話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、5月19日の広島戦で決勝タイムリーを放った巨人・中山礼都選手にまつわるエピソードを紹介する。
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『ずっとチャンスで打てていなかったので、今日こそはという気持ちだった。(ランナーが)増さん(増田大)で、内野の間を抜けば点が入ると思っていた。大きな当たりは狙わずに自分の打撃をしました』
~『サンケイスポーツ』2022年5月20日配信記事 より(中山のコメント)
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広島との東京ドーム3連戦に3連勝。貯金を8に回復し、首位・ヤクルトとゲーム差なしの2位につけた巨人。5月19日の第3戦、巨人はエース・菅野智之、広島は昨年(2021年)の最多勝投手・九里亜蓮を立てて臨み、ゲームは予想どおりの緊迫した投手戦になりました。
1-1の同点で迎えた7回、1死二塁のチャンスに打席に立ったのは、故障欠場中の坂本勇人に代わって遊撃を務める高卒2年目、弱冠20歳の中山礼都(らいと)でした。中山は、フルカウントから九里が投じた低めのチェンジアップをセンター返し。打球は二遊間を抜け、勝ち越しのタイムリーヒットとなりました。
中堅・野間峻祥が打球処理に手間取る間に、迷わず二塁へ向かい、ベース上で固く拳を握りしめた中山。実はこれがプロ初打点で、結果的にこのカード3タテを決める貴重な決勝打となったのです。
この日は、3回にも中前打を放った中山。「バッティングの基本はセンター返し」を地で行く打撃で、2試合連続マルチヒットを記録。もともと守備力には定評のある中山ですが、ミート力、バットコントロールでも非凡なものを見せていて、いまや打撃面でも“外せない選手”になりつつあります。
キャプテン・坂本の離脱はチームにとって痛すぎる出来事でしたが、懸案でもある「遊撃の後継者」の有力候補が出現したことは、原辰徳監督にとって嬉しい誤算でした。
与えられたチャンスをしっかりものにすることがレギュラー獲得の第一歩ですが、人材豊富な巨人では、そもそも高卒2年目の若手に出場機会はなかなかめぐってこないのが現実。しかも遊撃には坂本という不動のレギュラーがいるわけで、そこに割って入るのは並大抵のことではありません。
中山は、坂本が右ヒザ内側側副靱帯損傷で登録を抹消された5月1日に、入れ替わりで1軍へ昇格。4日の広島戦で吉川尚輝が死球を受け退場すると、翌5日の広島戦で吉川の代役として「8番・二塁」でスタメンデビューしました。
2日連続スタメンとなった6日のヤクルト戦で、3回にプロ初安打を放つと、二盗を決めプロ初盗塁も記録。丸佳浩のタイムリーで生還し、プロ初得点もマークしました。こういうところが何か“持っているな”と思います。
一方、坂本が抜けた遊撃は廣岡大志・湯浅大が代役を務めていましたが、その働きに満足できなかった原監督は、8日のヤクルト戦から中山を本職の遊撃でスタメンに抜擢。以降中山は、19日の試合まで9試合連続で「8番・遊撃」として先発出場を続けています。
ライバルたちと比べても中山の守備の安定感は抜群で、「坂本が守っているんじゃないか」と思わせるようなプレーもたびたび披露しています。中山がスタメン出場するようになってからの9試合で、チームは6勝3敗。これは中山が遊撃に入って、センターラインが強化されたことも無関係ではないでしょう。
実は、その守備力を支えるのが、自主トレを共にした先輩・吉川尚輝から譲り受けたグラブです。中山はそのグラブを実戦でも使い、大きな武器になっています。
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「自主トレで尚輝さんが僕のグラブをはめたときに、『前に使っていたもので似ている型がある』と言ってグラブをもらった。自分もいいなと思ったので今、使っています」
~『日刊スポーツ』2022年5月7日配信記事 より(中山のコメント)
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こういう縁も「導かれているなあ」と感じます。坂本の離脱で1軍昇格のチャンスをつかみ、グラブを譲ってくれた吉川の離脱で二塁手としてスタメンに抜擢。そこでいい働きをして、今度は遊撃でスタメンに。先輩2人の故障は偶然ですが、いちばん入り込むのが難しい二遊間がぽっかり空くという事態を誰が予想したでしょうか? こういうときにチームを救うのは、常に準備を怠らない選手です。
ちなみに、坂本がショートのレギュラーに定着したのは、中山と同じ高卒2年目・2008年のこと。当時、遊撃は二岡智宏が守っていて、坂本は開幕戦にスタメン出場しましたが、二塁での出場でした。
ところが、その開幕戦で二岡が負傷。次の試合から坂本が遊撃に入り、ポストシーズン含め全試合に出場。以後、不動のショートとしての地位を築いていったのです。坂本も、いつ出番が来てもいいように“備えていた”選手でした。
その坂本のケガで、チャンスをつかんだ中山。坂本は順調に回復し、2軍戦での実戦復帰も間近ですが、坂本のヒザの状態次第では「中山をもう少し、ショートで使ってみようかな」と原監督も迷うのではないでしょうか。指揮官にとっては、嬉しい悩みです。
ところで、スタメン起用が続いたおかげで、中山はプロ入り以来「いつか実現させたい」と願っていた夢を早くも実現させてしまいました。同じ中京大中京高校出身、中日・髙橋宏斗との「同級生対決」。中山は入団時に「髙橋には負けられない」と語ったほど意識している存在です。
高卒2年目の投手と野手が1軍の試合で、ともに先発出場で対戦すること自体、非常に珍しいこと。さらに同じ出身校となるとかなりレアケースです。そもそも高卒2年目でローテーションに入ることも、スタメン起用されることも、いずれも稀なことですから。かつ、同時期に1軍にいないといけないのです。
普段はもちろん親友で、プロ入りしたときから「いつか1軍で対戦しよう」と誓い合っていた2人。この同級生対決が早くも実現したことは、2人の能力の高さ、そして“運の強さ”を物語っています。
思えば彼らの代は、高校球児としては不運な世代でした。3年時の甲子園大会がコロナ禍に見舞われ、春のセンバツは中止。夏の大会は「交流試合」として開催され、晴れの舞台を奪われてしまったのですから。それだけに、プロの舞台で2人に見せ場がめぐってきたことは、球場で観ていて「本当によかったなあ」と思わずにはいられませんでした。
注目の同級生対決は、第1打席が投ゴロ、第2打席が右前打で、1勝1敗の“引き分け”に。初対決となった第1打席、髙橋が3球すべてストレートで勝負したのが印象的でした。
中山に第3打席が回る直前に、髙橋が押し出し四球を与えて降板したのは残念でしたが、この対決、これから何度も観られそうで楽しみです。そして、中山にとって髙橋の存在は「レギュラー獲得」への強力なモティベーションになっています。
最後に、念願のプロ初対決を終えた2人のコメントです。
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『高校時代からずっと一緒にやってきたんですけど、凄く刺激をもらいながらできている。ライバルではありますけど、自分にとっては凄くいい存在』
~『スポニチアネックス』2022年5月19日配信記事 より(中山のコメント)
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『一人の相手として戦っていたので。(3連続直球で投ゴロは)自分のベストボールを投げる、というところでかなり力は入ったし、意識した部分はあった。今日はやられましたね。お互い一番いい舞台で対決できたのは、すごくうれしかった。(中山は)最強バッターです』
~『スポーツ報知』2022年5月14日配信記事 より(髙橋のコメント)
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