筑波大学教授の東野篤子氏が6月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。武装蜂起し、向かっていたモスクワへの進軍を停止した「ワグネル」の現状について解説した。
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」、首都モスクワへの進軍を停止
ウクライナへの軍事侵略をめぐり、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が武装蜂起し、首都モスクワへ進軍していた事態で、ワグネルの創設者プリゴジン氏は日本時間6月25日未明、流血の事態を避けるため進軍を停止すると発表した。ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介したとみられる。
威信に大きな傷がついたプーチン大統領 ~事前にも事後にも断固とした措置を取ることができず
飯田)報じられているところでは、民間軍事会社「ワグネル」は撤退を表明し、駐屯地に引き返しているそうです。プリゴジン氏は事実上の亡命のような形でベラルーシに行くことになっています。このような事態が起き、プーチン氏としては痛手になるのですか?
東野)公然と反旗を翻すような勢力が出てきて、しかもモスクワに非常に近いところまで進軍されてしまったわけです。その間、ロシア軍のヘリコプターなどが何機も撃墜され、ロシア正規軍の兵士もその過程のなかで犠牲になっています。
飯田)そうですね。
東野)ウクライナとの戦争であればともかく、内乱のような形でロシア正規軍に犠牲を出してしまった。また、事前にも事後にも断固とした措置を取ることができなかったため、プーチン大統領の威信にも大きく傷が付いたと思います。
プリゴジン氏は何をしたかったのか ~政権奪取までは狙っていなかったのでは
飯田)一方で謎なのは、「プリゴジン氏はいったい何をしたかったのか」というところです。どのようにご覧になりますか?
東野)表向きの理由としては、国防省がワグネルに自分たちの傘下へ入るよう求めており、それに対してプリゴジン氏が反発した。交渉するのではなく、このような手段に出た。情報は錯綜していましたが、ワグネル側の情報発信では、「我々は新しい大統領を得ることになるだろう」という、プーチン氏の首をすげ替えるような発言までありました。
飯田)新しい大統領を得るだろうと。
東野)単純にワグネルの独立性を保ちたかったのか、それとも本当に政権奪取まで目指していたのかどうかはわかりません。
飯田)本当の狙いは。
東野)私は「政権奪取までは狙っていなかったのだろう」と思っていますが、それにしても要求が大きいですし、最終的にどこを落としどころとして狙っていたのかは未だにわかりません。
まるで「御所巻」のようなワグネルの進軍
東京都立大学 法学部教授・谷口功一)ツイッターを見ていたら面白いツイートがありました。マキャベリの肖像画を貼っていて、「私が言った通り傭兵は信用できないだろう」と書いてありました。
飯田)なるほど。
谷口)マキャベリの『君主論』が刊行されたのは、約500年前の1532年です。そのなかに「まともな国家というのは、よい法律と武力を持っている」とあり、「よい武力」の内容は「外国軍や傭兵には頼らないことだ」と書いてあります。
飯田)傭兵には頼らない。
谷口)これは16世紀の話ですが、21世紀でもそうなのかと思ってしまいました。プリゴジン氏の進軍についても「本能寺の変のようだ」とか、「御所巻だ」など、いろいろ言われていますが、いずれにしても数百年前の話です。「我々の常識から外れている」ということを、見ていて改めて思いました。
「攻め上れてしまった」ワグネル ~どこまでの効果を狙っていたのか
飯田)いま御所巻という話がありましたが、将軍の周りを囲むような形で忠臣たちが諫言するのですよね。
谷口)足利直義や、室町幕府の話ですよね。
飯田)そのような意図もプリゴジン氏にはなかったと考えた方がいいですか?
東野)何かを忠言したかったというよりは、無茶をして「どれだけ自分の要求が通るのか」という考えがあったのかなと思います。プリゴジン氏もここまでモスクワに迫れるとは思っておらず、瞬く間に「攻め上れてしまった」というところもあったのではないでしょうか。
飯田)すんなりと。
東野)どこまでの効果を狙い、どれだけ上手くいくと思っていたのかどうかです。
プリゴジン氏がベラルーシに行ったかどうかも不明
東野)ただ、ここまで大きな行動を起こした結末は何なのか。ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長など、ロシア正規軍の作戦において、ある程度中心的な役割を担っていた人たちの更迭を求めていたようですが、現時点でこれが明確に行われたような形跡もありません。
飯田)ないですね。
東野)そもそもルカシェンコ大統領が仲介し、ベラルーシにプリゴジン氏を連れて行くと言われていますが、実行されたのかどうかもまだわかりません。不明点がたくさんあると思った方がいいでしょう。
ウクライナの戦況に影響はない ~中長期的には何らかの効果は出てくるだろうが
飯田)一連の事態がウクライナの戦況に与える影響を、どう見たらいいでしょうか?
東野)もしこれが続いていたり、モスクワのなかで内乱が起こったりしたら、それなりの効果はあったと思います。
飯田)内乱が起きていれば。
東野)ただ現段階では、非常に短期間の間に収束したわけです。私は若干ウクライナの反転攻勢に関し、有利に働けばよいなとは思っていましたが、残念ながら効果はいまのところ期待できません。おそらく、このまま予定された通りの攻撃があるのだろうと思います。
飯田)影響はなく。
東野)ただ、ここで明らかになったのは、プーチン大統領の指導力が弱まっていることです。中長期的には何らかの効果があるかも知れませんが、いま行われている、そして秋までと言われている反転攻勢に大きな影響があるかと言うと、ウクライナ側からすれば残念ながらそういう事態にはなりませんでした。
NATO首脳会議でも大きなテーマになるのでは
飯田)7月には北大西洋条約機構(NATO)首脳会議も予定されていますが、ヨーロッパの国々には緊張が走りましたよね?
東野)国境地帯の国々は、もしロシアが崩壊につながるような事態になった場合どうすればよいのだろうと、相当警戒していました。ロシア人が逃げてきたときに備え、国境を強化するような措置を取った国もあったようです。
飯田)ロシア人が入ってくるのに備えて。
東野)今回は何となく収束しましたが、ロシアにおける不確実性が高まっていることは、NATO首脳会議においても大きなテーマになるのではないでしょうか。
この記事の画像(全1枚)
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。