ロシア軍の「弱さ」の根本は「中間管理職」に任せないソ連的組織論
公開: 更新:
ニッポン放送「飯田浩二のOK! Cozy up!」(3月25日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。1か月となったロシアのウクライナ侵略について解説した。
“逃げない”優秀な政治家 ゼレンスキー大統領
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアの軍事侵略から1か月となるのに合わせ3月24日、世界に向けてのビデオメッセージを公開した。そのなかでゼレンスキー大統領は「これはウクライナに対する戦争というだけではない。ロシアが始めた自由に対する戦争だ。世界はこの戦争を止めなければならない」と述べた。
飯田)このメッセージ、あるいは先日行われました国会での演説をどう受け止めるべきか考えていきます。
宮家)あの演説を聞いていてまずいちばん驚いたのは、まあ当たり前の話なのですが、演説が終わったら各議員立ち上がってスタンディングオベーションしましたね、大拍手でしたよ。これを日本の総理の施政方針演説が終わったあとやるでしょうか? だれもやらない。日本ではスピーチや演説って、みんなぼーっと聞いているのだけど、やっぱりスピーチというのは本来人の心を奮い立たせるものですよね。言葉に力を乗せて人を引っ張っていくものなのだけれども、それをウクライナの大統領が日本でやって素直にみんなが反応したのを久しぶりに見て、やっぱりスピーチっていいなと思いましたね。
このゼレンスキーさんという人も大したものだと思うのですよ。初めは、大丈夫かな? と思う部分もあった。それは何かというと、2月だったか、ロシアが攻めてくるかと大騒ぎになったときに、侵攻前でしたけれども、早い段階で「NATO加盟を定めた憲法を直してもいいよ」などと言った、言わない、という報道があって、早めに「NATO加盟断念」という切り札切ってしまったらどうするのだろうと思ったのですが、やっぱりこの人はその後化けましたね。
飯田)化けた。
宮家)優秀な政治家であると同時に、元々はコメディアンでもあったのですが、コメディアンは頭がよくないとできませんから、その意味ではちょうどいいリーダーがそこにいたということです。なぜこんなことを言うのかというと、去年2021年の8月15日にアフガニスタンのカブールが陥落しましたよね。そのあとどうなりました? アフガニスタンのガニ大統領は国外逃亡したのですよ。
飯田)あっという間に逃げました。
宮家)大統領が真っ先に逃げるような国だったらそれは汚職がはびこりますよ。もちろんウクライナに汚職がないとは言わないけれども、あの大統領は逃げなかったのですよ。これはリーダーとして、やっぱり命がけですからね、大したものだなと思いました。
飯田)自撮りしながらね、国防大臣や補佐官と一緒に「俺たちはここにいるんだ!」というのをいち早く出しましたよね。
宮家)しかも演出が非常にうまい。いい意味でね、悪い意味じゃないですよ。
攻撃は得意だが守備は全くだめなロシアの情報戦
宮家)アメリカも今回は情報戦を非常に重視して、もちろん軍事支援、特に武器弾薬を送ってはいるのだけれども、アメリカ軍はウクライナ国内には入れませんからね。でも、入らないからこそ、直接戦闘に至る以外の支援はすべてやっているような部分があって、そのなかでも非常に重要なのは情報戦だと私は思っています。
実はいま詳しく情報を集めて勉強しているのですが、いったいアメリカはいつの段階からロシアの動きを察知して、それに関する情報をどんどん出しはじめたのか。そうすることによってロシアの出鼻をくじくというか、抑止をするというか、要するに「そこまで読まれてしまっているのか、バレバレだったらやっぱりやめるか」みたいな感じでロシア側をけん制していた部分がありまして、これかなり効いていたと思うのですよね。それにうまく合う形でウクライナの大統領、大統領府、そして周りのいい意味での演出家たちが非常に上手に連携していった。いま自撮りの話をされましたけれども、ああいう形で持っていくとロシアは劣勢ですよね、情報戦では。ロシアの情報戦は、確かにアメリカの大統領選挙に介入したりして、攻撃は得意なのだけれども、守ろうとしたら全然だめですね。びっくりしちゃいました。
あともう1つ情報で思い出したのですが、今回ロシア軍の話を聞いて一番驚いたのがですね、とにかくロシア軍同士の通信に暗号がかかってないのですって。
飯田)携帯電話で普通に通話しているという話がありますよね。
宮家)ウクライナ人はロシア語話す人が多いけれど、ロシア人はウクライナ語をしゃべれない。ウクライナ人は無線を全部聞いているから、どこにロシアの将軍がいて、どこにどんな部隊があるか相当わかってしまうのですよ。それに、おそらくアメリカがいろいろなところからロシア軍を見ていて、当然ウクライナ側に情報が流れる、NATOからもいろいろな情報が流れてくる。これはもうロシア軍が普通の戦い方しかしていなかったみたいですね。
飯田)だからこそ少将だとか中将だとか、将軍レベルの人が戦場で戦死しているというのは、そういう情報があって「ここにいるぞ」とピンポイントで狙えるからというのがあるわけですか。
中級の指揮官に権限を委譲しないロシア軍の動きの悪さ
宮家)そうです。もう1つ、アメリカの軍の関係者が公式に言っているのだけれども、そもそも米露では軍隊のつくり方がちょっと違うのだと。アメリカの場合は将軍がいてその下に歩兵がいるでしょう、その間に中間管理職の軍人がちゃんといるわけですよ。その中間管理職に将軍様は権限を相当程度委譲しているから。
飯田)現場に下ろしているのですか。
宮家)そう、ですから中間管理職、中級の指揮官が現場で相当のことを決められるのですよ。戦場というのは状況がどんどん変わるわけですから、いちいち上に伝えている間に戦いは終わってしまうわけですよ。そうならないようにアメリカは中間管理職を養成してきた。ところがソ連の時代からロシアはそれが出来ていないらしいのですよね、おそらく中国も同じだと思うのですけれども。ああいう自由のない国ほど部下はやっぱり上を見てしまうから、そうすると軍隊組織としては動きが良くない。そうするとどうしてもすべての情報が将軍様に集まる、すると司令官がどこにいるか分かってしまう、それでやられちゃう。こういうことらしいですよ。
飯田)なるほど。日本でも会社でプロジェクトをやるときにPDCAというのがよく言われますけれども、PlanがあってDoがあってCheckがあってActがあってという。最近ではOODA(Observe、Orient、Decide、Act)といっていますが、計画があって実行、評価、改善というサイクルをガンガン現場で回していくみたいなことが言われると。そこら辺のオペレーションの違いみたいなものが大きく出てくるかもしれないですね。
宮家)大きいですよ。自分の経験だから言うわけではないけども、日本の役所でも仕事を一番よく知っているのはやっぱり係長さんですよね。
飯田)なるほど、現場の指揮官。
宮家)日本の指揮官、少なくとも僕の経験で言えば、課長になったら課内の全部は見られないじゃないですか。そうするとある程度、下に任せるしかないわけですよね。上に行けば行くほど首切られる覚悟で下に仕事を任せて、最後は責任をとるというやり方が組織としてはいちばん効果的だと思っていたのですが、軍隊も同じだと思いますね。ですから、ロシアのやり方がうまくいかないのは、いろいろな理由があるでしょうけれども、組織論の点からも今回は問題があったみたいですね。
飯田)いろいろと気になるニュースが出てきていまして、ウクライナ軍がベルジャンスクというアゾフ海のあたりの港に停泊していたロシアの大型の揚陸艦をミサイル攻撃で沈めたという話が出てきました。
宮家)なんじゃそりゃ?という話ですよね。だいたい、船は港にいるときがいちばん危ないわけだから。それをやすやすとやられてしまう、だからロシア軍はオデッサに行けないわけでしょう。そういうことを考えると、そもそものロシア軍の今回の戦争計画自体が非常に稚拙だった。それから指揮命令もダメ、通信もダメ。そして兵士の士気、モラルもダメ。こんなに弱い軍隊のはずないのだけどなと、みんなびっくりしたのではないでしょうか。当初は2日3日で終わると言われていたけれど、甘かったですね。
ロシアがシリアで行ったような残虐非道を阻止する「正念場」
飯田)ただこうなってくると膠着を打開するために何をするかというところが。
宮家)「窮鼠猫を噛む」かどうかは分からないけれども、何をするか分からないというところで、あんまり追い詰めすぎてもいけない。かといって厳しく対応しなければいけない。これからおそらくウクライナの戦争の正念場が来ると思いますよ。
飯田)膠着というと事態が動かないというところで停戦と同じようなイメージかもしれませんが、全く違いますよね。
宮家)彼らの膠着は要するに都市を包囲して砲撃して皆殺しにするということですからね。無茶苦茶な事をするということですから、それを阻止しなければいけないのだけれど。実際にこれは彼らがシリアでやったことですからね。
飯田)そうですね。アレッポがどうなったかということですね。
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。