中国政府によるウイグル人への「洗脳」はやがて失敗する
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元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が5月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国の新疆ウイグル自治区などの視察を終えたミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官の記者会見について解説した。
国連のバチェレ人権高等弁務官、新疆ウイグル自治区を視察
国連のミチェル・バチェレ人権高等弁務官は5月28日、中国の新疆ウイグル自治区などの視察を終えて記者会見を行った。バチェレ氏は中国政府がテロ対策としてウイグル人などに対して行っている政策について、国際的な人権基準に基づいて見直すよう促したと明らかにした。
飯田)新疆ウイグル自治区の視察も含め、「自由にはできなかったのではないか」ということも併せて報じられています。相当厳しい状況にあるということは、いろいろと報道されていますよね。
兼原)この前は公安関係の資料が大量に流出しましたね。
飯田)出ましたね。
兼原)西側のハッカーか誰かがやったことだと思いますが、かなり酷いことになっていると思います。中国は大清帝国を引き継いでいるので、「漢民族五千年」などと言って頑張っているのですが、少数民族は漢民族にならないのです。中国の少数民族は約1億人います。ウイグル、チベット、モンゴル、朝鮮族もそうですが、彼らはもともと草原の自由な民で、農耕民族ではありません。
飯田)草原の民。
兼原)それを無理やり、共産中国人にしようとしましたが、それは失敗したので、今度は「漢民族だ」と言い始めたのです。しかし、違うわけです。ですから当然、出て行ってしまうのですが、それを許さず、強権的に思想改造しているのだと思います。それがかなり厳しいことになっているのでしょう。国連が行っても本当のところは見せてくれませんからね。
「漢民族だ」と言ってアイデンティティを押し付けても反発されるだけ
飯田)現地から命からがら逃げだした人のインタビューなどを、イギリスのBBCなどが精力的に行っていますが、「民族浄化」ということまで言われています。国際社会は何もできないのでしょうか?
兼原)もともと思想改造して共産主義的な人間にするところから始まっています。それが失敗して、半分ほど資本主義に舵を切ってしまったわけです。だからアイデンティティがないのですよ。そこに漢民族をはめ込もうとしているので、少数民族の問題はもう止まらないですね。彼らには2000~3000年の歴史があるのです。みんな誇りを持っていますし、生活スタイルもまったく違う人たちなので、そこに「漢民族だ」と言ってアイデンティティを押し付けても反発されるだけです。
飯田)そうですね。
共産主義国は分裂する ~民族の心は買えない
兼原)共産主義国はほとんど分裂するのです。「ソ連人」は生まれませんでした。「ユーゴ人」も生まれていません。「共産中国人」も生まれなかったのです。
飯田)なるほど。
兼原)結局、分裂するのです。中国でも同じことが始まっているのだと思います。人口は数百万単位で少ないですが、面積は大きいので、中国は手放したくないのでしょうが、同化させる動きは失敗すると思います。人間の心は買えないのです。人間はいじめればいじめるほど反発するので、失敗すると思います。
飯田)その失敗をするときに、ユーゴにしろ、あるいは旧ソ連の崩壊、いまのウクライナ情勢のような、大規模な紛争になる可能性はありますか?
兼原)人口は数百万単位なので戦えないと思います。ウクライナは約4000万人いるから戦えるのです。戦ったとしても、軍事力が行使されれば、すぐに潰れます。それはかわいそうですが。
イスラム系でまとまることはない ~イスラムを信仰するウイグル族
飯田)一方で、ウイグルの方々はイスラムを信仰しています。イスラム国家もたくさんありますが、イスラムとの連帯はどうなのですか?
兼原)イスラム系の人たちはまとまりません。
飯田)まとまらない。
兼原)ソ連圏の人たちはお酒も飲みますし、かなり世俗化しています。ウイグル族の過激派の人がアフガンに行っていますので、ソ連圏のムスリム地域の人たちは、彼らが自分のところに入ってくるのが怖いのです。
飯田)自分たちのところへ。
兼原)だから全員が団結する方向にはいきません。トルコはトルコ系のチュルク族が親分だと思っているのですが、国力が大きくないので、反トルコ主義でまとまることはありません。反イスラムも反トルコもないのです。
喋るのが苦手で情報戦に弱い日本
飯田)もともと東トルキスタンという名前で独立したので、チュルク系の民族であることは間違いないのですか?
兼原)チュルクはチュルクですね。ウイグルまではチュルクです。それから今度はモンゴルに来て、満州、朝鮮、日本となります。チベット、ミャンマーの辺りは私たちの親戚なのです。赤ちゃんのときにお尻が青い人たちです。
飯田)「蒙古斑」と呼ばれる。
兼原)そうですね。男っぽい侍系の国です。中国は王朝系なので光源氏のような人が多いのですが、私たちは侍系なので、頼朝系あるいは鎌倉系です。
飯田)なるほど。何かあったら「お前、表へ出ろ!」と。
兼原)その代わり喋るのは下手なので、情報戦はダメなのです。
飯田)なるほど。
兼原)岸田総理が「頑張ろう」とおっしゃっていたのは、その特性だと思います。
現場で嘘をつくロシアと中国 ~嘘をつかない日本人
飯田)だから中国が言葉の部分で。
兼原)共産圏はプロパガンダが上手いので、日本はやられてしまうのです。真実一路で「何かあるのならば、表へ出ろ!」という国なので、こういう国は説明が足りないのです。
飯田)そういう脈々と受け継がれる歴史が、いろいろなところを形づくるのですね。
兼原)共産圏のプロパガンダは嘘をつくのも平気です。そして戦場のプロパガンダは半分嘘でいいのです。
飯田)我々は嘘をついたら……。
兼原)日本人は嘘をつかないですからね。しかし、本当に嘘をつかないプロパガンダは大事なのです。錦の御旗を掲げることは大事で、世界のジャーナリズムは嘘をつくと相手にしてくれませんから、嘘をついてはいけません。その点、アメリカやイギリスはとてもうまいですね。国際世論を取りに行くのがうまい人たちです。
情報戦では戦前からやられっぱなしの日本
兼原)ロシアと中国は現場で嘘をつくのです。「先に撃ったのはお前だ!」とすぐに言います。自分がやっていても「残虐行為だ!」と言うのです。現場の嘘は本当のプロパガンダなので、これは共産圏が上手いですよ。日本は「表へ出ろ!」と言うだけなので、相手は楽です。
飯田)戦いやすい。
兼原)もっと頑張らないといけません。最近はサイバーを使って、すごい量の情報が出せますが、これも日本はやりません。もっと真面目にやらないといけないと思います。情報戦では、戦前から日本はやられっぱなしですよ。
飯田)ウクライナの情報戦を見ていても、ウクライナの大使が上手に日本語で発信しています。
外交では、「私たちは正しい」と言わなければ伝わらない
兼原)外交では、仲間を増やすのが基本中の基本なので、「私たちは正しい」と一生懸命言わないとダメなのです。
飯田)日本は「言わなくてもわかってくれるだろう」と思ってしまっている。
兼原)国際社会では、誰もわかってくれません。幼稚園と一緒です。黙っている子は先生も無視するので、「ワーワー」と言っていると、先生もこちらを向いてくれるのです。
飯田)損ですね。
兼原)日本人は損をしがちな国民性です。嘘をつかないし正直でいいところがあるのですが、正直者が馬鹿を見ることがあります。
嘘をつかないことは大事だが、発信はしなければならない
飯田)それが「世界から信頼されているだろう」と。
兼原)信頼はされています。最後は嘘をついてはいけないのです。最後の最後は世界のジャーナリズム全体が相手になりますので、嘘をついたら信用されません。最後まで嘘をつくと、誰も相手をしなくなるのです。最近の中国のプロパガンダはそういうところがあります。「また中国だろう?」とみんなが思ってしまっているのです。
飯田)なるほど。
兼原)だから嘘をつかないことはすごく大事なのですが、何も発信しないのはダメです。「何を考えているかわからない」と言われてしまいます。
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