ヤクルトを日本一に導いた、外国人選手と日本人選手の絆

By -  公開:  更新:

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、激戦が続いた日本シリーズでも活躍が目立った、東京ヤクルトスワローズの外国人選手たちのエピソードを紹介する。

【プロ野球日本シリーズオリックス対ヤクルト第6戦】祝勝会で鏡開きが行われた=2021年11月28日 神戸市内のホテルで 写真提供:産経新聞社

画像を見る(全1枚) 【プロ野球日本シリーズオリックス対ヤクルト第6戦】祝勝会で鏡開きが行われた=2021年11月28日 神戸市内のホテルで 写真提供:産経新聞社

「史上稀に見る名勝負ばかり」と呼ばれた日本シリーズを制し、2001年以来、20年ぶり6度目の日本一に輝いた東京ヤクルトスワローズ。第6戦が行われた11月27日、気温ひとケタの寒空のもと、半袖姿で延長のマウンドを守り続けたのは守護神スコット・マクガフでした。

-----

『全く僕は気にしてないよ。あなたに任せている』

~『日刊スポーツ』2021年11月28日配信記事 より(マクガフに高津監督がかけた言葉)

-----

第1戦でサヨナラ打を浴び、第5戦では9回に決勝本塁打を献上するなど、ヤクルトが敗れた2敗の責任投手はマクガフでした。しかし、マクガフを信頼し続けた高津監督。第6戦では、同点の延長10回2死からマクガフを起用すると、12回まで代えませんでした。イニングを2度もまたぎ、胴上げ投手となった原動力は、指揮官のブレない継投策にもありました。

今年(2021年)6月には球団新記録となる月間10セーブを達成し、高津監督の現役時代の記録を塗り替えたマクガフ。来日3年目となり、使用するグラブを日本製に変え、日本人選手と一緒に食事に行き、いまや箸も自在に使えます。すっかり日本の生活に溶け込んでいたのもまた、指揮官の信頼を勝ち得た理由の1つかも知れません。

今年の日本シリーズは、マクガフ以外にも外国人選手が奮闘。ホセ・オスナとドミンゴ・サンタナの中南米コンビの働きも、日本一獲得の大きな力となりました。マクガフとは異なり、2人は今年が来日1年目。オスナはベネズエラ、サンタナはドミニカ共和国出身で仲がよく、日本人選手とも文字通り“一枚岩”となってシーズンを戦い抜きました。

-----

『主軸の山田選手、村上選手、青木選手が打てないときに僕たちがカバーしている。僕やサンタナが打てないときはみんながカバーしてくれている。それこそがチーム』

~『日刊スポーツ』2021年11月24日配信記事 より(オスナのコメント)

-----

日本人選手と外国人選手がカバーし合うのは、攻撃面だけではありません。ピンチでマウンドに集まるとき、ファーストを守るオスナに対してセカンドの山田哲人が通訳する姿は、シーズン中からよく見かける光景でした。

また、今シリーズで2試合連続本塁打を放ったサンタナは、その“パワー”の源として、以前、こんなエピソードを語っています。

-----

「ある試合後の夕食時に、山田と村上が卵かけご飯を食べていたんだ。母国(ドミニカ共和国)では生卵を食べる習慣が全くなくて抵抗があったんだけど、2人から『“ジャパニーズパワー”の源だ』って勧められたから、『僕もこれでパワーがつくなら食べてみよう』と思ってトライしたよ」

~『サンケイスポーツ』2021年5月7日配信記事 より

-----

彼らの活躍もあって20年ぶりの日本一に輝いたスワローズ。その20年前と言えば、当時は新加入したアレックス・ラミレスと、同年リーグ本塁打王に輝いたロベルト・ペタジーニが大活躍。さらに、ヤクルト日本一の歴史を振り返ると、今年と20年前だけでなく、どのシーズンでも外国人スラッガーたちがチームを支えていました。

例えば、球団創設初の日本一に輝いた1978年には、チャーリー・マニエルとデーブ・ヒルトン。1993年、2度目の日本一のときには、ジャック・ハウエルとレックス・ハドラーがいました。

今年と同じカードだった1995年の日本シリーズでは、初戦に先発して見事に「イチロー封じ」を演じたテリー・ブロスが先発陣の柱として活躍。また、歴史的な名勝負「小林・オマリーの14球」を演じたトーマス・オマリーはシリーズMVPに。そしてもう1人、「恐怖の8番打者」と呼ばれたヘンスリー・ミューレンは、当時、こんな言葉を残しています。

-----

『チームメイト、特に大野、金森、池山は英語もよく話してくれるのでぼくの日本語も上達した』

~『Number』1995年11月23日号 より(ミューレンのコメント)

-----

このように、ヤクルトの歴代外国人選手たちの活躍を引き出して来たのは、日本人選手たちのフレンドリー精神でした。国籍を問わず、いつでも一致団結して試合に臨む「ワンチームの精神」や「ファミリーとしての一体感」こそが、ツバメ軍団の強さの秘密であり、“スワローズらしさ”でもあるのです。

改めて、今シーズンのヤクルトの外国人選手について、前監督の小川淳司GMがこんな評価をしていました。

-----

『自分の成績だけを考えているという感じがなかった。チームの勝利のために一生懸命やってくれていた』

~『日刊スポーツ』2021年11月28日配信記事 より

-----

自分よりもチームを優先する外国人選手たちがいて、そんな彼らを、コミュニケーション力に長けた日本人選手が支える……とにかくフレンドリー精神溢れるスワローズ。これは球団の“伝統”でもあり、「だからスワローズが好き」というファンが多いのもまた事実です。

そういえば、ツバメは日本だけでなく、世界各地で「家族や愛、忠誠の象徴」として捉えられている鳥でもあります。20年ぶりの日本一は、そんなツバメ軍団の「ファミリーとしての一体感」を改めて感じさせてくれるものでした。

Page top