球団新人セーブ記録更新! 巨人の新守護神・大勢の「べっちょない」精神

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、4月13日、球団の新人セーブ記録を更新した巨人のルーキー・大勢投手にまつわるエピソードを紹介する。

球団新人セーブ記録更新! 巨人の新守護神・大勢の「べっちょない」精神

【プロ野球巨人対DeNA】球団新人最多セーブ記録を更新し笑顔でボードを掲げる巨人・大勢=2022年4月13日 沖縄セルラースタジアム那覇 写真提供:産経新聞社

『セーブシチュエーションをこんなにたくさんつくっていただいた野手の方たちだったり、僕のところまでつないでくださった先輩方のおかげだと思っています。ありがとうございます』

~『スポニチアネックス』2022年4月13日配信記事 より(大勢のコメント)

4月13日、那覇で行われた巨人-DeNA戦で1点リードの9回に登板した巨人の新守護神・大勢。まずは先頭の藤田をセカンドゴロに打ち取り、続く関根・梶原を連続三振に仕留めて、リーグトップの通算8セーブ目を挙げました。これで大勢は、角三男(現・盈男)が1978年に記録した球団の新人セーブ記録「7」を4月中に早くも更新。実に44年ぶりの快挙でした。

大勢は今季(2022年)、13日現在で9試合に登板して1勝8セーブ。つまり「大勢が投げれば、チームは必ず勝つ」のです。巨人がスタートダッシュを決められたのは、このスーパールーキーのおかげと言っても過言ではありません。

クローザーは抑えて当たり前。もし追い付かれたり逆転されたりすれば、それまでみんなが積み重ねてきたものが無になってしまう……そんなプレッシャーもかかるタフな仕事です。そんな大役を、つい先日大学を卒業したばかりのルーキーが担っているのですから驚くほかありません。しかし本人は、日に日に高まる周囲の期待について、サラリとこう語っています。

『プレッシャーとかは特にないです』

~『日刊スポーツ』2022年4月13日配信記事 より

昨季(2021年)、巨人で主にクローザーを担当したのはビエイラ(19セーブ)とデラロサ(7セーブ)の2投手でした。優勝したヤクルトはマクガフが1人で31セーブを挙げ、2位の阪神もスアレス(昨季限りで退団)が42セーブで最多セーブのタイトルを獲得。シーズンを通じてクローザーを固定できなかったことも、巨人が3位に終わった理由の1つです。

ペナント奪回と10年ぶりの日本一を目指す原監督にとって「絶対的守護神」は必要不可欠。ところが開幕前、クローザー候補のビエイラが不振で2軍落ち。急きょ代役に抜擢したルーキーがその役目を完璧にこなしてくれているのですから、「神様・仏様・大勢様」と拝みたい気分でしょう。大勢の記録更新について、原監督は試合後にこんなコメントを残しています。

『やっぱり打者を見ずに、ミットを目がけて放っているというところが今の彼の一番の良さじゃないでしょうか』

~『日刊スポーツ』2022年4月13日配信記事 より

新記録を達成した13日の試合、大勢は11球を投げ、うちストレートが9球。すべて150キロ台でした。余計なことは考えず、捕手が構えたところに思いきり腕を振って投げ込む……この投げっぷりのよさも好結果につながっている気がします。

『1点差だったんで、もう先頭バッターからしっかり自分のまっすぐで押していこうというか、しっかり抑えようっていう気持ちで上がりました』

~『スポニチアネックス』2022年4月13日配信記事 より

この物怖じせず「打者に向かっていく気持ち」「負けん気」こそ大勢のいちばんの魅力。ビエイラに代わって守護神を務めることになった際も、大勢はこうコメントしました。

『代役で終わらせない。1年間(クローザーの座を)守り切れるように』

~『東スポWeb』2022年4月13日配信記事 より

そんな大勢の「強い気持ち」が存分に発揮されたのが、プロ初登板となった3月25日、中日との開幕戦です。コロナ禍による入場制限が緩和され、久々に3万8156人の大観衆で埋まった東京ドーム。筆者もそのなかの1人でした。4-2と2点リードの9回、大歓声に包まれて大勢が登場。

2点差とはいえ、ランナーが1人出て一発を食らえばすぐに同点。もし追い付かれたら、エース・菅野の開幕戦勝利を消すことになります。並のルーキーなら緊張でカチコチになり、ストライクが入らなくなるところ。

ところが大勢は、先頭の平田をいきなり空振り三振に仕留めます。その最後の球が、自己最速タイとなる158キロの真っ直ぐでした。初の大舞台で腕がすくむのではなく逆に思いきり腕が振れるあたり、やはり只者ではありません。

しかし、そこから「プロの試練」が訪れます。大島・岡林に連打を浴び1死一・二塁。続く溝脇を155キロの真っ直ぐでセカンドゴロに打ち取りますが併殺にはならず、ビシエドに死球を与えて二死満塁。一打同点、長打が出れば走者一掃で逆転という絶体絶命のピンチに陥りました。

この場面、「ルーキーにこの大役は、ちょっと荷が重すぎたのでは?」と思いましたが、大勢はやはり並のルーキーではありませんでした。本人はこうコメントしています。

「不思議な力が出ました」

~『日刊スポーツ』2022年3月26日配信記事 より

重圧に押し潰されるのではなく、逆に力に変えた大勢。続く木下拓を内角への156キロ真っ直ぐで詰まらせ、ピッチャーゴロでゲームセット。みごと「新人が開幕戦でプロ初登板初セーブ」という球団史上初の快挙を成し遂げてみせたのです。翌日の開幕第2戦でも「新人投手が開幕1・2戦で連続セーブ」という史上初の記録をつくり、不敗神話がスタートしました。

そんな大勢の心の支えになっているのが、グラブに刺繍した「べっちょない」という言葉です。出身地である兵庫・多可町の方言(播州弁)で「大丈夫」という意味。大勢は西脇工業高3年のときからこの言葉をグラブに刻み、辛いときに見返しています。

『(しんどい時でも)なんとかなるだろうみたいな。たぶん周りよりかは焦っていない』

~『日刊スポーツ』2021年11月9日配信記事 より

大勢は高校3年のとき、ドラフトで悔しい指名漏れを経験。関西国際大4年のときに右ヒジを疲労骨折し、プロ入りすると新型コロナウイルスに感染。春季キャンプは3軍スタートと出遅れました。決して順風満帆な野球人生ではありませんでしたが、そんな逆境を乗り越える原動力になったのが「べっちょない」精神です。どんなときも焦らずマイペースを貫いてこられたのは、この言葉があったからこそ。

そして今回の「球団新人セーブ記録」は、大勢にとって通過点に過ぎません。10セーブ目はおそらく4月中に達成するでしょうし、その先にあるのは、山﨑康晃(DeNA、2015年)と栗林良吏(広島、2021年)の持つ新人最多セーブ記録・37セーブの更新です。山﨑が10セーブ目を挙げたのは登板15試合目、栗林は19試合目ですから、13日現在、9試合で8セーブの大勢はかなり速いペースで、更新の可能性は十分あります。

首脳陣は故障明けのヒジのことも考え、いまのところ3連投は避けていますが、大勢の不敗神話、セーブ数は果たしてどこまで伸びるのか? 巨人V奪回のカギは、この強心臓ルーキーが握っています。

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