ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月8日放送)に日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が出演。アメリカ議会下院が136兆円規模のインフラ投資法案を可決したというニュースについて解説した。
アメリカ議会下院が136兆円規模のインフラ投資法案を可決
アメリカ議会下院は11月5日、バイデン政権の経済政策の柱の1つである、総額1兆2000億ドル(約136兆円)規模のインフラ投資法案を可決した。バイデン大統領は「巨大な前進だ」と語っている。
飯田)8月には議会上院を通過しています。下院でも今回可決されたということで、あとは大統領の署名を待つのみとなります。これは難産だったわけですか?
秋田)新聞やテレビでは「大規模な予算が通りました」と報道されるので、「立派な前進になった」という印象を受けるのですが、とんでもなく難航した結果「ようやく通ったね」という印象が強いと思います。
成立までに時間がかかり、大きく削られた「インフラ投資法案」 ~民主党内の左派と中道派の分裂の深さを表している
飯田)もともとはもっと大きな規模で、「ドンッ」と出していたものでしたよね。
秋田)136兆円規模という金額だけを見ると大きく見えるのですが、以前は2倍以上の規模がありました。それが削られた末に、その状態で時間もここまでかかったということです。
飯田)議会で紛糾したというニュースを見ると、「与野党で揉めているのだな」という印象を受けるのですが、そうではないのですよね?
秋田)違いますね。このニュースで面白いところは、「民主党が一致していれば通せるものがここまで難航した」ということなのです。いまのアメリカの分断はバイデンさんの民主党と、トランプさんが中心の共和党支持者で分断されていると思いがちです。しかし、今回わかったことは、4分割されているということです。共和党のなかでもトランプさんの支持者と、支持しない人たちとで2分割されています。トランプさんを支持する人の方が割合としては多いのですが。
飯田)共和党も。
秋田)民主党の方でも、バイデンさんの支持層と、サンダースさん、つまり社会主義者と名乗ってしまう左派の勢力とで分断されていて、左派の勢力が「こんなにインフラにお金を使う暇があるのなら、いま審議中だけれど、教育や学費補助などのもう1つの大規模予算も通してね」と言い張って抵抗していたのです。左派と中道派という、民主党内の分裂の深さを表していると思います。
2022年の中間選挙では上下両院ともに共和党に追い風が吹く可能性も
飯田)既に知事選などが行われていて、2022年には中間選挙です。民主党内も左派の人たちの方が動員力があるのでしょうか?
秋田)左派には、黒人の方が警官に殺されたときの「ブラック・ライブズ・マター」のデモなど、動員力では運動のプロのような方たちもたくさんいるので、その可能性はあります。
飯田)左派の方が。
秋田)一方、トランプさんの支持層は現在も岩盤で、ヴァージニアの知事選でも、大統領選ではバイデンさんが勝ったのに、今回は共和党の方が勝ちました。そこはトランプ人気の後押しもあったようです。そうなると2022年の中間選挙、上下両院の議会選挙は共和党に追い風が吹いてしまうのかなという気がします。バイデンさんから見ると、両議会で共和党に過半数を獲られ、レームダックになってしまう危険が大きいのです。
飯田)よほど交渉しないと、自分の思いのこもった法案が通らなくなってしまう。
中間選挙の結果が2024年の大統領選の命運も決める
秋田)中間選挙の結果は、バイデン政権の後半2年間の行方だけではなく、2024年の大統領選の命運をも決めると思います。
飯田)次回の大統領選の。
秋田)このまま行くと、トランプさんが出て来るか、トランプさんの子どもが出て来るか、もしくはトランプさんの息のかかった人が候補になるのか。いずれにしても共和党の大統領とバイデンさん、もしかするとカマラ・ハリスさんになるかも知れませんが、熾烈な接戦になると思います。
飯田)大統領選では。
秋田)トランプ側の共和党支持者の半分近くは、「前回の選挙は盗まれた、不正だった」といまでも言っていますので、次回も僅差で負けたとすれば、結果を認めないでしょう。バイデンさんの民主党側も、今度は「トランプ陣営が不正をした」というようなことになり、前回もそうでしたが、最終的な決定は議会で票を確定するということになります。
飯田)最終的な決定は。
秋田)そうすると、今度の中間選挙で決まった議会の構成で、2024年の大統領選の結果を確定するわけです。2022年に共和党が議会で多数を獲るのか、民主党が獲るのかで、2024年の大統領選の結果が大きく変わることもあり得る、重要な選挙だと思います。
日本やインド、オーストラリアにさらに協力を求める対中政策の流れへ
飯田)アメリカがそれだけ選挙の季節を迎えて行く。その先、バイデン大統領がレームダック化する可能性もあるとなれば、外へ向かっての外交や安全保障を考えると、政治的なパワーの使い道が限られてしまうような気もしますが。
秋田)本当に心配ですね。TPPについても、アメリカはトランプさんのときに抜けましたが、始めたのはオバマ政権のときのオバマさんとバイデンさんですから、何とか求心力を保って復帰すればいいではないですか。ただ、いろいろと取材をしていても、簡単ではないようです。民主党の左派は自由貿易に対して反対なのです。TPP1つ取ってもわかるように、内部の分断の結果、必要な対外政策が打ちづらいという状態です。
飯田)民主党内でも。
秋田)一方で、中国に対する反発は強まって行く。ただ、体がついて来ないというのが、いまのアメリカなのです。そうなると、日本やインド、オーストラリアのような国に、「もっと一緒にやってね」という対中政策の方向に流れが強まって行くのだと思います。
今後、中国に対して「凌ぐ」外交の歳月が続く
飯田)その話の流れだと、TPPに関しても、中国を入れるということはリスクが高い。
秋田)日本とアメリカに関して言えば、キーワードは「凌ぐ」ということですね。
飯田)凌ぐ。
秋田)TPPも中国を入れないで凌ぐし、軍事バランスが中国優位になってしまっていることも、クアッドなどでとにかく凌ぐ。そして、早くアメリカ国内がリハビリをして団結を取り戻す。そのためには、分断の原因である格差をできるだけ癒して、アメリカが一致団結するようになるまでのリハビリ期間をつくる。アメリカもそうですが、それまでは日本も凌いで行くという外交の歳月が、これから続いて行くのだと思います。
第二次世界大戦のときのイギリスに似ている日本 ~何とか持ち堪えなければならない
飯田)そこへ来て、日本は位置的にもより中国に近いことを考えると、大戦中のイギリス、チャーチル政権の感じと似ているなという印象を受けます。
秋田)世界地図を思い浮かべてみて、あれをひっくり返すとします。そうすると、日本はイギリスの位置にあって、中国、ユーラシア、ロシア大陸はヨーロッパ大陸に当てはまります。少し似ていますよね。
飯田)左右対称のような感じで。
秋田)イギリスは第二次世界大戦のときに、大陸が次々とドイツに染まってしまった際、もしくはフランスのナポレオンが戦争を起こして、大陸で大変動が起こったときも、何とか持ち堪えた。もしイギリスが第二次世界大戦でナチスに占領されていたら、歴史は変わっていたと思います。持ち堪えたイギリスがあってのいまの歴史なのです。
飯田)そうですね。
秋田)日本も地図を逆さまにすると、そのような島です。しかも米軍が駐留している、アジア最大の拠点だということを考えると、とても重要なのです。オセロで言えば、重要な隅っこです。ここが黒になればすべて黒になってしまうし、この隅を白が死守したら状況が変わるという位置なのです。そのような国なのだと思います。
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