慶應義塾大学総合政策学部准教授の鶴岡路人が5月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国のゼロコロナ政策について解説した。
中国のゼロコロナ政策
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は5月10日の記者会見で、中国が実施している新型コロナウイルスの徹底封じ込めを目指す「ゼロコロナ」政策について、「持続可能とは思えない」との考えを示した。また、その上で「別の戦略に移行することが非常に重要だ」と方針転換を勧めた。これに対し中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)副報道局長は「無責任な言論を発表しないように望む」と反発している。
飯田)テドロスさんがこういうことを言うのは珍しいのではないですか?
鶴岡)彼は中国寄りだと考えられてきたわけですから、思い切った発言ですね。
トップが方針を決めてしまうと修正できない権威主義国家
飯田)やはり「ウィズコロナ的」にいかなければと、日本としても学ぶべきところは多いでしょうね。
鶴岡)中国にしてみると、「ゼロコロナ」と言ってしまったので、最高指導者が方針を決めてしまうと修正できない。ロシアもそうなのですが、これが中国の弱いところです。権威主義的な国というのは、トップが一度方針を決めてしまうと、「成功している」というストーリーをつくり続けなければならなくなってしまう。「選挙で負けたので方針を変えます」というような機会がないのです。
飯田)確かに、そういう機会がないというのは、現実から乖離してくると苦しくなってきますよね。
中国の上海などでのロックダウンの影響が世界にも
鶴岡)嘘に嘘を重ねて塗り固めていくしかない、ということになってしまうのです。しかし「ゼロコロナ」の話は、中国政府が決めて中国国内で困ったことが生じるのであれば、ある意味仕方がないと思うのですけれど、国外への影響も大きくなってきています。外国から見た場合、ここが問題なのだと思います。
飯田)ロックダウンで物流が止まり、部品も入ってこないし、世界のサプライチェーンが今後かなり影響を受けるのではないかということです。ニューヨークの株も下がっています。
鶴岡)そうですね。WHOの事務局長に言われたからといって、中国の政策が変わるわけではないと思うのですが、中国には自らの利益のためにも考えてもらわなければなりません。
「ゼロコロナを基にした政策が成功した」というストーリーをつくり続けなければならない宿命
飯田)「ゼロコロナ政策によってコロナを克服したのだ」ということを手土産として、習近平氏が3期目を狙っているという解説がありましたが、雲行きはどうですか?
鶴岡)雲行きはかなり怪しいと思います。しかし、「ゼロコロナを基にした政策が成功した」というストーリーは、つくり続けなければならない宿命なのだと思います。
飯田)一帯一路もそうだと思うのですが、ゼロコロナだけではなく、習近平体制になって前の胡錦濤政権からガラッと変わった部分があるではないですか。「変えられない」ということは、周りの国々や貿易相手国もスタンスの取り方が難しいですね。
実態は変わっていかざるを得ない ~どこまで大転換できるか
鶴岡)しかし、実態は変わっていかざるを得ないのだと思います。看板は掛け替えなくても、実態は変えていくということです。そこが注目なのですが、実態もどこまで大転換できるのかというところですね。
飯田)今回のロシアによる侵略に関しても、直前の2月4日に中露首脳会談をしています。ロシアを支持してしまったけれど、あまり中国もロシア側に立つわけにはいかないですよね。
鶴岡)それも変えられないのです。あれだけ大きな首脳会談を行い、支持してしまったので、「あのときの支持は間違っていたのですか」ということになってしまう。「間違いは絶対にない」というストーリーでなければならず、常に矛盾を抱えてしまうわけですね。
ロシアを支援することで対米関係に悪影響が出ることは避けたい
飯田)一方で一帯一路を考えると、ウクライナは中国にとって重要な国です。
鶴岡)武器の貿易などでも重要です。
飯田)でも、二兎を追うわけにはいかないですよね。どうするのか。
鶴岡)困っていると言えば困っているというところで、いろいろ顔色を見ながらやるのでしょう。やはりウクライナよりアメリカで、ロシアを支援することで最も重要な対米関係に悪影響が出るのは避けたいのです。
「敵の友達は敵」 ~ヨーロッパで悪化する中国に対する認識
飯田)ドイツなどもそうですが、ヨーロッパ諸国は経済のつながりにおいて中国といろいろやっていたではないですか。それも変わってきていますね。
鶴岡)ヨーロッパにおける中国に対する認識も悪化しています。ヨーロッパにとっては、ロシアが主要な敵なわけで、裏でその敵を支援している存在として中国があるということになります。敵の友人は敵ということですね。
飯田)チェコの首相が名指しで中国を批判していますね。
鶴岡)それと同時に、台湾シフトになる可能性もあります。ウクライナを見ていると、大国の横で自由を求めて戦っているのは、まさに台湾ではないかということで、台湾への関心も付随的にかなり高まる余地があるのだと思います。
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