ウクライナからの小麦が入らず、第三世界の国々で「政情不安」が起こる可能性も

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地政学・戦略学者の奥山真司が7月26日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。ロシアによるウクライナ南部・オデッサ港へのミサイル攻撃について解説した。

ウクライナからの小麦が入らず、第三世界の国々で「政情不安」が起こる可能性も

※画像はイメージです

ロシアがウクライナのオデッサ港への攻撃を正当化

ロシア国防省は、ウクライナ産穀物の輸出拠点となるウクライナ南部のオデッサ港への7月23日のミサイル攻撃について、ウクライナ軍の拠点を狙った正当な攻撃だと主張した。ロシアとウクライナは国連とトルコを交え、オデッサなど3港からの穀物の海上輸送再開に合意したが、実際に再開できるかどうかは不透明だ。

新行)ウクライナのゼレンスキー大統領は「野蛮な行為だ」と非難し、またアメリカのブリンケン国務長官も「強く非難する」と声明を出した他、国連やヨーロッパでも批判の声が相次いでいます。

奥山)ゼレンスキー大統領に同意せざるを得ないですね。野蛮です。ロシアは今回の戦争で、相手と合意した直後に攻撃するようなことをしています。

必要とする中東・アフリカへ大量の小麦を運べない ~通り道となる黒海が使えず

奥山)今回のニュースで大事だと思うのは、「穀物輸送」ということです。ウクライナは世界第5位の小麦の生産地です。それほど質の高い小麦をつくっているわけではないのですが、中東・アフリカに大量の小麦を輸出していて、特にエジプトはウクライナ産のものを多く輸入しています。

新行)エジプトが。

奥山)黒海はその通り道になるわけです。日本で言うと、ウクライナが東京だとすれば、外の通り道である浦賀水道でしょうか。相模湾や太平洋の方に抜けていく道が、まさにウクライナにとっての黒海になります。

新行)なるほど。

奥山)そこが戦争で閉鎖されている状況です。小麦を運び出すために、鉄道でポーランドやルーマニアの方を通るということはテレビでも紹介されているのですが、大量にものを外へ運ぶためには船が必要なのです。

新行)大量に運ぶためには。

奥山)船はスピードは遅いのですが、大量に安くものを運び出せる。そのルートで輸出を再開できれば、ウクライナの小麦を欲している中東・アフリカの人たちに届けられるはずだったのだけれど、それができないのです。

輸送できないために新たに刈り取られた小麦を貯蔵できない

奥山)小麦そのものは、ウクライナで去年(2021年)の冬に刈り取られたものは既に溜まっています。サイドに溜まっているものがはけていない。それがはけないと、そろそろ刈り取りが始まる春・夏ものを貯蔵することができません。

新行)新たなものを。

奥山)流通が滞るという、典型的なロジスティクスのまずい部分が出てきているのです。早く大量に外へ出したいのですが、それをロシアが妨害している状況が続いています。

第三世界の国々で政情不安が起こる可能性も ~物価が上がり

奥山)小麦のような穀物が輸出できないと、中東とアフリカにおいて政情不安が高まる可能性が見えています。まさに地政学リスクなのですが、例えば2010~2011年にかけて「アラブの春」が起こったことを皆さん覚えていますか?

新行)ありましたね。

奥山)チュニジアがきっかけになって、周辺の国々で民主化運動が起こった。政府に対して不満があるため、「政権を民主化して変えよう」ということで広がり、アメリカがそれを支援するということがありました。

新行)アメリカが。

奥山)あの政情不安の原因は、リーマンショックの余波でものの値段が上がったことです。特に小麦の値段が上がった。今回、それと同じような状況がウクライナ戦争という形で起こっているのです。物流がうまくいっていない。そしてものが入ってこないなかで、小麦の値段が上がっています。物価が上がり、インフレが起きると政情不安につながるのです。

新行)政情不安に。

奥山)アラブの春と同じような現象が、これから中東などで起こるのではないかということが心配です。既にそのような事例がスリランカで起こっています。あそこでも物価が上がり、ガソリンも入ってこなくて、「政権を変える・変えない」という話が出ています。

新行)スリランカで。

奥山)ミャンマーなども同じで、ものが入ってこない。値段は絶対に上がるという状況で、今後、政情不安が第三世界の国々で起こるのではないかということが心配です。

日本の小麦にも影響 ~他人ごとではない

新行)穀物輸送の合意のときに、国連とトルコが仲介役で入りましたけれど、トルコとしてはどうなのですか?

奥山)キャスティングボートを握っているトルコとしては嬉しくないかも知れませんが、今回の紛争のなかで、発言力が最も上がっているのはトルコだと見ています。どう転ぶのかはわかりませんが、トルコが中東地域でのプレイヤーとして、大きな存在感を放っていくのだろうということが見えてきました。

新行)日本の対峙の仕方も気になるのですが。

奥山)日本は品質の高い小麦をカナダやオーストラリアなどから輸入しているのですが、第三世界の国々が政情不安になると小麦の値段もありますし、10月の価格改定によって、日本での小麦の値段がこれから上がっていくと思います。

新行)日本でも。

奥山)他人ごとではいられないと思います。状況的には世界でインフレが忍び寄ってきているという印象です。

液化天然ガス(LNG)の輸入

新行)あとは液化天然ガス(LNG)のことですよね。

奥谷)日本もロシアに対していろいろ権益を持っていますけれど、ロシアがやすやすと事業を続けさせてくれるとは思えません。日本はロシアに対抗する形を取っていますので、ロシア側からは敵対視される状況です。それを日本は自覚しておいた方がいいですね。

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