のように「一帯一路で大判振舞い」ということはできないと言われています。スーダンにまで関わることは難しいと思います。
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