国際政治学者のグレンコ・アンドリー氏が6月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「ワグネルの反乱」におけるプリゴジン氏の狙いについて解説した。
ワグネルの創設者プリゴジン氏がSNSで約11分間の音声メッセージを公開
ロイター通信によると、ロシアで反乱を起こし撤退した民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が、日本時間6月26日夜、SNSで約11分間の音声メッセージを公開したと報じた。プリゴジン氏は「政権転覆のために進軍したのではない」と述べ、プーチン政権の崩壊を狙ったものではないと強調し、反乱を正当化した。プリゴジン氏をめぐってはロシアメディアが26日、所在については不明だと報じている。
ロシア内の利権闘争 ~ワグネルを支配下に置こうとする国防省への反発
飯田)一連の「プリゴジンの乱」と呼ばれるものについて、グレンコさんはどうご覧になっていますか?
グレンコ)現時点で公開されている情報だけを見ると、一種の利権闘争ではないでしょうか。
飯田)利権闘争ですか?
グレンコ)政権側は「ワグネル」という軍事組織を完全に国防省の支配下に置き、戦闘員1人ひとりが国防省と契約を結ばなければならない流れになったのです。
飯田)「ワグネル」が国防省の下に。
グレンコ)それに対してトップのプリゴジン氏が反発したのですが、プーチン大統領も含めて「契約は必要だ」と言ったのです。
飯田)プーチン大統領も。
グレンコ)国防大臣だけでなく、プーチン大統領までが指示したことで、プリゴジン氏はその場の勢いで勝負に出ざるを得なかったのでしょう。
プリゴジン氏の目的はショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長の更迭と、兵士との契約の撤廃 ~モスクワに着いたあとの具体的なプランがなかったため、プーチン大統領に譲歩せざるを得なかった
グレンコ)ロストフ州を掌握してモスクワに向かいましたが、政権転覆を狙ったのではなく、単に政敵であるショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長の更迭、そして「契約すべき」というルールの撤回が目的でした。プロの政治家ではないので、クーデターまでは考えていなかったと思います。
飯田)なるほど。
グレンコ)その場で勝負に出たのですが、「モスクワに辿り着いたらどうするべきか」という具体的なプランがなかったのです。また、ワグネルの進軍に対してプーチン大統領は一瞬動揺したものの、結局は折れませんでした。
飯田)そうですね。
グレンコ)だから妥協せざるを得なくなり、勢いをなくしてしまった。プリゴジン氏は結局、プーチン大統領に譲歩せざるを得なかったのでしょう。
本格的に政権転覆を目指す勢力が現れれば政権転覆の可能性も ~同様のことが起こらないよう、さらにプーチン大統領は体制強化に力を入れる
ジャーナリスト・有本香)「プーチン大統領も折れなかった」とおっしゃいましたが、プーチン体制、あるいはプーチン大統領の権威は、徐々に弱まっていくとお考えでしょうか?
グレンコ)今回の乱までは「絶対にあり得ない」と思っていたので、とても意外でした。でも今回の乱の流れを見ると、いきなり大都市であるロストフを掌握しています。プリゴジン氏が言っているように、ロストフからモスクワまで、約780キロの幹線道路を堂々と走って行けたのです。
飯田)そうですよね。
グレンコ)そう考えるとプーチン体制だけでなく、「ロシア国内は意外と脆弱なのではないか」という印象を受けます。
有本)ロシア国内が。
グレンコ)今回は、プリゴジン氏はその場の勢いでしたし、政権転覆を狙ったわけではないので、準備が不十分で失敗しました。しかし、もし本格的に政権転覆を目指す勢力が現れたとしたら、意外と政権転覆の可能性があるのではないでしょうか。
飯田)政権転覆の可能性が。
グレンコ)もちろん、プーチン大統領は今回の件で、ロシア国内の脆弱性を十分理解したでしょう。彼はあきらかに一時的に動揺しました。動揺した証拠として、モスクワから多くの富裕層やエリート層が一時期逃げ始めたのです。
飯田)プライベートジェットがいくつも飛んだ。
グレンコ)これからプーチン大統領は二度とこんなことが起こらないよう、さらに全体主義体制を築き上げることに力を入れるのではないかと予測されます。
情報が少なく、背景の細部については不明 ~あくまでロシア国内の権力闘争では
飯田)例えばロシアの軍内にいる内通者や、ウクライナの情報機関も絡んでいたのではないかと想像してしまいますが、どう思われますか?
グレンコ)あくまでロシア国内の権力闘争だと思います。ウクライナには、そこまでの力はありません。また、西側はロシアでクーデターが起きることを望んでいるわけではありません。プリゴジン氏の単独の動き、あるいはプーチン体制に不満を持っている人たちが背後にいると考えるのが妥当ですが、いまは情報が少なく、断言することはできません。
ウクライナ情勢に大きな影響はない
飯田)ウクライナ戦線において、今回の件はどんな影響を与えるのでしょうか?
グレンコ)大きな影響はないと思います。戦線付近のロシア軍の移動はまったく見られませんので、ロシア人にとっては国内の権力闘争よりも、ウクライナ征服の方が優先順位が高いのです。
飯田)西側も含め、いままで通り支援の手を緩めずに対応する必要があるのでしょうか?
グレンコ)その通りです。
有本)日本政府はウクライナに対して、引き続き支援を表明していますし、防衛装備品の輸出ルールも変えてきています。この辺りについて、グレンコさんはどのようにお考えでしょうか?
グレンコ)いい傾向だと思います。本当は防衛装備移転三原則を見直したり、あるいは自衛隊法を改正して堂々と武器を送るべきだと思いますが、方向性に関しては正しいと思います。
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