名監督への登竜門 高津監督が語る「理想の2軍監督」
公開: 更新:
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、ヤクルト・高津臣吾監督、オリックス・中嶋聡監督など「2軍監督を経て1軍の指揮官に昇格した監督」と、「今季の新2軍監督」にまつわるエピソードを紹介する。
昨年(2021年)のプロ野球でリーグ制覇を果たした、東京ヤクルトスワローズとオリックスバファローズ。ともに「前年度最下位からの優勝」ということで話題を集めましたが、実は他にも共通項があります。
ヤクルトを指揮する高津臣吾監督、オリックスを率いた中嶋聡監督、両者がともに2軍監督からの昇格組である、ということ。そしてどちらも、2軍監督時代から目をかけて来た選手を抜擢し、その活躍がものを言っての優勝でした。
高津監督は、2軍監督時代に入団した村上宗隆を筆頭に、昨季ブレイクを果たした塩見泰隆や、投手では高橋奎二らが大活躍。日本シリーズ第2戦では高橋奎二の「代え時」を見誤らず、最後まで投げさせてプロ初完投初完封。その決断ができたのは、2軍時代から高橋のいいときも悪いときも把握して来た高津監督だからこそ、とも言えます。
高橋奎二の起用法について、高津監督は2軍監督時代にこうコメントしています。
『高橋を育成するにあたっては、細心の注意を払い、中9日からスタートして、段々と登板間隔を短くしていくプランを立てていた。中9日であれば、高橋は一軍でも素晴らしい投球を披露できる能力が備わっている。僕が高橋に教えなければいけないのは、登板間隔を短くしていった時に、身体にどんな変化が起きるかを自覚させることなのだ』
~高津臣吾著『二軍監督の仕事~育てるためなら負けてもいい~』(光文社新書)より
昨年、奥川恭伸の「中10日制」が新たな投手の起用法・育成法として話題になりました。それは決して突然のひらめきではなく、2軍監督時代から蓄積して来た知見の賜物でもあったのです。
同様に、オリックス・中嶋監督も、2軍でなかなか芽が出なかった杉本裕太郎や宗佑磨を1軍レギュラーに引っ張り上げ、両者ともリーグ制覇の立役者になりました。ショートで入団したものの通用しないと外野手に転向した宗に対して「サードをやってみないか」「お前ならできる」と再度のポジション変更を打診した中嶋2軍監督。そこから宗はゴールデングラブ賞を受賞するまでに至ったのですから、その眼力たるや見事という他ありません。
その意味で、「これからのプロ野球を面白くするのは、2軍を知る監督である」と言っても決して過言ではありません。今年(2022年)のプロ野球を見渡すと、2軍監督出身者の新監督が誕生、また、注目の「新人2軍監督」もデビューと、話題には事欠きません。
まずは、工藤公康前監督の後を受け、2軍監督から昇格した福岡ソフトバンクホークスの藤本博史新監督です。藤本監督は、2軍監督の前に3軍監督も経験。すべての選手を入団したころから熟知しています。
「育成のホークス」として、千賀滉大、甲斐拓也を筆頭に育成出身選手を数多くスター選手に育て上げて来た球団も、ここに来て勢いはトーンダウン。2軍・3軍を見て来た藤本監督がどんな「秘密兵器」を抜擢してくれるのか、大いに注目です。
その他、西武の松井稼頭央・新ヘッドコーチも昨季は2軍監督を経験。阪神の矢野燿大監督、DeNAの三浦大輔監督も2軍監督を経ての昇格組です。
かつては、一時代を築いたスター選手が引退後にそのまま監督に就任したり(巨人・長嶋茂雄終身名誉監督が代表例)、解説者として外から野球を見たあとに就任するケースも多かった日本のプロ野球。NPB球団での正式なコーチ経験がないまま指揮官に就任した中日・立浪和義監督、日本ハム・新庄剛志監督のような指揮官と、2軍監督を経験した叩き上げタイプの指揮官とで、どんな采配の違いが生まれるのかに注目するのもまた一興と言えます。
また、今季の新2軍監督も要注目です。日本ハム・木田優夫2軍監督は、高津監督同様、メジャーリーグも独立リーグも経験しています。その豊富な経験値と手腕が若手育成にどう発揮されるのか、こちらも楽しみです。
またソフトバンクでは、藤本監督の1軍指揮官昇格に伴い、空いた2軍監督のポストには昨季まで1軍ヘッドコーチを務めた⼩久保裕紀氏が就任。元侍ジャパン指揮官が2軍監督に就任するのは、もちろん初めてのことです。
中日は、立浪監督とPL学園高時代に同期生だった片岡篤史氏が、解説者から2軍監督に就任。片岡2軍監督は登録者数約28万人の人気YouTuberでもあり、その活動は続けたままファームを指揮するそうです。どんな相乗効果が生まれるのでしょうか?
それぞれ、どんな2軍監督像をつくり、どんな新戦力を1軍に送り出せるのか。今季はそんな視点で、2軍も含めて春季キャンプを楽しんでみるのはいかがでしょうか。
最後に、日本一に輝いた指揮官・高津臣吾監督の言葉で締めくくりたいと思います。
『もちろん、技術を教えることは大切な仕事だ。ただ、どの国であっても、いい野球の指導者というのは、試合で若い選手たちを送り出す時に、「頑張ってこい!」と背中をポンッと押せる人だと思う。僕は、二軍でそういう仕事をしたい』
~高津臣吾著『二軍監督の仕事~育てるためなら負けてもいい~』(光文社新書)より