ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」(2月18日放送)に朝日新聞編集委員で元北京・ワシントン特派員の峯村健司が出演。ハイブリッド戦について解説した。
ハイブリッド戦
ハイブリッド戦とは、戦闘機や艦船などの軍事力だけに頼らない作戦のことを言う。例えば、軍艦ではない船舶による領海侵入や上陸、正規軍ではない武装兵の動員、電力や通信網といったインフラの破壊、サイバー攻撃によるフェイクニュースの拡散などで相手をかく乱し、知らぬ間に優位な状況をつくり出すことを狙いとする。このハイブリッド戦が現在も展開されている。ウクライナの情報通信当局によると、ウクライナ国防省や軍、大手銀行のサイトが2月15日、サイバー攻撃を受けたことがわかった。国防省のサイトはアクセスできず、銀行の顧客はオンライン取引などができなくなったということである。
新行)ウクライナ情勢をめぐっては、偽の情報も発信されているのではないかという報道もありますが。
ロシアがクリミア半島を占拠したときの状況に似ている ~ハイブリッド戦の教科書のようなやり方
峯村)アメリカ国務省のプライス報道官が2月16日に言った、「2014年の状況とすごく似ている」という言葉が印象的でした。2014年、つまり「ロシアがクリミア半島を占拠したときの状況に似ている」と言ったわけです。これがまさにハイブリッド戦の教科書のようなやり方でした。
新行)教科書のような。
峯村)正規軍がやるのではなく、どこの軍なのかもよくわからない兵士が破壊工作をしたり、サイバー攻撃によって停電などを起こしたりして、混乱に乗じて入って来る。いわゆるゲリラ的なやり方をして、いつの間にかその地域を掠め取ってしまうという方法です。今のウクライナでも似たようなことが行われている、とアメリカ政府がみているわけです。
新行)クリミア半島を占領したときのような。
峯村)それに対して、ロシア側は最近「軍事技術的な対応をする」という言い方をしています。軍事技術的という言葉の意味はよくわからないのですけれども、先日、アメリカ政府の当局者と意見交換をしたところ、おそらくハイブリッド戦のことを指しているのではないかということでした。
ハイブリッド戦は孫子の兵法そのもののやり方 ~十数年前から中国は考えていた
峯村)ハイブリッド戦は、我々日本にも大きな影響が及ぶ話で、最もハイブリッド戦が得意な国は、ロシアよりもむしろ中国ではないかと考えています。
新行)中国。
峯村)ハイブリッド戦と言うと難しく聞こえるのですが、「戦わずして勝つ」という、まさに孫子の兵法のやり方なのです。血をあまり流さずに成果を得る。相手を騙したり、自分を大きく見せたり、不意打ちしたりするやり方は、孫子の兵法そのもののやり方なのです。中国は2000年以上、これをやって来ているわけです。
新行)孫子の兵法。
峯村)ハイブリッド戦が最近騒がれていますけれど、私が中国で特派員をしていた十数年前から、ハイブリッド戦のようなことを彼らは考えて準備を進めていました。
新行)十数年前から。
峯村)私は、ハイブリッド戦は中国人の「DNA」に組み込まれてすら思っています。。私からすると「ようやく時代が追い付いて来たな」という感じがします。ハイブリッド戦は台湾や尖閣有事の際にも、中国がおそらく使うであろうとみられているやり方です。つまり、例えば尖閣などで、戦争か戦争でないかいいう曖昧な状況で中国が攻勢をかけてきたら、頼みのアメリカ軍もなかなか入って来られない状態になります。台湾に関してもそうですね。
新行)台湾に関しても。
峯村)例えば、国籍不明の軍人が台湾のなかで動乱を起こして、いつの間にか台湾の総統府や、いろいろな政府の役所を占領してしまった場合でも、中国が「うちは関係ないです」と言い続ければ、アメリカなどが介入しづらいわけです。これはサイバーや電磁波攻撃などでも同じことが言えます。誰がやっているのか突き止めにくい。一種のテロのようなやり方ができるという意味では、非常に恐ろしい戦争のやり方だと思います。
日本はハイブリッド戦に速やかに対応するべき
新行)ハイブリッド戦について、日本がどう備えて行くかというところも大切ですね。
峯村)可及的速やかに対応すべきですね。
新行)ハイブリッド戦について、ご意見もたくさんいただいています。“吉岡のター坊”さんからは、「ハイブリッド戦とは、侵略するために何でもやるようなものですね」といただきました。
峯村)「手段は選ばず」です。使えるものは何でも使うので、予測しづらいですし、見極めるのも難しい。まさにグレーなやり方なので、防ぐのも難しいですよね。
偽情報に対する「体制」も「耐性」もない日本
新行)いろいろな国々を見ると、フィンランドなどは、小学校の段階から偽情報への対応を教育するそうですね。
峯村)フィンランドにはロシアの潜在的な脅威がありますので、「この情報は本物なのか、偽物なのか」というところを見極める訓練をしています。日本ではそういう教育があまりないのが現状です。
新行)日本には。
峯村)台湾の話をしましたが、台湾も何十年も中国の脅威に向き合うなかで、フェイクニュースに向き合う態勢(たいせい)ができているのです。そういう意味では、日本の方がやはり心配ですね。「態勢」と「耐性」の両方が足りていません。偽情報を見極めて対処する訓練ができていないので、両方の意味で非常に心配です。
偽情報への対応は国民1人ひとりの問題
新行)偽情報というと、知らない間に自分が使っているSNS、ツイッターやインスタグラムなどで、意図せず偽の情報を拡散してしまう恐れもありますよね。
峯村)私もたまに「あ、これは大事だな」とか「これはひどいな」と思ったらリツイートしてしまうのですが、「リツイートする前に本文を読みましょう」と警告がよく出ます。それは本当に大事なことですし、ダブルチェック、トリプルチェックするということは、偽情報に惑わされないために大切なことです。
新行)他の国々がやっているように、教育を通じて偽情報への対応力を子どものころから培うことも大切ですね。
峯村)そうですね。この辺りは本当に国民1人ひとりの問題です。これまでであれば、軍や自衛隊の方々がやればよかったものが、そうではなくなって来ている。国民みんなで対処しなければならないことが、ハイブリッド戦の肝だと思います。まず意識を持つことが大事です。「こういうことが行われているかも知れない」「もしかすると嘘かも知れない」と思うことが大事です。
新行)先程、峯村さんが「ようやく時代が追い付いて来た」とおっしゃっていましたけれども、どちらかと言うと「少し遅いよ」という気持ちもありましたか?
峯村)でも、遅くてもまだ間に合う話なので、注意喚起することは大事です。この間も、自民党の国会議員向けの勉強会の講師として、、ハイブリッド戦も含めた世論工作やインフルエンスオペレーションの話をする機会がありました。あまりそのような講演の機会はなかったようで、相当反響があったようです。少し言い過ぎたかなと思ったのですが、「あなたたちこそが狙われているんだ!」と強調しました。
新行)「ビクッ」としますよね。
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