北京パラ クロカン「金」の川除大輝を救った師・新田佳浩の「一言」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、3月7日、北京パラリンピックで金メダルを獲得したクロスカントリースキー・川除大輝(かわよけ・たいき)選手にまつわるエピソードを紹介する。

北京パラ クロカン「金」の川除大輝を救った師・新田佳浩の「一言」

【北京2022パラリンピック 日本選手団結団式】結団式後、記者会見をする川除大輝旗手=2022年2月24日午後、東京都新宿区 写真提供:産経新聞社

熱戦が続く北京パラリンピック。競技初日から村岡桃佳・森井大輝ら、前回平昌大会のメダリストが表彰台に上り、いい流れが生まれています。

その勢いに乗るかのように、大会4日目の3月7日、「雪上のマラソン」とも呼ばれるクロスカントリースキーで快挙が生まれました。男子20キロクラシカルの立位クラス(立って滑るクラス)で、21歳の川除大輝が初の金メダルを獲得したのです。

生まれつき両手・両足の指が一部欠けた「先天性両上肢機能障害」の川除は、ストックを持たずに両腕を大きく振ってスキーを滑らせるダイナミックな走法が持ち味です。序盤から積極的なレース展開でトップに立つと、もともと想定していた「後半にペースを上げる」という狙い通りのレース運びで、後半に入ると2位との差をどんどん広げ、最後は1分30秒以上の差をつけての圧勝劇。21歳での金メダルは、冬季パラリンピックの日本男子最年少記録でした。

また、同じレースでは、平昌大会の金メダリストで、北京が日本勢最多7大会連続出場となる41歳・新田佳浩が7位入賞。今大会を「競技生活の集大成」と位置付けている新田は、ベテランの意地を見せてくれました。

新田は2010年、カナダ・バンクーバー大会で金メダルを2つ獲得するなど、20年以上も世界の第一線で活躍を続けて来たレジェンド。そして川除にとっては「憧れ」であり「ライバル」であり、「師匠」とも言える存在です。

2人の出会いは2010年5月、バンクーバー大会直後のことでした。当時、小学4年生だった川除は、新潟県のスキー場で新田と会い、そこでバンクーバー大会の金メダルを首に掛けてもらったことで、競技により打ち込むようになったと言います。

そんな川除が初めて国際大会に出場したのは、まだ中学2年生だった2015~2016年シーズンでした。ワールドカップ旭川大会に順位の付かないオープン参加で出場。新田を始め、世界レベルの選手たちの滑りを間近で目撃し、より本格的に世界を目指す決意を固めたのです。

そのときの心境について、ニッポン放送のパラスポーツ応援番組「ニッポンチャレンジドアスリート」のなかで、川除はこう語っています。

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『世界の選手の滑りを見たときにすごいレベルが高いというか、見ていて世界にもこんな選手がいるんだなと感じて、自分もその舞台に立って強い選手に勝ってみたいなという気持ちを強く持ったので、この競技の世界に入りました』

~2022年2月放送「ニッポンチャレンジドアスリート」より

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その後、新田も所属する日立ソリューションズスキー部で技術を磨いた川除は、前回平昌大会に17歳にして初出場。初めてのパラリンピックに不安と緊張で押しつぶされそうになっていた川除を救ってくれたのも、新田からの「いままでやって来たことを出せば結果が出るから」という言葉でした。

平昌大会での川除は、男子20キロフリーとスプリント・クラシカルでともに9位、男子10キロクラシカルでは10位。混合リレーではアンカーを任されたものの、表彰台圏内から順位を落とし、最後はメダルにあと一歩の4位と、決して満足のいく成績ではありませんでした。

その悔しさを糧にすべく、スキーの名門・日本大学に進学。充実した設備でこれまで以上にウエイトトレーニングなどにも打ち込み、2019年の世界選手権では、新田以来16年ぶりとなる金メダルを獲得。W杯でも勝利を重ねるなど急成長ぶりを見せ、今回、2度目のパラリンピックに臨みました。

一方の新田は、川除とともに平昌パラリンピックに出場したことで、自身の心境に変化が生じたと言います。以下、「ニッポンチャレンジドアスリート」に出演した際の新田のコメントです。

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『平昌までは、自分自身がこのチームを引っ張っていこう、と思っていたんですけれども。そこから一歩下がって、というのはおかしいんですけども、次の若い選手にバトンパスをすること、技術の継承をしていくことが、これからのぼくがやっていく方向性かなと思っています』

~2018年7月放送「ニッポンチャレンジドアスリート」より

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新田が道を開き、長年に渡って守り抜いて来た栄光の歴史。新田を師と仰ぐ川除はそのバトンを受け継ぎ、北京パラリンピックでみごと結果を出したのです。金メダル獲得後に川除が語った言葉は「歴史の継承」を物語るものでした。

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『ずっとトップを走ってきた新田さんに、自分が次はチームを引っ張っていける力がついたよ、という証明が出来たと思う。これからも頑張っていきたい』

~『読売新聞オンライン』2022年3月7日配信記事 より(川除大輝コメント)

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2人にとっての北京パラリンピックの舞台は、これで終わりではありません。個人種目だけでなく、大会最終日(13日)には、前回惜しくもメダルを逃した男女混合リレーが待っています。平昌同様、新田が川除とともにメンバーに選ばれた場合、これがパラリンピックで師弟が一緒に滑る最後のレースになるかも知れません。有終の美を飾れるかどうか、大会最終日まで目が離せません。

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