日本シリーズ カギ握る「外国人」と両監督の采配術
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、11月20日に開幕した日本シリーズで、ヤクルト・高津臣吾監督とオリックス・中嶋聡監督が見せた「外国人起用法」にまつわるエピソードを紹介する。
「史上最高のシリーズになること確定でしょう」という声も出るほど、連日、白熱の好ゲームが展開されているヤクルトvsオリックスの日本シリーズ。
第1戦は、オリックスの絶対的エース・山本由伸と20歳の新鋭・奥川恭伸の投げ合いとなり、9回、オリックスが2点差を逆転してサヨナラ勝ち。第2戦は、20歳の宮城大弥と24歳・高橋奎二の投げ合いで、高橋が完封しヤクルトが勝利。第3戦は一転、点の取り合いとなり、逆転、また逆転のシーソーゲームの末にヤクルトが連勝。対戦成績を2勝1敗としました。
このシリーズ、3試合とも「外国人選手」が勝敗に大きく絡んでいます。第1戦では、オリックス・中嶋監督は代打で巧妙に外国人を使います。奥川-中村バッテリーが外角中心の配球で来ているのはわかっていながら、なかなか1点が奪えなかったオリックス打線。7回、「流れを変えるには一発しかない」と中嶋監督が切ったカードが、モヤの代打起用でした。
腕が長く、アウトコースにも余裕でバットが届き、しかも長打力があるモヤ。CSでは出番がありませんでしたが、それだけに「待ってました」という気持ちだったのでしょう。外角高めのスライダーを狙いすましたようにとらえ、ライトスタンドへ。奥川が完封しかねない勢いだっただけに、終盤に飛び出したこの一発は効きました。
また9回、この回先頭の紅林弘太郎がヒットで出塁すると、伏見寅威のところで代打・ジョーンズを起用。昨年、メジャーの一流プレーヤーとして期待され来日したジョーンズですが、故障続きで1年目の出場は87試合にとどまりました。昨年は集中力を欠くプレーも目立ちましたが、中嶋監督が指揮を執るようになってチームが1つの方向を向くようになると、ジョーンズも明らかに姿勢が変わりました。
バファローズの一員として、自分もできる限りのことをしたいとチームプレーに徹し、控えに回っても腐ることのなかったジョーンズ。1-2と追い込まれながら、際どいボールを3球見逃し四球を選びます。これで無死一・二塁となり、ヤクルトの守護神・マクガフに焦りが生まれました。
続く福田周平のバントを処理したマクガフは三塁へ送球しましたが、これが野選となり無死満塁。これで平常心を失ったのか、マクガフは雰囲気に呑まれるように連打を浴び、一死も取れずにサヨナラを許してしまったのです。
あの場面で際どい球を見極めつなぐことに徹したのは、さすが元メジャーリーガーでした。勝利監督インタビューで中嶋監督が「あの四球が大きかった」と語ったのも頷けます。
一方、第2戦で、高津監督は8回、青木の決勝打で勝ち越したあと、追加点が欲しい9回。一死一塁から中村にバントを命じ、次のオスナに回しました。その犠打で二死になるわけで、つまりは「お前が決めてくれ」という信頼感の表れです。
オスナは第1戦で4打数1安打。第2戦はその打席まで3打数ノーヒットと当たっていなかっただけに、ボスの粋な計らいに燃えないわけがありません。ライト前にヒットを放ち、杉本裕太郎のエラーがあったため打点こそつきませんでしたが、1点差と2点差では、9回、マウンドに上がる高橋の心持ちも違ったはずで、結果的に大きなダメ押し点となりました。
逆転、また逆転の目まぐるしい展開になった第3戦、試合を決めたのは、サンタナのバットでした。7回、吉田正尚のタイムリーでオリックスに勝ち越しを許した直後、ランナーを1人置いた場面で、吉田凌から逆転2ラン!
サンタナはその打席まで、シリーズ無安打。しかし高津監督は、サンタナを5番から外すことはしませんでした。いつか必ず打ってくれるはずと信じ、代打も送らず、サンタナもみごと指揮官の期待に応えてみせました。
試合終了後、ハイタッチをしたあと、サンタナと「ハグ」を交わした高津監督。レギュラーシーズンでは山田・村上が打たなくても、サンタナ・オスナの両外国人が打って勝ち進んで来たヤクルトだけに、この一発は大きな意味がありました。
最後は、初戦で打たれた守護神・マクガフを予定どおり起用。マクガフは2死三塁、一打同点のピンチを招きましたが、吉田正尚を申告敬遠のあと、この日同点本塁打を打っている杉本と勝負させ、マクガフはみごと打ち取って勝利。第1戦の悪夢を払拭してみせました。
選手の心理も考えた両監督の起用が光るこのシリーズ。第4戦以降、両監督がどんな采配と、外国人起用を見せるのか? できれば第7戦まで観ていたい……心からそう思うシリーズです。