岸田総理が東南アジアと欧州の両方を歴訪した「もう1つの理由」

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が5月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロンドンで行われた日英首脳会談について解説した。

岸田総理が東南アジアと欧州の両方を歴訪した「もう1つの理由」

2022年5月4日、記者の質問に答える岸田総理~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202205/04bura.html)

日英首脳会談 ~共同訓練の円滑化協定で大枠合意

岸田総理大臣は5月5日、ロンドンでイギリスのジョンソン首相と会談した。両首脳は自衛隊とイギリス軍の相互訪問時の法的基盤となる「円滑化協定(RAA)」締結に向けた大枠合意を確認。また、ジョンソン氏は2011年の福島第一原発事故後にイギリスが導入した福島県産などの食品の輸入規制を6月末までに解除する方針を伝えた。

飯田)円滑化協定に関して、見出しを立てて報じているところもあります。

日英同盟の復活 ~AUKUSを含め、米豪英とより連携を強める

宮家)誤解を恐れずに言えば、日英同盟の復活ですよね。イギリスはEUから離れ、ヨーロッパ大陸とは少し違う立場。日本もアジア大陸とは違う島国です。やはり海洋国家として共通の利益があるわけです。

飯田)日本とイギリスは。

宮家)Reciprocal Access Agreement(RAA)というのは、すなわち相互アクセス協定です。これを「円滑化協定」と呼んでいるのだけれども、何が重要かと言うと、お互いの軍隊が相手国に滞在する場合には、自衛隊やイギリス軍の課税の免除、事件・事故の際の裁判権の問題などを整理して相互のアクセスを円滑化する。要するに地位協定に似た概念ですよね。

飯田)地位協定に。

宮家)もちろん相互アクセスですから、Status of Forces Agreement(SOFA)とは違うのですけれどもね。駐留ではないのですが、いかに両軍の協力が緊密になり得るかということです。さらに大事なことは、アメリカとは地位協定があり、RAAという相互アクセス協定はオーストラリアとも結んでいるということです。オーストラリアとアメリカ、そしてイギリスが絡めば、それは「AUKUS(オーカス)」ですよね。

飯田)なるほど。

宮家)必ずしも地位協定ではないけれども、AUKUSの国々と、それに似た法的な地位をお互いに認め合う協定を結んだということは、より安全保障面で連携していくということです。これは極めて大事な動きですよ。

日米英豪 ~海洋同盟の方向に動く

宮家)さらに大きなことを言うと、かつてはロシア帝国が拡大し、脅威となって、20世紀の初めに日英同盟ができました。

飯田)そうですよね。

宮家)あのときと同じように、私はいつも「島国同盟」と言っているのですが、同じ島国で海洋国家であり、大陸に巨大な脅威、覇権国が出てくることに対して「島国同士で協力しましょう」ということです。

飯田)島国同士で。

宮家)日米同盟も実はこれと同じです。私はアメリカは世界一の島国だと思っているし、その次の大きな島国はオーストラリアです。ですから米豪英はみんな島国で、日本も島国なので、これらの国々が海洋同盟の方向に動いているというのは、極めて戦略的には合理的だと思います。

島国として「シーレーンをどのように確保するか」 ~利益を共有する日英

飯田)まさに日露戦争などの前の、大陸国家と海洋国家のぶつかり合いという。

宮家)そんなに単純ではないのですけれどもね。地政学論者にとってはシーパワーとランドパワーという話になるのでしょう。でも、より重要なことは日本がこれから何を得られるか。イギリスが何を得られるか。おそらく共通の利益があるということだと思います。

飯田)それこそが、海を介しての利益と。

宮家)島国が大陸の沖にあって、人々は優秀だけれども資源がないとします。そうすると、その国は自由貿易で生きていくしかないのです。加工貿易で。それに必要なのは島国にとってのシーレーンなのです。「シーレーンをどうやって確保するか」ということが日本の懸念だったわけですが、これはイギリスも同じことです。大英帝国ですからね。そういう意味では、日英ともに非常に似た利益を共有していると思います。

岸田総理が東南アジアと欧州の両方を歴訪した「もう1つの理由」

2022年5月4日、共同記者発表~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202205/04houmon.html)

フル稼働する岸田外交 ~戦略的な外交の見直しに

飯田)岸田総理は、アジア3ヵ国を訪問し、そしてイタリア、イギリスにも行きました。

宮家)この間、ドイツの首相が来られました。そして、G7のことを考えると、この後、アメリカの大統領が日本に来る。それから今度は、クアッドの首脳会合もあります。となるとヨーロッパ、特にウクライナで物事が動いているわけですから、ヨーロッパに行ってイタリア、そしてイギリスと意見交換をする。それからローマ教皇ですね。あとはフランスくらいでしょうが、それはまた追ってやればいいのです。

飯田)フランスは選挙があったばかりです。

宮家)岸田外交は本格的なフル稼働という感じがします。ロシアのウクライナ侵攻という大事件があったわけですから、当然、いろいろな形で戦略的に見直すべきは見直さなければならない。中国だけではなく、ロシアも関わってきたのですから。そうした国家安全保障戦略の微調整はもう始まっているということだと思います。

日本によるロシアへの経済制裁は中国に向けたものでもある ~抑止力としての制裁の一面も

宮家)また、今回岸田総理はインドネシアやベトナム、タイにも行かれているわけです。当然のことですが、ウクライナ情勢をきっかけとして、世界の戦略的な構造が少しずつ変わりつつある。そのなかでアジア諸国、特にASEAN諸国は「どうしたらいいのか」と悩んでいるはずなのです。中国にも近いですし。

飯田)そうですね。

宮家)今回の外交で最大の特徴は、ロシアだけではなく、中国が念頭にあるということです。ウクライナ情勢が動くことによって、「日本はロシアに対して厳しすぎではないか」と言う人もいるのです。しかし、それに対する私の答えは簡単で、中国の問題がなかったら、日本はここまでやらないです。やる必要はないのです。

飯田)中国の問題がなければ。

宮家)しかし、中国の問題がある。ウクライナと同じようなことがインド太平洋地域で起きるかも知れないと考えたら、それは絶対に起こしてはいけないわけです。そのためには、「万一そんなことをしたら、こんな痛い目に遭うのだぞ」ということを抑止力として中国に示さなければいけない。そういう意味では、厳しい対露制裁は正しい判断だと思います。

岸田総理の今回の外遊はアジアと欧州の両方に行ったことがポイント

宮家)アジアに行き、アジアのいろいろな人たちと話をした上でG7に行くのですが、最終的にはG20もある。世界全体の世論形成を考えると、今回、総理自身がアジアと欧州の両方を訪問したということがポイントだと思います。

飯田)両方に行ったことが。

宮家)普通なら日本の閣僚は5月の連休中みんな外遊するわけです。しかし、今回は「大臣になったので、初めてワシントンに参りました」というようなものではありません。今回は防衛大臣がアメリカに行きましたが、これは「初めまして」ではないですからね。

飯田)オースティンさんは日本に来て会談もしているし、2プラス2もやっている。

宮家)二人は親しい関係にあり、ウクライナ後の安全保障問題を議論しています。

飯田)通訳だけ残して、1対1での会談も行ったくらいです。

岸田総理が東南アジアと欧州の両方を歴訪した「もう1つの理由」

クライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで大破した車両が放置された道路を歩く住民(ウクライナ・ブチャ) EPA=時事 写真提供:時事通信

ウクライナ情勢における日本の判断は正しい

宮家)これは大事なことなのです。更に安全保障という観点では、国家安全保障局長の秋葉さんが同じ時期にワシントンに行って、サリバンさんやブリンケンさんとも会っているわけです。

飯田)国務長官とも。

宮家)先ほど申し上げた、ウクライナに端を発する新しい国際情勢に、どのように対応するかという点で、日米がいろいろな意見交換を積み重ねておくことが大事だと思います。これが安全保障面、軍事面、そして経済産業大臣の萩生田さんもワシントンに行っている。これは非常に大事なのです。経済産業大臣が行かれて、ウクライナ情勢を受けてLNGの増産を要請したということですが、それだけではないでしょうね。経済安全保障の問題についても突っ込んで意見交換されているのだろうと思います。もう日米関係は物見遊山の「新しく大臣になりました。よろしくね」といった関係ではないのです。いい意味での本格的な外交の見直しをしつつ……。

飯田)全部実務という感じですか?

宮家)実務ですよ。これで出遅れたら、周回遅れになってしまうのだけれども、遅れないどころか、ウクライナ問題については、日本は早い段階で正しい判断をしたと思います。

日本で開催されるクアッド首脳会合で日本が正しいメッセージを出すことができるか

飯田)タイミングも擦り合わせながら、日本としては次に何ができるか。そのような話も含めてやっている。

宮家)次は当然、アメリカの大統領が日本へ来て、クアッドの首脳会合を開くわけです。そこで「どのような正しいメッセージが出せるか」ということがポイントになると思います。

飯田)正しいメッセージを。

宮家)繰り返しますが、この問題はウクライナとロシアの問題だけではなく、必ずインド太平洋地域の中国の問題に波及するのです。そのことを常に念頭に置いて考えないと、戦略的に正しい判断はできないだろうと思います。

飯田)次の焦点は5月末に行われるクアッド。そうすると、ロシアに対してあまり強く出られないインドをどうするか。

宮家)インドはなかなか手強いですよ。インドは長いロシアとの歴史もあるし、非同盟の伝統もある。しかし、インドが逆の方向に行かないようにすることはできると思います。

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