プーチン演説から感じられた「ちょっとした後ろめたさ」 日本のウクライナ研究の第一人者が分析

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ロシア入国禁止リスト63人にも入っている日本のウクライナ研究の第一人者、神戸学院大学の岡部芳彦教授が5月10日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演。5月9日のロシアの「戦勝記念日」でのプーチン大統領の演説について解説した。

プーチン演説から感じられた「ちょっとした後ろめたさ」 日本のウクライナ研究の第一人者が分析

8187082 09.05.2022 Russian President Vladimir Putin delivers a speech during a military parade on Victory Day, which marks the 77th anniversary of the victory over Nazi Germany in World War Two, in Red Square in central Moscow, Russia. Mikhail Metzel / POOL SPUTNIK/時事通信フォト 写真提供:時事通信社

ロシアは5月9日、旧ソ連による対ドイツ戦勝記念日を迎え、プーチン大統領が演説をした。その中でウクライナ侵攻に絡んでゼレンスキー大統領と北太平洋条約機構NATOを非難した。またウクライナ東部ドンバス地方や祖国のために戦っているとしてロシア軍を称えたが、欧米で憶測が浮上していたウクライナへの戦争宣言はなかった。

辛坊)昨日の戦勝記念日のプーチン演説を先生はどう聞かれましたか。

岡部)1つには、よく練られた文章だなと感じたのと、もう1つは、やはりなかなか苦しいなというのが感想ですね。

辛坊)「ウクライナと今こういう状況だからみんな頑張ろうね」という程度の話だったのではないですか。

岡部)例年、第二次世界大戦の旧ソ連の戦没者を悼む話が大半を占めるのですけど、今回は自分の行動を正当化するような内容が多かったので、「こんな日にこんなこと言わなくていいのにね」と思ったロシア人はいるとと思いますよ。

辛坊)どのあたりですか?

岡部)「今ドンバスでこういう戦闘が行われている」とか、「ウクライナのバンデラ主義者、キエフのバンデラ主義者が今回の事態を引き起こした」とか、「NATOは全然交渉に応じなかった」というあたりですね。バンデラ主義者というのは、ウクライナ民族主義者という意味で、その代表の名前です。

辛坊)ロシアから、プーチンから言わせると、ヒトラーに相当する「ゼレンスキーとその取り巻き達」という意味でバンデラ主義者という言い方を多分使ったんでしょうね。聞いていて私からすると「世界がヒトラーだと思ってんのはあんただよ」って感じですけどね。

岡部)プーチンが強い人だといっても自身の在任中にこんなに対独戦勝記念日のスピーチに世界の関心が集まったのは初めてだと思うんです。かなりプレッシャーだったんじゃないかと感じますね。

辛坊)演説してる時の様子をご覧になってどんな感じで受けました?

岡部)いつもより確かにちょっと早口だしなんかちょっと落ち着きがないなとは感じましたね。100%何もネガティブなことがなければいつも今の自分たちの誇るべき勝利を祝うことを言うんです。そういう内容ではありませんので、ちょっとした後ろめたさは感じました。

辛坊)全体の文脈を読んでみても、現実に今回の対ウクライナ戦でロシア兵に犠牲が出ているということもはっきり認めてるし、その遺族に対する保障みたいなことも言うということで、現状においてウクライナの戦いが思った通りには進んでいないということはかなり認識しているんだなあという感じは受けたんですけど。

岡部)認識していると同時に、「まあここまでは国民にオープンにしてもいい」というのがわかった演説じゃないかと思いますね。犠牲者の数にしても、イギリスの国防相とかウクライナ政府が発表する数字とロシアの数字は全然一致しませんので、ここまでは言えるんだなというのは分かりました。

辛坊)西側のいうロシア兵の死者の数はおよそ1万5000人から2万人の間。ロシアがはっきり認めたのはかなり初期において1000人ちょっとぐらいは認めてますよね。それ以降数字が変動してないんですけど、やっぱり1万人台ぐらいのロシア兵の命が失われてる可能性が高いですよね。

岡部)ロシアの国営メディアがこの戦争の中誤って配信したとされる記事でも、およそ1万5000人くらいです。そこら辺が最大公約数じゃないかなっていう感じはしますね。

辛坊)演説の中でドンバス地域というウクライナ東部の地域の名前が出ています。今回の侵攻初期から出ていますけれども、昨日の演説を聞くと最終的なプーチン大統領の考える落としどころはドンバス占領を完結させればそれでこの戦争をいったん終結させるような感じもあるんですけど、どうなんですか。

岡部)それはそうかもしれません。もちろん最初の目標にはウクライナの政権転覆、大統領交代、傀儡政権樹立ということもあったと思うんですけど、駄目だとなって目標を変更しないといけないので、2月24日に侵攻始めた時に最初は「ドンバス地域のジェノサイドをやめさせるため」と言っていたのでその目的を達したということは言えると思いますね。ただ問題はその地域の隣のドネツク州で全くロシア軍が前進できていないという現実もあるので、それをこれからどうするのか。ロシア軍の戦況によって左右されてくるんじゃないかなと思いますね。

プーチン演説から感じられた「ちょっとした後ろめたさ」 日本のウクライナ研究の第一人者が分析

対ドイツ戦勝記念日の式典に出席したロシアのプーチン大統領(中央)=2022年5月9日、モスクワ(タス=共同) 写真提供:共同通信社

辛坊)その戦況次第ということなんですが、先生の専門ではないと思うんですけど、戦況の行方についてはどう思いますか。

岡部)ウクライナ軍はもうドンバスでは8年間戦っているので、あそこにロシアが精強部隊を置いているのは知られているんですけど、それでもロシア軍の進撃が鈍っているのはウクライナがよく戦っている。そこに西側からの兵器の供与、重火器や車両がようやく届き始めてるような状態だと思いますので、これからウクライナ軍の勢いが増すんじゃないかなと思いますね。

辛坊)先生はウクライナの皆さんともお話をされることもあると思うんですけど、戦争に対する思いというか、簡単にいうと士気みたいなものはどう感じていらっしゃいますか。

岡部)ほとんどの方が勝利を確信しているという感じです。初期に比べるとだいぶ押し返しているイメージですし本心から信じています。最近映像を見ていただいてもわかるとおりキーウなどもだいぶ日常を取り戻しつつあって自信につながってるんじゃないかなと思います。

辛坊)これからどうなるかという希望も含めて先生が一番お感じになっているのは何ですか

岡部)プーチン大統領が始めた戦争なのでプーチン大統領にしか終わらせられないので、それをどういうふうに終わらせる決断をさせるかにかかってる。それに我々は向かっていかないといけないと思います。

辛坊)我々できること何がありますかね。

岡部)一つはですね。やはり関心が薄れていくと、なんでもし放題ということになりますからちゃんと見ていることが必要じゃないでしょうか。

辛坊)関心を持ち続けるということが我々ができる一番やらなきゃいけないことかもしれないですね。

岡部)そう思いますね。

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