追悼 佐藤蛾次郎さん 記憶に残る名脇役
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【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第1090回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
12月10日、昭和平成の名優が、また1人天国へと旅立ちました。佐藤蛾次郎さん、享年78歳。
子役からキャリアをスタートして、ドラマ「男はつらいよ」に出演。映画『男はつらいよ』で源公に扮し、国民的な人気を獲得しました。
演じるキャラクターを彷彿させるような気さくなお人柄で知られており、ニッポン放送の番組などで“寅さんエピソード”を披露する様子を耳にした人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、佐藤蛾次郎さんの出演作とともに、俳優としての魅力を深掘りします。
寅さんとの丁々発止が懐かしい!
佐藤蛾次郎さんと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、何といっても映画『男はつらいよ』シリーズ。
渥美清さん演じる“フーテンの寅”こと車寅次郎が日本各地を旅して、そこで出会った“マドンナ”との恋愛模様を繰り広げながら騒動を起こす、言わずと知れた人情喜劇。
蛾次郎さんが演じたのは、寅さんの地元・柴又帝釈天の寺男、“源公”こと源吉。全50作品中49作品に出演されました(シリーズ8作目『男はつらいよ 寅次郎恋歌』のみ、撮影直前に交通事故に遭って入院したため未出演)。
もじゃもじゃ頭に、なまずのような髭。寅さんのことを兄のように慕う一方で、「バカ」と書かれた寅さんの似顔絵を鐘に貼って鐘木をつくような豪気な一面も持ち合わせており、寅さんをも凌ぐほどの破天荒ぶりを見せることもしばしば。寅さんと源公が繰り広げる軽妙な丁々発止は実に痛快で、シリーズファンにはお馴染みですよね。
また蛾次郎さんは料理上手で有名。撮影の合間に手作りのカレーをキャストやスタッフにふるまう一面も。
シリーズを通してみると、源公はいわゆる“脇役”なのですが、『男はつらいよ』を語るには外せない“儲け役”まで昇華させたのは、佐藤蛾次郎さんの人間力の賜物と言っても過言ではないでしょう。
渥美清さんをはじめとする先輩俳優に可愛がられただけでなく、後輩俳優たちから慕われていた佐藤蛾次郎さん。
松田優作さんの生誕60年、没後20年に製作された公式ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』公開記念イベントには、松田優作さんと親交が深かった俳優を代表して、佐藤蛾次郎さんが登場。蛾次郎さん宅の引っ越しを優作さんが手伝ったエピソードなど、“等身大の優作さん”を語って下さったことが思い出されます。
そのユーモアたっぷりの話しっぷりは、優作さんと交遊していた当時の光景が目に浮かぶほど。観客はもちろん、夫人で本作プロデューサーの松田美由紀さんも終始楽しそうに、蛾次郎さんのお話を聞いていらっしゃったのが印象的でした。
アフロヘアー姿という個性的な風貌で、数々のドラマや映画に出演。独特の存在感を発揮していた佐藤蛾次郎さん。そんな蛾次郎さんについて個人的にいちばん驚いたのは、現代劇に限らず時代劇でも、カツラをつけずにアフロヘアーで出演していたことです。
当時は、子ども心に「時代劇なのに、何故この人だけアフロ?」と、頭のなかはクエスチョンマークだらけ。そんな“我が道を行く”姿も鮮烈な印象の俳優さんでした。
名脇役として、ヤクザやチンピラといったコワモテ系から、食堂の店主や町内会のおやじさんといった役どころまで、味のある演技で観客を魅了。人々の記憶に残る俳優だった佐藤蛾次郎さん。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
いま、観るべき! 佐藤蛾次郎さん 近年の出演映画・ドラマ
■『男はつらいよ お帰り 寅さん』
『男はつらいよ』シリーズ第1作から50年目に製作された、本シリーズ最終作。おなじみの登場人物たちの“いま”を描くとともに、4Kデジタルで修復された「寅さん」シリーズの映像が見事に融合された秀作です。生前、佐藤蛾次郎さんがお気に入りの場面だと公言していた「メロンのシーン」に、抱腹絶倒間違いなし。
■『罪の声』
日本中を震撼させ、未解決のまま時効となってしまった昭和の大事件をモチーフにした、塩田武士のベストセラー小説を映画化。佐藤蛾次郎さんの役どころは、事件の証言者のひとり、お好み焼き屋さんの店主。抑揚の効いた演技に「さすが日本を代表する名優!」と唸るばかり。
■ドラマ『大阪環状線 ひと駅ごとの愛物語』
大阪環状線の各駅をテーマに物語が展開するオムニバスドラマ。2016年にオンエアされたPart1、第10話 京橋駅「KYOBASHI ON MY MIND」に主演した佐藤蛾次郎さん。孫ほども年の離れている少女とのやり取りが微笑ましく、ちょっぴり不思議なおじいちゃん役を好演しています。
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『男はつらいよ』シリーズ
(1969年~1995年、1997年[特別編]、2019年に全50作公開)
(佐藤蛾次郎さんはシリーズ全50作中、第8作以外の49作品に出演)
DVD&Blu-rayリリース
監督:山田洋次(第1作、第2作、第5作以降)、森崎東(第3作)、小林俊一(第4作)
脚本:山田洋次 ほか
出演:渥美清、倍賞千恵子、前田吟、森川信、松村達雄、下條正巳、三崎千恵子、中村はやと、吉岡秀隆、太宰久雄、美保純、笠智衆、佐藤蛾次郎、浅丘ルリ子、後藤久美子、秋野太作、北山雅康、ミヤコ蝶々、志村喬、光本幸子、夏木マリ、鈴木美恵、脇山邦子
配給:松竹
公式サイト https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/
『SOUL RED 松田優作』(2009年公開)
DVDリリース
監督:御法川修
撮影監督:渡辺眞
録音:高野泰雄
プロデューサー:安部実奈、浅見一史
ライセンス・マネージャー:石黒美和
エグゼクティブプロデューサー:松田美由紀、河井真也
インタビュー出演:松田龍平、松田翔太、浅野忠信、香川照之、仲村トオル、宮藤官九郎、アンディ・ガルシア、黒澤満、丸山昇一、筒井ともみ、仙元誠三、今村力、森田芳光、吉永小百合(声のみの出演)、関根忠郎
企画:オフィス作
配給:ファントム・フィルム
(C)2009 SOUL RED Film Partners
『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年公開)
DVD&Blu-rayリリース デジタル配信中
原作・監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝原雄三
音楽:山本直純、山本純ノ介
主題歌:「男はつらいよ」渥美清/オープニング:桑田佳祐
出演:渥美清、倍賞千恵子、吉岡秀隆、後藤久美子、前田吟、池脇千鶴、夏木マリ、浅丘ルリ子、美保純、佐藤蛾次郎、桜田ひより、北山雅康、カンニング竹山、濱田マリ、出川哲朗、松野太紀、林家たま平、立川志らく、小林稔侍、笹野高史、橋爪功
(C)2019松竹株式会社
公式サイト tora-san.jp/movie50/
『罪の声』(2020年公開)
Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中
出演:小栗旬、星野源、松重豊、古舘寛治、宇野祥平、篠原ゆき子、原菜乃華、阿部亮平、尾上寛之、川口覚、阿部純子、市川実日子、火野正平、宇崎竜童、梶芽衣子
監督:土井裕泰
原作:塩田武士『罪の声』(講談社文庫)
脚本:野木亜紀子
音楽:佐藤直紀
主題歌:Uru『振り子』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
(C)2020 映画「罪の声」製作委員会
公式サイト https://tsuminokoe.jp/
ドラマ『大阪環状線 ひと駅ごとの愛物語』(2016年放送)
デジタル配信中
出演:
第1話:駿河太郎、谷村美月、滝裕可里、井上拓哉
第2話:尾上松也、舞羽美海
第3話:村川絵梨、中山義紘
第4話:木下隆之(TKO)、中村ゆり、山路和弘、松田苺
第5話:平祐奈、前田旺志郎、森脇健児
第6話:木南晴夏、大東俊介、永野宗典
第7話:やべきょうすけ、清井咲希
第8話:大野拓朗、碓井将大
第9話:葉山奨之、足立梨花
第10話:佐藤蛾次郎、鎮西寿々歌
シリーズ構成:小林弘利
演出:木村弥寿彦(カンテレ)
プロデューサー:木村弥寿彦(カンテレ)/佐野拓水(カンテレ)
音楽:園田涼
制作:関西テレビ
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/