それでも習近平政権が「ゼロコロナ政策」を「ゼロ」にすることはない
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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が12月2日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。習近平政権が緩和した「ゼロコロナ政策」について解説した。
中国がゼロコロナ政策を緩和か ~江沢民氏の追悼が習政権批判に転じることを懸念か
中国で新型コロナウイルス感染対策を指揮する孫春蘭副首相は12月1日、防疫担当者との会議で「防疫策をさらに適正化する条件がつくられた」と述べ、ゼロコロナ政策を緩和する考えを仄めかしたと見られている。習政権は江沢民元国家主席の追悼が抗議活動につながらないよう警戒している。
飯田)11月6日の午前中に江沢民氏の追悼大会を北京の人民大会堂で行うと、国営新華社が報じています。
国民のために何かやったというより、天安門事件後の中国を立て直そうとした江沢民氏
宮家)江沢民さんは、もともと政治的には無名の人だったのです。1989年6月4日、天安門事件が起きて北京は大混乱になりました。鄧小平さんが、当時の中国のリーダーは学生に甘すぎると考えた。どうしようかと思っていたときに「江沢民が上海にいるではないか」ということで、彼に白羽の矢が立ったわけです。もちろんある程度実力のある人だったとは思いますが。
飯田)無名だった江沢民さんに。
宮家)学生のために何かやった人でも何でもない。「国民のために何かやった」というよりは、むしろ天安門事件後の中国を立て直そうとした人です。しかも厳しい形で。
飯田)厳しく。
宮家)間違っているかも知れないけれど、私はそういうイメージを持っています。江沢民さんの追悼は、国家主席だったわけですから当然、人民大会堂のなかで共産党員がみんな集まってやりますよ。
江沢民氏の追悼から「習政権批判」に転じることを恐れて「ゼロコロナ政策」を緩和したわけではない
宮家)周恩来さんが亡くなったときは、自然発生的に人が出てきて、追悼集会から第一次天安門事件が起こったわけです。
飯田)周恩来さんが亡くなったときは。
宮家)江沢民さんにもそういうものがあるかと考えると、少し違うのではないでしょうか。つまり、逆に言うと習近平さんからすれば、江沢民派の人たちが党内で習政権批判に転じるのは困るけれど、それはもう既に相当程度、封じ込めているのではないでしょうか。
飯田)既に。
宮家)実際に党大会へも出てこられなかったわけですから、かなりお体が悪かったのだと思います。 そして、もしゼロコロナ政策で頭にきている一般国民が、江沢民さんの追悼によって燎原の火のように反政府批判が広がっていくと言うのであれば、「それは違うかな」という感じがしないでもない。
ゼロコロナ政策によって各戸に入っていき、批判勢力の芽を摘むこともできた ~なくてはならない政策だった
飯田)この2つは結びつきそうに見えるけれど、結び付かない。
宮家)結びついたら大変なことなのですが、それはないのではないでしょうか。ゼロコロナに関しても、確かに関係者が「これから防疫策をさらに適正化する条件がつくられた」と言っています。翻訳すると、「もしかしたら緩和するかも知れない」ということです。あれだけ批判が高まれば、その可能性はあるでしょう。
飯田)ゼロコロナ政策に対して。
宮家)実はもっと前に緩和したかったけれど、そんなこと党大会前にできるわけがありません。なぜ、あれほどゼロコロナ政策を行っていたかと言えば、コロナをゼロにしたいだけではなかったと思うのです。
飯田)コロナ対策だけではない。
宮家)副次的な効果として、例えば街をロックダウンすると、検疫だ何だと称して当局が各戸に入っていけるではないですか。具体的な根拠があるわけではありませんが。
飯田)そうですね。
宮家)そうすれば批判勢力の芽を未然に摘むこともできる。特に、5年に一度の党大会前にはね。そのためにも、あの政策は絶対に必要だったのだと思います。
今後もゼロコロナ政策が「ゼロ」になることはない
宮家)だからあれだけ評判が悪くても続けたのだと思います。その意味では、仮にこれからある程度緩和されるとしても、絶対にゼロにはならない。ゼロコロナのゼロはないと思います。
飯田)ゼロコロナ政策をゼロにすることはない。
宮家)今回は学生が騒ぎました。しかし、これはまずいと思っても、現場の人たちが「それではやめます」と言ってやめられるわけがありません。下級の管理職の人が。
飯田)勝手にやめることはできない。
宮家)習近平国家主席が言っているゼロコロナですから、あのレベルの人たちがやめますなどと言えるわけがない。逆に言うと、ある程度、こうした流れは準備をしていたのかも知れません。
とりあえず緩和して騒いでいた学生を当座は泳がせる ~第三次天安門事件につながることはない
宮家)学生が騒いでいるなかで、もっと弾圧するなり厳しいことを言えば、ますます学生たちは騒ぎます。そうすると余計なところで火に油を注いでしまう。それならば、「わかった、言うとおりにする」と言ってまずは騒動を鎮め、同時にデモに参加したみんなの顔写真を撮り、いつか報復すればいいわけです。
飯田)なるほど。当座はまず泳がせておいて。
宮家)当座はガスを抜き、爆発しないようにする。
飯田)とりあえずは。
宮家)1ヵ月以内にまた似たようなことが起きるのであれば、本当にご心配の「習近平批判」に転じる可能性はあるかも知れませんが、おそらく、そうはならないのではないでしょうか。
飯田)習近平批判に進むことはない。
宮家)天安門事件のときも、自然発生的に出てきたものではないと思っています。あれは政権内部で「学生の言うことにも一理ある」と思っている人たちがいて、その人たちが支援したからこそ、あんな事件が起きたわけです。
飯田)政権内部からの支援で。
宮家)だから今後3回目の天安門事件が起きるかと言われれば、相当厳しいと思います。党内に支援者がいない中で、しかも厳しい圧力があるなかで、学生たちにそんなことはできないのではないか、という気がしないでもない。
飯田)当時より監視システムも進みましたからね。
宮家)今は圧倒的にしめつける方が強いですから。IT技術もありますし。
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