ロシアが「3日間の停戦」を発表したのは「追い詰められている」ため

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が5月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ情勢について解説した。

ロシアが「3日間の停戦」を発表したのは「追い詰められている」ため

2022年4月25日、モスクワでの会議に出席するロシアのプーチン大統領(タス=共同) 写真提供:共同通信社

ロシアが3日間の停戦を発表も、マリウポリの製鉄所で攻防が続く

ロシアのペスコフ大統領報道官は5月5日、ウクライナ南東部マリウポリでウクライナ側部隊が事実上最後の拠点とするアゾフスターリ製鉄所について、ロシア軍が包囲を続けていると明らかにした。ロシアは4日夜に「指導部の決定」として、民間人の退避のため日中の戦闘を3日間停止すると一方的に発表。しかし、ウクライナ側部隊はロシアが約束を守らず、激しい攻撃が続いていると主張しており、退避の実現は不透明な状況だ。

飯田)民間人の退避について、国連の事務総長が安保理で仲介を続けるということを強調しておりました。

宮家)もちろんマリウポリの話も大事なのですが、大局的な話から言うと、ときはウクライナに有利なのです。

国内的にも何らかの形で勝利宣言をしなければならないロシア

宮家)いろいろな情報を総合すれば、東部地域でのロシアの作戦は、それほど成果を上げていないと思うのです。戦勝記念日である5月9日までにマリウポリ全体を制圧することもできないだろうし、困っているだろうと思います。

飯田)ロシアは。

宮家)しかも、ウクライナには次々と西側の武器が入ってきています。国内的に考えても、プーチンさんは何らかの形で勝利宣言をしなければいけないのです。そうすると、いくつかオプションがあって、例えば、東部に2つの人民共和国があると言っていますから、その独立をさらに拡大したものとして承認するか、もしくは併合してしまうというオプションだってあるでしょう。

飯田)ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の2つを。

戦争宣言することはウクライナを主権国家として認めること ~NATOと戦争することに

宮家)それからもう1つ、宣戦布告をするのだという説もありますよね。

飯田)ありますね。

宮家)国家総動員をかけると。しかし動員すると言っても、大した兵隊は残っていません。それにもし戦争宣言をする場合には、ウクライナが主権国家であるということを認めることにもなります。ロシアはそれでいいのでしょうか。

飯田)なるほど。

宮家)そうなると「NATOと戦争するのか」ということになります。そうなればNATO条約の第5条、集団的自衛権の発動になりますから。必ずしもロシアにとって得策だとは思えません。何をするにしても、長期戦になります。ウクライナは二つの共和国の独立や併合は認められませんから。

飯田)長期戦に。

宮家)停戦というのは、負けそうだと思った側が考えるものです。いまは両方とも勝利を確信しているわけですから、当分は停戦はないですよね。

飯田)そうですね。

宮家)ではロシアはウクライナの南部を獲るのかという話もあります。しかし、いろいろな情報を見ていると、とてもいまのロシア軍にオデッサを獲る力はないというのが、正しい見方ではないかと思います。

ロシアが困っているなかでの「3日間の停戦発表」

宮家)西部の方にミサイル攻撃をしているということですが、ミサイルを1~2発撃ったくらいで戦局が変わることはありません。ウクライナ軍が東部に集中させないためにやったのだと思います。そういう意味では、ロシアが困っているなかでの3日間の停戦発表であり、攻防はこれからもずっと続くのです。ロシアは本当は製鉄所のウクライナ部隊を全滅させたいのですけれど。

飯田)ロシアとしては。

宮家)まだ民間人がいて、あれだけ国連が動いている。これで総攻撃を行って大量に死者でも出したら、ますます状況が悪くなるから、人道的なふりをしているのです。

飯田)民間人の退避のためと。

宮家)しかし、心の底では、ロシアもウクライナを信用していない。ですから、お互いに3日間どころか1日の停戦中だって相手が何をするかわからないと思っている。停戦の間の時間は、軍事的に重要な意味を持つ場合があり得るわけですから。

24日、軍事作戦の決行をテレビ演説で宣言するロシアのプーチン大統領(ロイター=共同) 2022年2月24日 写真提供:共同通信社

24日、軍事作戦の決行をテレビ演説で宣言するロシアのプーチン大統領(ロイター=共同) 2022年2月24日 写真提供:共同通信社

結果を出すために化学兵器の使用の可能性も ~核を使うことはない

宮家)もう少し民間人を脱出させたところで、徹底的に攻撃するということも十分あり得る。更に、それがうまくいかず、結果は出さなければいけなくなると、例えば大量破壊兵器を使って、戦局を少しでも有利にしようとするかも知れません。しかし、そのときに核を使うかと言えば、流石に簡単には使わないと思います。

飯田)核は。

宮家)核兵器も搭載できるミサイル演習を実施したということですが、それは威嚇だと思います。やるのであれば、痕跡の残らない化学兵器の方が可能性があるのではないでしょうか。いずれにしても、この苦境からロシアがどのように脱出するのか。プーチンさんは相当厳しい状況に来ているだろうと思います。

飯田)ロシア軍がバルト海沿岸の飛び地カリーニングラードで、「イスカンデル」というミサイルシステムの模擬発射を行ったということが報じられました。

宮家)しかし、核兵器はそう簡単に使えるとは思えません。ただ、戦術核兵器の使用について、昔よりも敷居が低くなっていることは事実です。5月5日のニュースで、アメリカの戦略コマンド……戦略コマンドというのは、核兵器担当のコマンドなのですが、その司令官が「ロシアの戦術核兵器の問題は、極めて抑止が難しくなっている」と言っています。ですから、まったく排除することはできません。ですが、核兵器よりも先に化学兵器を使うだろうとは思います。

今後、さらに制裁を強めるアメリカ

飯田)これに対し、西側としてどういう代償を払わせるのかというところですが、レッドラインを設定することになるのですか?

宮家)アメリカは戦争目的を明確化しています。目的は2つです。1つ目はウクライナの勝利。2つ目はロシアの弱体化。ロシアが今回と同じようなことはできないほど弱体化させるというのは、先日、アメリカの国防長官と国務長官がウクライナに行ったあと、ポーランドで明言していました。

飯田)ブリンケン国務長官とオースティン国防長官が。

宮家)いまはもう、「弱体化」という言葉だけでなく非公式には「無力化」という言葉も使っています。まあロシアを「無力化」することは無理だと思いますが、アメリカはそのような形で腹をくくっている部分があると思います。いろいろな国際会議が続くでしょうが、アメリカはさらに制裁を強めていくだろうと思います。

飯田)経済制裁を。

宮家)ヨーロッパの方は、既にエネルギー分野での制裁、特に石油ですね。ガスは難しいですから。石油についてフェードアウトする。年内を目処に徐々に輸入を減らしていくということなのでしょう。すぐに効果があるわけではないですが、ロシアにとってはますます厳しい状況になるでしょうね。

コロナ対策でロシアどころではない中国 ~10月には党大会が

飯田)それに対して、一部、援助をしているのではないかと言われている中国ですが。

宮家)中国も困っていると思います。オリンピック直前にロシアを支持するようなことを言ってしまったけれども、ロシアが勝つかと思いきや、こんなことになってしまった。世界中の批判がロシアに集中して、そこでロシアを支援したら中国も大変な目に遭いますから、いまは黙っています。

飯田)中国としては。

宮家)アメリカを敵に回すわけにもいかないし、ロシアを失うわけにもいかない。しかし、中国がいまいちばん困っているのはコロナ対策だと思います。もしかしたらウクライナどころではないと思います。

飯田)国内に注力する時期だと。

宮家)北京でロックダウンしたら大変ですよ。10月に党大会があるのですから。

飯田)そこで習近平氏は「3期目だ」ということに。

宮家)華々しくやるはずだったのに、ゼロコロナ政策が「失敗だ」と言われたら、さすがの習近平さんも持たないですよ。

これからが大変な習近平氏

飯田)でも、「ゼロコロナ」の綻びがいろいろなところに出ています。

宮家)徐々に緩和していくとは思います。あんな状態を維持できるわけがないですから。北京で本格的なロックダウンをやったら大混乱になると思うので、緩和はしていくでしょう。ただし、それには時間が掛かる。10月までに完全撤廃というわけにはいかないでしょうね。

飯田)お互いに国内事情もありながら、外にどう絡むか。

宮家)習近平さんもこれからが大変だと思います。

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