野口啓代 ~父がつくってくれた「壁」で積み上げたトレーニング
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黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(12月14日放送)にプロフリークライマーの野口啓代が出演。クライミングを始めたころの練習環境について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。12月13日(月)~11月17日(金)のゲストはプロフリークライマーの野口啓代。2日目は、父親が練習のためにつくってくれた壁と当時のトレーニングについて---
黒木)小学校5年生のときにグアムでクライミングと出会ったということですが。
野口)グアムのゲームセンターですね。
黒木)そして生まれてはじめて登られたのですよね?
野口)そうですね。私の実家は牧場を経営していて、牧場に生えている木や牛舎のような高いところが好きなヤンチャな子供でした。はじめてクライミングをしたときも、ゲームセンターでいろいろなゲームをやっていて、そのなかの1つにクライミングのゲームがあったという感じです。
黒木)どのようなゲームだったのですか?
野口)木の形をした高さ10メートルぐらいのものでした。
黒木)そんなに高いのですか?
野口)そうなのです。ハーネスを履いてロープを付けて、ヘルメットを被って登るのです。ゴールの最も高いところまで登ることができるかという遊びで、それがすごく楽しかったのですね。子供用の課題は簡単なのですが、まだ身長も低かったので、大人用の課題が登れませんでした。それが悔しくて、日本に帰ってからクライミングを始めるようになりました。
黒木)その当時だと、クライミングができる場所はまだ多くはありませんよね。
野口)全然なかったですね。私の実家は茨城県なのですが、最初は都内のジムまで通っていました。
黒木)そのあと、お父様がご実家に練習用におつくりになったそうですね。
野口)父は牧場の修理などが少しできたので、「壁もつくってみよう」というようなノリでつくってくれました。最初は使われなくなった古い牛舎の一角に壁を立てるところから始まりました。
黒木)いい環境で練習ができたのですね。
野口)子供のころは壁が小さかったのですが、私が16歳になってはシニアのワールドカップに出るようになると、壁も進化して、私の技術と父の壁の建築技術が同じように成長して行きました。
黒木)ご一緒に成長なさったのですね。
野口)基本的には実家にコーチが来てくれて、プライベートの壁でトレーニングしていました。
黒木)筋力なども鍛えなければいけないけれども、どのように登るかを考えなければいけない競技だそうですね。
野口)最近では「体を使ったチェス」などと言われています。最初にその課題を目で見てイメージができて、「どのように登ろうか」ということが考えられないとできないですね。ただ、そのようなところは経験値で、どれだけたくさんの課題を登って、動きのパターンをやって来たかになります。たくさんクライミングをして来たからこそ、オブザベーションもできるようになるのです。
黒木)やはり練習量は大切なのですね。
野口)練習量はやはり大切で、クライミングの「重力に逆らって登る」という行為は、他のスポーツにはなく、日常生活にもないものです。単純に重力を感じて、登って行くなかでしか鍛えられない部分なので、まずは「登る時間」という感じでした。
黒木)入門編というか、YouTubeでヒールを引っ掛けて、それで間接と足首を回して行って登るというのも観たのですが、「なるほど」と思いました。ただ力だけで登っているのかなと思っていたのですが、そうではない技術もたくさんあるのですね。
野口)そうですね。クライミングはまさに心技体で、体の強さも必要ですし、技術も必要ですし、あとはルートを読み解いて集中するというメンタルも必要です。複雑な競技だと思います。
黒木)そこが1つの魅力でもあるということなのですね。
野口)奥が深いなと思います。
野口啓代(のぐち・あきよ) / プロフリークライマー
■1989年・茨城県生まれ。
■小学5年生の時に家族旅行先のグアムでフリークライミングに出会う。
■クライミングを始めて・わずか1年、小学6年生の時に全日本ユース制覇。
■その後、数々の国内外の大会で輝かしい成績を残し、2008年には日本人としてボルダリング・ワールドカップで初優勝。2009年には年間総合優勝。以降、4度の年間総合優勝の栄誉に輝く。ワールドカップ優勝は通算21勝を数え、「クライミング界の女王」と呼ばれる。
■2019年・世界選手権で2位となり、東京2020の代表に内定。
■競技人生の最後の舞台となった東京2020大会では銅メダルを獲得。現役引退を発表し、現在はクライミングの普及のため・様々な活動に尽力。
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毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳