山田哲人と浅村栄斗 プロへの道を開いた「あの夏の甲子園」
公開: 更新:
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、ひと夏の甲子園で劇的な成長を遂げ、評価を高めたプロ野球選手たちにまつわるエピソードを紹介する。
熱戦が続いた夏の甲子園。大会期間の短い間だけでも急激な成長を見せてくれる球児も多く、日々の熱戦から目が離せなかった。そして、彼らがこの夏に見せた一瞬の煌めきは、数年後にプロの舞台でさらなる輝きとしてファンを喜ばせるものになっている可能性も。そんな長い視点で楽しめるのも高校野球の魅力のひとつだ。
高3最後の夏、甲子園で大きな飛躍を見せ、のちに日本代表にまで上り詰めた2人の打者がいる。山田哲人(ヤクルト)と浅村栄斗(楽天)だ。その成長の影にあったのは、「プロに行きたい」という強烈なモチベーションだった。
■履正社・山田哲人:トリプルスリーの片鱗を見せた2010年の甲子園
大阪・履正社では1年夏からベンチ入りを果たし、2年夏にはクリーンナップも務めていた山田。だが、この時点ではまだ「プロ注」の選手ではなく、履正社の岡田龍生監督も「もっとやる気を出せば、もっとすごい選手になれるのに」と物足りなさを感じていたという。
そんな山田にとって転機となったのは、2年秋の大阪大会、準々決勝でのPL学園戦。この試合で山田はチームの敗戦につながる痛恨のエラーを犯してしまい、センバツ出場も逃す形に。試合後には涙が止まらないほど悔しがる山田の姿があった。
『山田がチームの誰よりも練習するようになったのは、この敗戦の後からだった。この頃から「プロに行きたい」と口にするようになり、目的意識が芽生えたことで、野球に対してはじめて本気で取り組むようになったのだ』
~『スポニチアネックス』2016年8月6日配信記事 より
この経験を経て大きく成長を遂げた山田は2010年、最後の夏、大阪大会で打率4割超えの活躍を見せ、履正社高校を13年ぶりの夏の甲子園出場へと牽引。
迎えた甲子園本番でも、山田は初戦で打っては2安打、さらにホームスチールを決めて走塁センスの高さを示すと、続く2回戦は左中間スタンドにホームラン。さらにこの試合では守備でも好プレーを披露。試合には敗れたものの、わずか2試合で、のちのトリプルスリー選手の片鱗を示し、ドラフト上位候補の評価を決定づけたのだ。
実際、当時のプロスカウトの山田評がとても興味深い。
『山田は3拍子そろった好選手。春から夏にかけて急激に伸びてきた。プロでも意外と早く出てくるのでは』
~『スポーツ報知』2010年8月13日の記事より 巨人・山下スカウト部長(当時)の言葉
この3拍子揃った好選手がプロの舞台で初のトリプルスリーを達成するのは、プロ5年目のことだった。
■大阪桐蔭・浅村栄斗:「甲子園史上最強1番打者」を生んだ2008年の甲子園
今夏の甲子園では、3本塁打を放った「強打の1番打者」、高松商の浅野翔吾が大きな話題を集めた。この浅野以前、「甲子園史上最強1番打者」と呼ばれたのが2008年、全国制覇を果たした大阪桐蔭の1番打者、浅村栄斗だ。
計6試合で29打数16安打、打率5割5分2厘。1回戦では5打席連続安打、2回戦では1試合2発。6試合中3安打以上が実に4試合という好成績で大阪桐蔭の日本一に大きく貢献した。のちにプロの世界で打点王、本塁打王に輝くパンチ力を見事に見せつけていた形だ。
これほどの活躍を見せた「甲子園史上最強1番打者」も、レギュラーの座を掴むまでには紆余曲折があった。1年秋の時点ではベンチメンバーだったにもかかわらず、翌春(2007年)のセンバツではメンバー漏れ。アルプスでの応援に回る悔しい経験をした。
そんな浅村を奮起させたのは、西谷監督の「大阪桐蔭に来た意味を考えろ」という言葉。そこから改めて練習に取り組む姿勢を見直し、チームの誰よりもバットを振り込んだことで、最後の夏(2008年)、不動の1番打者として甲子園出場を掴むことができた。
のちに浅村は当時を振り返り、最後の夏に至るまでの経緯をこう語っている。
『(西谷浩一)監督に、プロに行きたいという話をずっとしていました。社会人、大学よりも自分はプロに行きたい―と。そしたら、監督に甲子園で活躍しないとプロは厳しいと言われた。野球をやっていれば、みんなプロになりたいというのが普通。どうしてもなりたかった。そういうのもあって、甲子園では頑張らないといけないという思いがありました。その言葉を受けて、この夏の舞台でやってやらないと!と、原動力になりましたね』
~『スポーツ報知』2018年8月14日配信記事 より
山田同様、プロへの意識が甲子園本番での飛躍につながったのだ。
ちなみに、山田哲人は2010年の外れ1位でヤクルトが指名。一方、浅村の場合は2008年の西武ドラフト3位、全体で25番目に名前が呼ばれた。この夏に活躍した球児たちはどんな評価を受けてプロ入りし、そして数年後にどんな輝きを見せてくれるのか。ひと夏が終わっても追いかけることができる喜びもまた、高校野球、そしてプロ野球の醍醐味と言える。