ベラルーシがプリゴジン氏を受け入れることで得る「3つのメリット」
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慶應義塾大学教授の廣瀬陽子氏が6月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ベラルーシに入国したとみられる「ワグネル」創設者・プリゴジン氏の一連の行動について解説した。
「ワグネル」のプリゴジン氏、ベラルーシに入国か
ベラルーシ国営メディアによると、ロシアで反乱を起こした民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏がビジネスジェット機でベラルーシに到着し、ルカシェンコ大統領は入国したことを認めた。ルカシェンコ大統領の仲介でベラルーシに向かっていたプリゴジン氏は、SNSでの情報発信も途絶え、消息不明となっていた。
飯田)プリゴジン氏がベラルーシに到着したという報道が出ています。どうご覧になりますか?
廣瀬)一度は消息不明となっており、「既に暗殺されているのではないか」と懸念されていましたが、とりあえず最初に結ばれたディール通り、ベラルーシには無事に到着したようです。
飯田)約束通り。
廣瀬)おそらく消息不明だった期間は、「もうロシアには帰らない」ということも念頭に置き、引っ越しの準備をしていたのではないでしょうか。ワグネル自体の活動もベラルーシに拠点を移すことが予想されます。ワグネル関係のものも含め、引っ越しの準備をして向かったのではないかと思います。
ベラルーシにおけるプリゴジン氏を受け入れる「3つのメリット」
飯田)受け入れるベラルーシ側は、それなりにメリットを見出しているのでしょうか? それともロシアに押し付けられたのでしょうか?
廣瀬)どちらも考えられると思います。まず今回のディールは、ロシア側からベラルーシのルカシェンコ氏に仲介を頼んだと言われています。短い争乱でしたが、この争乱がベラルーシに波及する可能性もありました。その間、ベラルーシでも反ルカシェンコ運動を起こそうという動きが出ていたのです。
飯田)ベラルーシでも。
廣瀬)ロシアの争乱を早く収めることこそがベラルーシの安定にもつながるため、ルカシェンコ大統領も必死だったと思います。また、ルカシェンコ大統領とプーチン大統領の関係も若干、微妙なところがあるわけです。
飯田)微妙なところが。
廣瀬)ですので、プーチン大統領の願いを叶えて貸しをつくることができれば、今後のベラルーシの運営についても安定材料ができます。ルカシェンコ大統領からすると、いいことが多いのです。
飯田)プリゴジン氏を受け入れることは。
廣瀬)さらに、もし今後ベラルーシにおいてワグネルの活動を認めることになれば、今度はベラルーシがワグネルを使える可能性も出てきます。
「ベラルーシにロシア軍基地をつくる」「ウクライナとの戦争にベラルーシ兵を派遣」を避けるために、今回のプーチン大統領への「貸し」は安心材料に
飯田)ルカシェンコ大統領は最近、戦術核の配備など、かなりロシアからプレッシャーを受け続けているように見えました。それもあって、「プーチン大統領に貸しをつくっておきたい」という思惑があるのでしょうか?
廣瀬)ベラルーシが最も避けたいのは、ロシア軍の基地をベラルーシにつくることです。それ以上に嫌なのは、「ウクライナでの戦争にベラルーシ兵を派遣して欲しい」と要求されることです。
飯田)ベラルーシとしては。
廣瀬)そういうところを避けていかないと、今度はベラルーシ国内の動きを制圧できなくなってしまう。彼としては権威主義体制を維持するためにも、プーチン大統領の圧力をはねのける要素が重要です。 今回、「1つ貸しをつくれた」ということは安心材料になったと思います。
ロシア軍へのさまざまな不満をプーチン大統領に聞いてもらうために行った進軍だが、反逆者扱いされ撤回 ~「政権転覆」はまったく考えていなかった
飯田)プリゴジン氏の狙いは何だったのでしょうか?
廣瀬)プリゴジン氏の動きの背景には、ショイグ国防相との確執や、ウクライナとの戦闘における軍への不満が渦巻いていたと思います。
飯田)国防相との確執と、軍への不満。
廣瀬)特に6月10日に出た命令です。すなわち7月1日までにワグネル含む民間軍事会社や私兵など、「非正規軍事組織がロシア軍の傘下に入るように」という命令がありました。
飯田)そのようですね。
廣瀬)それは許しがたいということで起きた反発だと思います。同時に、いろいろなロシア軍への不満も含め、「プーチン大統領に意見を聞いてもらおう」という思惑で行ったのだと思います。
飯田)プーチン大統領に聞いて欲しくて。
廣瀬)しかし、意見を聞くどころか反逆者扱いされてしまったため、すぐに自らの方向性を撤回したのでしょう。
飯田)そもそも「政権を転覆させよう」という意図があったわけではないのですか?
廣瀬)まったくないですね。単に自分の要望を聞き入れてもらうための進軍だったのです。かなり幼稚な発想からの動きだったと思いますが、「政権転覆」などはまったく考えていなかったでしょう。
ロストフではロシアに閉塞感を持つ人たちがプリゴジン氏を温かく迎え入れる一方、批判するロシア国民も多い ~プーチン政権の対応にも困惑「我々はワグネルをどう見ればいいのか」
飯田)一方で、ロストフなどの市民からは大歓迎されている映像が多く流れました。それがロシア社会に与える影響は大きかったのですか?
廣瀬)プーチン政権は23年続いていますので、ロシアのなかにも閉塞感のようなものはあります。
飯田)ロシア国内にも。
廣瀬)閉塞感や戦争による暗鬱とした雰囲気があり、そこに新たな役者が出てきたので、プリゴジン氏を温かく迎え入れる部分もあると思います。しかし、割合は25%~30%くらいに過ぎないのではないでしょうか。
プーチン政権にとって不幸中の幸いは短期間で混乱が済んだこと
廣瀬)逆に今回の動きを受けて、「しょせん非合法な存在であるのに、このような騒乱を起こすのは許しがたい」という気持ちを持った人も多いと聞きます。また、政府のワグネルに対する反応に困惑している人も少なくないようです。
飯田)ワグネルの行動と政府の反応に。
廣瀬)少し前まではウクライナ戦争における功績を称え、勲章まで与えようとしていた相手に対し、突然、反逆者というように評価が変わった。「我々はワグネルをどう見たらいいのか」と困惑している層もいます。
飯田)ワグネルをどう見ればいいのか。
廣瀬)ロシア社会の受け止め方も多層的になっています。政権にとって不幸中の幸いだったのは、短期で済んだということです。混乱が広がる前に状況が収束したことはよかったのではないでしょうか。
次期大統領選への影響は ~抑圧体制にならない程度にグリップを強化する「微妙な舵取り」を迫られるプーチン政権
飯田)来年(2024年)3月に大統領選が控えていますが、そこへの影響は考えなくてもいいのでしょうか?
廣瀬)現状では考えなくてもいいと思います。ただ、今回のことで国民の閉塞感や不満が浮き彫りになったのも事実です。
飯田)閉塞感や不満が。
廣瀬)今回の事態に触発されて、不満を持っていた層が新たな動きを起こさないよう、政権としては抑圧体制にならない程度にグリップを強化していくという「微妙な舵取り」を迫られていると思います。
中長期的にはウクライナとの戦いにも影響する
飯田)この一連の騒動が、ウクライナの戦線に影響を与えることはありませんか?
廣瀬)短期的にはないと思います。やはり短期で収束できたため、戦線にはあまり影響がないでしょう。
飯田)影響はあまりない。
廣瀬)ただ、今回のことでロシアの政治的な脆弱性を示してしまいました。それがウクライナを勢いづかせる要因になる可能性はあります。また、短期間にワグネルが北進できてしまったため、ロシア国内の防衛体制の弱さも見せてしまいました。
飯田)そうですよね。
廣瀬)いまロシア国内での戦闘は国境付近に限定されており、しかもウクライナでは、義勇兵のような人たちが戦っています。「義勇兵がロシア内部に入っても大丈夫なのではないか」というような形で、ロシアへの戦闘方針を変えてくる可能性もあります。
飯田)なるほど。
廣瀬)やはり中長期的に見ると、いろいろな影響があると思います。
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