民主党善戦の要因となった「チケットスプリッタ―」「チケットスキッパー」の存在 米中間選挙

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東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が11月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。11月8日に投票が行われ、開票作業が続く米中間選挙について解説した。

民主党善戦の要因となった「チケットスプリッタ―」「チケットスキッパー」の存在 米中間選挙

就任式で宣誓後、手を振るバイデン米新大統領=2021年1月20日、ワシントンの連邦議会議事堂(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

米中間選挙、共和党内でトランプ氏の「責任論」も浮上

11月8日に投票が行われたアメリカ中間選挙は、10日も開票作業が続いた。上院選・下院選ともに与党・民主党と野党・共和党が多数派をめぐって接戦を繰り広げている。中間選挙で予想外に議席を伸ばせなかった共和党では、トランプ前大統領の責任を問う声が浮上し、次期大統領選に出馬すべきでないとの意見も出ている。

予想に反して善戦している民主党 ~下院は共和党が獲るだろう

飯田)井形さんは昨日(11月10日)の夜にアメリカから帰国されたばかりです。まさに中間選挙の真っ只中にいらっしゃいましたが、現地はどんな状況でしたか?

井形)「下院は民主党のボロ負けだろう」と言われ、上院は少し前から、「もしかしたら善戦できるのではないか」というような噂はありました。実際、蓋を開けてみたら、上院は本当に善戦している。しかも、下院もそこまでボロ負けではないということで、民主党の人たちは盛り上がっていました。

飯田)8日投票でその後開票ということになると、少なくとも下院の過半数に関しては、翌日ぐらいに結果が出るのではないかと言われていましたが、2日経ったいまでもまだ出ていないのですよね。

(※編集部注:2022年11月11日午前6時50分ごろの放送)

ジョージア州をどちらが獲るかで決まりそうな上院

井形)ただ、「下院は共和党が獲るだろうな」というのが大方の見方にはなっています。問題は上院です。いま(11日午前)、民主党が48議席、共和党が49議席を獲得しています。残り3議席なのですけれども、民主党は副大統領がいるので、50対50になれば副大統領が決められます。実質、残り3つのうち2つを獲った方が勝ちになります。

飯田)3議席のうちの2議席を獲った方が。

井形)「アリゾナは民主党が優勢、ネバダは共和党が優勢」ということが見えてきているので、残りはジョージアです。ジョージアは決選投票が12月頭に行われることになったので、私もそのときはワシントンD.C.に行こうと思っています。

飯田)12月6日と言われています。

今回の選挙の鍵となった「チケットスプリッター」の存在

飯田)直前は共和党が伸びるのではないかと言われ、その前の10月辺りは「民主党が盛り返してきたのではないか」など、まちまちな報道が続いていました。今回、蓋を開けてみたらこういう流れになっていますが、現地ではどのように分析されているのでしょうか?

井形)10月にもワシントンD.C.にいたのですけれども、テレビの政治コマーシャルなどで「議員が何を言っているか」ということをチェックしましたが、メッセージがぶれていたのです。

飯田)ぶれていた。

井形)「銃規制が大事なのだ」と言う人がいたり、「本当にバイデン大統領を信任させていいのか」と言う人もいました。もちろん妊娠中絶の話や「我々は中国に負けない、ロシアに好き勝手なことをさせない」と外交問題について触れる人もいました。

飯田)なるほど。

井形)そんななかで今回、直前になって両党ともメッセージを統一させてきたのです。民主党は「妊娠中絶問題」に一本化し、「妊娠中絶に対して共和党はこんなに酷いことを言っているのだから、我々に投票してください」と訴えていました。

飯田)民主党は妊娠中絶に一本化。

井形)逆に共和党は「インフレ経済」に集中しています。その結果、日本ではあまり話題になっていませんが、「“チケットスプリッター”が今回の選挙の鍵だった」と分析されています。

飯田)チケットスプリッター。

井形) 「チケット」は投票用紙で、「スプリッター」は「分裂させる」ということです。

飯田)「スプリット」というと、ボウリングで右と左にピンが分かれてしまうことを言いますが、あんな感じで分かれるということですね。

投票を分裂させる行動をした人が多かった ~「州知事は共和党に入れるけれど、上院は民主党に」またはその逆の行動をとる

井形)何が分かれたかと言いますと、今回は上院の選挙だけではなく、州知事選挙も行いました。

飯田)36州で州知事選も行われました。

井形)そうなると、投票用紙に「上院はこちら」で「州知事はこちら」というように、2回チェックする場所があります。通常であれば、両方とも民主党、あるいは共和党という人が多いのです。

飯田)どちらの党を支持しているかで。

井形)しかし今回、「自分は共和党だから、州知事に関しては共和党に入れるけれども、さすがに上院は民主党にしよう」と。また、その逆もある。まさに「投票を分裂させる行動をした人が多かった」という分析結果が出ています。

民主党を善戦させたもう1つの存在「チケットスキッパー」

飯田)日本の選挙でも、小選挙区と比例代表で党を分けるようなことがありますけれども、アメリカはどうしてこうなったのですか?

井形)さまざまな理由があると思いますが、1つは「候補者の質ではないか」と言われています。

飯田)候補者の質。

井形)例えば共和党の議員で、自分は「妊娠中絶反対だ」と言っているのに、実は「前のガールフレンドに妊娠中絶を強要していた」というようなことが出てきています。

飯田)出ていますね。

井形)そうなると、州知事はもちろん、自分は共和党に入れるのだけれども、「上院はさすがにこの候補者には入られないな」と民主党に入れたり、あるいは上院に関しては投票しない人が少なくないのです。

飯田)投票しない。

井形)投票しない人は「チケットスキッパー」と言われていて、完全に反対に投票した人たちは「チケットスプリッター」と言われています。 そういうところが効いてきたのではないでしょうか。

意外と多いアメリカの無党派層 ~その人たちが「チケットスプリッター」「チケットスキッパー」に

飯田)「自分は民主党に入れるのだ、共和党に入れるのだ」と固まっている人は変わらないけれど、迷う人がかなりいたということですか?

井形)アメリカの報道から、「共和党と民主党のどちらかに割れている」と見られがちなのですが、実は「自分は共和党だ、あるいは民主党だ」と認識している方は2割程度ずつなのです。

飯田)2割。

井形)間にいわゆる「無党派層」のような人がかなりいます。もちろん無党派層と言いつつ、どちらかの色がついている人が多いのですけれども、その人たちが今回、チケットスプリッターやチケットスキッパーになったと分析されています。

飯田)日本では「分断が進んでいる」と報道されますけれど、意外と真ん中の人もかなりいるのですね。

井形)そうなりますね。

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