中国のSNSで飛び交う「習近平退陣説」の真偽
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青山学院大学客員教授でジャーナリストの峯村健司が5月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国のSNSで見られる習近平国家主席の退陣説について解説した。
くすぶる習近平退陣説の真偽
5月上旬から海外の中国語のSNSでは、中国・習近平国家主席の退陣説が飛び交った。主な内容は、習近平氏はすでに権力を持っていない状態で、とうとう政府の運営は李克強首相が代行。秋の党大会で習近平氏は正式に退陣し、李克強政権がスタートするというものだ。この情報は本当なのか……。
飯田)新型コロナの対応で、ゼロコロナ政策を取り続けている習近平政権。上海のロックダウンですが、最初は4日間で済むと言われていたものが、既に2ヵ月近くにわたっています。通常医療が受けられず、亡くなる人が出ているという報道もあり、一部では暴動のような動画もあがっています。そんななかで退陣説まで飛び出しました。情報の真偽はいかがですか?
峯村)私のところにも、特にアメリカなどにいる中華系の友人から「この話は本当か? 聞いたことがあるか?」と尋ねてくる連絡が多く来ました。念のため、こういう未確認情報は全部潰さなくてはいけないのです。
飯田)可能性を全部確認しなくてはいけない。
フェイクだが、何かのメッセージだと受け止めるべき ~火のないところに煙は立たない
峯村)複数のいろいろな関係者に聞きましたが、結論を言うとフェイクです。
飯田)これはフェイクですか。
峯村)はい。外形的な事実からしても、江沢民氏が軍権を握って胡錦濤氏が党を握り、2人で習近平国家主席に退陣を求めたというのは、いまの江沢民氏、胡錦濤氏の職責や実力等々を考えても、あり得ません。
飯田)あり得ない。
峯村)ただ、火のないところに煙は立たないのも事実です。なぜなら、ちょうど中国は今秋開かれる中国共産党大会を控えた「政治の季節」に突入しています。こういうときは、いろいろなところで事件・事故が起きたり、変な噂が飛び交う時期なのです。今回の情報も、何かのメッセージだと受け止めた方がいいと思います。
習近平氏が1強であるために出ているミスや問題
飯田)権力基盤を固めたと言われている習近平氏ですが、決してそうではないということですか?
峯村)基盤は固めています。権力闘争のようなものは、現在ほとんどない「習近平一強」の状況です。日本の一部のメディアや専門家は「習近平派と江沢民派」などと言っていますが、この考え方は現状には当てはまりません。
飯田)違う。
峯村)本当は私が謝罪しなくてはいけないのですけれど、最初に本格的日本メディアに「権力闘争」という考え方を持ち込んで連載をした一人だからです。ちょうど胡錦涛前政権の末期の2012年のことです。当時は集団指導体制だったからこそ、派閥の力学や駆け引きという分析手法はワークしました。ところが今のような「習近平一強」体制下では、この考え方はバイアスにしかなりません。権力闘争という見方はやめましょう。
飯田)権力闘争という見方は。
峯村)しかし一強だから盤石かと言うと、そういうわけではありません。強すぎる権力集中がゆえにいろいろなミスや問題が出ていると考えた方がいいと思います。
飯田)一強ゆえのミスや問題が。
峯村)例えば今回のゼロコロナ政策です。「アメリカなどに比べると中国の体制がしっかりしているから、コロナ感染が抑えられているのだ」と習近平主席が言ってしまった手前、もうやめるわけにはいかない。
ゼロコロナ政策の失敗、ロシアに近いと見られることからの経済制裁の可能性、食品やエネルギーの高騰 ~中国共産党大会への「三重苦」
峯村)しかし、現実をみると、過度なゼロコロナ政策は破られ、上海や北京ではコロナの感染が拡大、経済もうまくいっていないという状況になっています。
飯田)ゼロコロナ政策が失敗して。
峯村)もう1つあげるならば、ロシア政策です。プーチン大統領と習近平国家主席の関係は「ブロマンスではないか」と言われるくらい仲がいいのです。
飯田)2人の関係は。
峯村)本来、中国はウクライナとも関係が近いにも関わらず、ロシア寄りの姿勢を崩さない。ロシアの軍事侵攻は世界的に批判されていますが、「もしかすると支持しているのではないか」と見られているのです。最悪のリスクとして、欧米諸国による経済制裁の対象になりかねないということです。それに対して、中国政府の内部でも「危ないのではないか」という意見が強まっています。
飯田)政府内部でも。
峯村)ウクライナ問題に関しては、これによって食べ物やエネルギーの価格が高騰することになると、中国でもインフレが加速しかねません。そう考えると、11月の中国共産党大会を控えた習政権にとってもダメージが大きい。三重苦とも言っていいでしょう。
習近平国家主席の3期目続投の可能性は90%を下回るかもしれない
飯田)そんななかでも、国家主席としての3期目続投は固いということですか?
峯村)日本メディアでは「ほぼ100%」と言われていますが、私は100%ではないということを以前から言い続けています。感覚的に言うと90%、最近だともう少し下がっているのではないかと思います。
飯田)90%を下回る。
峯村)いまは国家主席ですけれども、共産党の主席、いわゆる毛沢東がやっていたポストに就任する可能性で言うと、もう少し低いのではないかと思います。
後継者の問題もポイントに
峯村)もう1つの重要なポイントは、習近平氏本人ではなく、後継者です。後継者にどんな人間を入れるのかというところも、力の源泉になります。習近平派の子飼いの1人で、次期首相、李克強さんの後継になるとみられていたのが、上海市トップの李強さんです。
飯田)上海市トップの。
峯村)この人も上海のコロナ政策でミスをして、混乱や暴動が起きて批判されているので、この人が順当に首相のあとを継ぐのかどうかも重要です。
「北戴河会議」再開の可能性も
峯村)まだ確認できてはいないのですが、2022年は、夏恒例の「北戴河会議」を行うのではないかという話も出てきています。
飯田)「北戴河会議」を。
峯村)習近平さんがトップになってからは、北戴河会議をやらない年も多くありました。北戴河会議は長老にご意見を聞き、「この人事でいいのか」と伺いを立てるものです。
飯田)長老の意見を聞く。
峯村)いままでの強い習近平氏であれば、そんなことをやる必要はなかったのです。「俺が決めたのだ。爺さんたちは黙れ」ということで終わっていた。もし本当に北戴河会議が復活するとなれば、彼の力がこれまでと少し違ってきているのではないか、というようにも見えてくるわけです。あと半年ですが、事態がどうなるかはまだわからないですし、これからいろいろと変な事件・事故が増えてくるのは間違いありません。
北京で始まる「政治の季節」
飯田)党大会の直前、要人の息子などがいきなり交通事故を起こして、横に美女が乗っていたという話がありましたよね。
峯村)ありましたね。全裸の美女が乗っていたという。
飯田)しかも、その人のお父さんは胡錦濤政権において、官房長官的な立場であったとか。
峯村)令計劃さんですね。
飯田)2012年には重慶市で副市長がアメリカ総領事館に駆け込んだという、薄熙来氏に関するスキャンダルがありました。
峯村)駆け込んだのは、当時の薄熙来氏の右腕だった重慶市の王立軍副市長でした。
飯田)やはりこの時期はポイントになるのですか?
峯村)北京にいると、この時期はゾワゾワするくらいです。「政治の季節」が始まったということがよくわかります。
飯田)空気が変わるのですか?
峯村)変わります。緊張感も高まりますし、変なニュースがとにかく増えるのです。
飯田)怪文書のようなものもあったりするのですか?
峯村)もちろん出回りますし、変な事故死なども起きます。この間も天津市のトップがよくわからない死に方をしました。彼も「習近平氏に近い人脈」といわれていた人物です。そういうことを考えると今後、不可解な事件が増えてくる可能性もありますし、反腐敗というような形で高官が捕まるなどという事態も起きるかも知れません。
飯田)反腐敗を武器にして。
峯村)最大の武器ですから。習近平氏が一強になれたのも、反腐敗で捕まえまくって、反対派の人々や長老の口も封じ込めたところにあるのです。
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