外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が6月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。8年ぶりに再開させることになった「通貨交換（スワップ）協定」について解説した。

2023年5月21日、日韓首脳会談～出典：首相官邸HPより（https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202305/21g7summit_korea.html）

日韓通貨スワップが8年ぶりに再開

日韓両政府は6月29日、東京で7年ぶりとなる「日韓財務対話」を開き、いずれかの国が金融危機時に外貨を融通して経済を支える「通貨交換（スワップ）協定」を約8年ぶりに再開させることなどで合意した。具体的には、自国通貨と引き換えに相手国から100億ドル（約1兆4000億円）を上限に融通が受けられるようになる。

飯田）経済規模を考えると、メリットがあるのは韓国ですか？

短期的に経済的に見るのか、中長期的に政治的・戦略的に見るのか　～短期的には日本のメリットは乏しく、事実上の韓国支援

宮家）これには賛否両論があります。この問題を短期的に経済的に見るのか、もしくは中長期的に政治的・戦略的に見るのかで分かれてくるのです。

飯田）短期的に経済的に見るのか、中長期的に政治的・戦略的に見るのか。

宮家）結論から言うと、短期的にはおっしゃる通り、日本にはメリットが乏しい。事実上の韓国支援です。韓国では1997年のアジア通貨危機以来、ドルが必要です。これは構造的な問題だと思いますが、いまは日本も必ずしも安定していませんよね。

飯田）日本も。

宮家）ですから、協定は必要は必要なのです。「それでは日本の持ち出しではないか」という見方があるかも知れません。しかし、8年ぶりに再開するということは、8年前はまだ日韓関係が政治的によかった、ということですよ。

中長期的、政治的に考えた場合、中国経済がどうなるかわからないなかで、日韓の金融レベルでの連携は大きなメリット

宮家）このように、中長期的に考えた場合、この問題は常に政治的な問題として出てくるわけです。短期的、経済的には、確かに日本の持ち出しかも知れないけれど、政治的に考えた場合は、日韓の経済が安定する。そしてアジア、特に中国経済がどうなるかわからないとき、いろいろな余波なり、圧力なりが掛かってくるわけです。その際、日本と韓国の金融レベルでかなり緊密に連携が取れることは、大きなメリットだと思います。

飯田）日本と韓国の金融レベルでの連携は。

宮家）そもそも日韓関係を政治的に、戦略的により高度なものにしていかなくてはいけない。それは必要な動きだと思います。ですから、これを短期的、経済的に見る人の中には、「もっと毅然とした態度を取って進めるべきだ」と言う人もいるのです。

飯田）短期的、経済的に見る人には。

宮家）それはそれでわかります。わかりますけれども、中長期的に戦略的、政治的に考える人からすれば、いまは1つの潮どきであると。そして日本にとっても、中長期的にメリットがないわけではない。むしろあります。

飯田）中長期的、政治的に考えれば。

宮家）平時では短期的、経済的に考えればいいのです。しかし、有事もしくは不安定な状況になりそうなときこそ、中長期的、戦略的な判断も求められる。その意味でも、いま日本は中長期的、戦略的な判断の方向に動いているのでしょう。そうであればこれも1つのやり方だと思います。

日韓がより成熟した関係に入るべき時期にきている　～経済を守ることは中長期的には大切

飯田）日本を取り巻く環境、東アジア情勢を考えたときに、韓国との間、あるいは日米韓での連携が安全保障上、非常に大事になってくる。

宮家）そう考える人からすれば、「そろそろ動かす時期なのではないか」ということです。一連の新しい韓国の勇気ある大統領……。

飯田）尹錫悦大統領が。

宮家）尹さんが大統領になってから、本当に動き始めているわけですから、日本として打てる1つの手だと思います。もちろん、尹政権がレームダック化して短期的に終わってしまい、また政権が変わった場合には、「全部なしです」となるかも知れませんが。

飯田）そうですね。

宮家）それはそれで、いかがなものかと思うけれど、経済的にも両者がより成熟した関係に入るべき時期にきていると思います。政治的にいろいろなさざなみがあっても、経済をしっかりと守ることは、中長期的にも大事だと思います。

韓国側のメリットが大きい通貨交換協定は日本が「1つのカードを持った」と考えることもできる

飯田）直近では、北朝鮮がミサイルを撃っていることもありますし。

宮家）何をするかわかりません。ただ、この問題は日韓関係そのものですから、ロジックではない部分があるのです。向こう側もこちら側も。特に向こう側ですが。

飯田）各々の国内政治の部分。

宮家）国内政治が90%ですから。そういう意味では、賛否両論が続くのは当然だろうと思います。

飯田）ただ、韓国側のメリットが大きい仕組みということを考えると、我々としては「1つのカードを持った」と考えることもできる。

宮家）そうです。しかし本来、我々の関係はそうあるべきだろうと思っているので、いい方向だと思います。