青山学院大学客員教授でジャーナリストの峯村健司が7月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。習近平国家主席の愛読書から習近平氏の今後について解説した。
愛読書から占う、中国・習近平国家主席の今後
秋の党大会で異例の3期目続投を目指していると報じられる中国の習近平国家主席。ここでは習近平氏の愛読書から習近平氏、および中国の今後を占う。
飯田)前回ご出演いただいたときは、週刊ポストでいよいよ連載が始まるというタイミングでした。
峯村)そうでしたね。
飯田)そのとき、習近平氏がいろいろなところでメディアに映るけれども、その表情ではなく、背後にあるもの、本棚に注目しているとおっしゃっていました。
1800年代にロシアで出版されたチェルヌイシェフスキーの『何をなすべきか』
峯村)そのなかで私が注目したのが、1800年代に出版された、ロシアの作家ニコライ・チェルヌイシェフスキーによる『何をなすべきか』という、520ページもある厚い本です。
飯田)しかも2段組みで。
峯村)読むのに苦しみました。1つも面白くないからです。恋愛小説なのですが、話があちこちに飛んでよくわからない。「習近平氏と恋愛小説」は結びつかないなとも思いますし。
飯田)ガチガチのイメージの人ですからね。
峯村)1回読んで、まったくピンとこなかったのです。しかし、2回目に読んだときに「おっと」と思ったのですが、途中、急に文体が変わるところがあることに気付いたのです。主人公の女性が「あの人が好き、この人が好き」というような恋愛の話をしているのですが、突然、奇妙な男が登場するのです。
『何をなすべきか』の登場人物ラフメトフを「私の目標」だと語る習近平氏
峯村)その男はラフメトフという人物なのですが、この人がいきなり「社会はもっと平等でなければいけない」とか、「男はこういうものだ」などという話をし始めるのです。「いまの金持ちを許してはいけないのだ」と、革命を想起させるようなことを力説するシーンが入り込んでいたのです。
飯田)革命のようなシーンが。
峯村)過去のインタビューなどを調べると、習近平氏はこのラフメトフに憧れていて、「私の目標だ」と言っていたことがわかり、ようやくつながったのです。
飯田)恋愛小説の部分ではなくて。
社会主義をロシアに広めた活動家だったために投獄されたチェルヌイシェフスキー ~牢屋から恋愛小説を装って『何をなすべきか』を執筆
峯村)あとでチェルヌイシェフスキーのことを調べたら、彼は最初に社会主義をロシアで広めた革命家だったのです。しかし、国家を転覆させたということで、投獄されていたのです。
飯田)1800年代、19世紀ということは帝政ロシアの時代。体制転覆で捕まって投獄された。
峯村)それで牢屋から、検閲官に気づかれないように恋愛小説風の話を書いて、数十ページだけラフメトフの話を入れた。それを読んだ当時のロシアの青年たちが「すごい」と。「社会主義はすばらしい」と感銘を受け、革命につながっていったのです。
『何をなすべきか』に影響を受けたレーニン ~当時の革命に身を投じるロシア青年のバイブルであった
峯村)そのなかの1人にレーニンがいた。
飯田)影響を受けたなかの1人に。
峯村)しかもレーニンはこの本を真似て、同じタイトルの『何をなすべきか』という本を出しているくらい、感銘を受けたのです。
飯田)のちのソ連における共産主義革命の原点の本だったのですか?
峯村)その通りです。まさに社会主義のバイブルだったのです。当時、多くのロシア青年がこれを読んで革命に身を投じたくらい、すごい本なのだということがわかったのです。
登場人物のラフメトフに自分を重ねていたと思われる習近平氏
飯田)この本は中国で売られているものなのですか?
峯村)中国語に翻訳されて売られています。習近平氏の「愛読書コーナー」には中国語版が並んでいます。
飯田)習近平氏はそんな難解な本を、青年時代に読んでいたということですか?
峯村)青年時代どころか、習近平氏は下放されて陝西省の田舎に行ったときも読んでいるのです。
飯田)文化大革命時代ですね。
峯村)そのときに持って行ったのがこの本だったのです。当時はご飯も食べられない苦しい状況です。ラフメトフは禁欲的な人間で、恋愛もせず、労働をして、肉体を鍛え、自分の魂を強くするような人です。習近平さんは下放時代も、ラフメトフに自分を重ねていたのではないかと類推できます。
飯田)下放時代に。
峯村)はい。ラフメトフは自分の限界を試したくて100本くらいの釘をベッドに打ち、その上に寝て血だらけになるというような過激なエピソードもあります。
飯田)すごいエピソードですね。
峯村)でもそこに習近平氏は感銘を受けているわけです。
飯田)ある意味の臥薪嘗胆的な。
峯村)究極の臥薪嘗胆ですね。
3期目に入るとマルクス主義への傾倒が強くなるのでは
峯村)なぜプロファイリングにこだわっているかと言うと、習近平氏がいまやっている政策が本物なのかどうか。習氏が共同富裕政策やマルクス主義に回顧しているのは、本心からやっているのか、それとも3期目を狙って政局的にやっているのかということを見極めたかったのです。
飯田)いまやっている政策が。
峯村)この本に対する彼の思いを見ていくと、「たぶん本物だろう」と。逆に言えば、3期目になると、マルクス主義への傾倒が強くなるのではないかということが、この本から類推できます。
本音を知るには「何を読んでいるか、どういう人と会っているか」
飯田)一連の改革開放政策、どちらかと言うと資本主義に転んでいくような政策を、習近平氏は批判的に見ている。むしろそこを変えようとしているというのは、筋金入りのところがあると。
峯村)彼らは演説では本音を言いません。本音を知るには、「何を読んでいるか、どういう人と会っているか」ということを丹念に分析することが大事なのです。
飯田)そう考えると、少しくらい経済が傷ついたとしても、マルクス主義に回帰していくのだということですか?
峯村)ラフメトフも「貧しくてもいいのだ、私はみんなのために平等を志して生きている」と言っています。これがまさに習近平氏が10年かけてやってきた、反腐敗キャンペーンのもとになっているのです。読んでいると、ラフメトフをそのまま習近平氏に置き換えて読めてしまうくらい、「スッ」と入ってくるのですよね。
究極の社会主義を目指していることは間違いない
飯田)でも、それはある意味のデフレ礼賛のようなもので、経済は死んでしまいますよね。
峯村)そうです。これを読んでいると経済が多少犠牲になってもかまわないと考えているだろうな、と思います。
飯田)そうであっても、純粋なマルクス主義に突き進んでいく。
峯村)チェルヌイシェフスキーは理想的社会主義、空想的社会主義などと言われています。そう考えると、究極の社会主義を目指すのだというところは、実行できるかどうかは別にしても、目指しているのはどうやら間違いないということがプロファイリングできる。
「習近平1強体制」が強まれば、ポル・ポト政権のような不幸な過去が繰り返される可能性も
飯田)原理主義的なことに対して傾斜していくというのは、いまのゼロコロナ政策を見るとまさにそうですね。
峯村)おっしゃる通りです。ゼロコロナ政策も、「コロナはよくない、コロナをやっつけるのだ」ということを本気で考えているのでしょう。先日、北京市の書記はゼロコロナ政策について「あと5年続けるのだ」という発言をしていました。習近平氏の次の3期目が終わるまでやる、ということを暗示しているのだと思います。
飯田)5年というのは、そういう計算になってくるわけですか。
峯村)私はそう思いますね。
飯田)でも、人類の過去の歴史を紐解くと、現実にどうアジャストしていくかということと、原理主義的な政策は正反対であって、それで惨禍を生んでしまったところもあるではないですか。
峯村)ありますね。
飯田)共産主義についても、カンボジアのポル・ポト政権など、悲惨な歴史もたくさんあります。その辺りは勘案しないのですか?
峯村)3期目にどうなるかという状況次第ですね。「習近平一強体制」がさらに強まれば、そういうリスク、不幸な過去が繰り返される可能性は十分あります。
飯田)そして、理想主義的な指導者は、革命を輸出しようというところまで考えますよね。
峯村)そこはわかりません。中国は一応、「革命は輸出しない」ということは貫いています。しかし実態は、中国式のデジタル監視システムを積極的に途上国を中心に輸出しています。一帯一路は各国に広がっているわけですから、そこに思想や政治体制が合わさってくる可能性も十分あります。
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