これほどまでに難しい「強制性交罪」改正の議論 佐々木俊尚が指摘
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ジャーナリストの佐々木俊尚が1月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。強制性交罪の改正試案について解説した。
「強制性交罪」改正試案
性犯罪の実態に合わせた刑法改正に向けて、強制性交罪の構成要件として、被害者が「同意しない意思」を表わすことが難しい場合などとする改訂試案が法制審議会に示された。2022年10月には、「アルコールを飲ませる」などの行為で被害者を「拒絶困難」な状態にさせた場合を要件としていたが、この試案の「拒絶困難」という点について、「被害者側が抵抗して拒絶する義務を負っているように感じる」などの指摘が相次いだ。このため1月17日の部会では一部修正案が示され、「拒絶困難」に替えて、被害者が「同意しない意思」を形成・表明したり、全うしたりすることが難しい場合を要件とする修正案が示された。
飯田)この同意についても……。
佐々木)難しい話です。去年(2022年)の試案で出ているのが、構成要件として8つあります。どういう場合に強制性交罪が成立するのかと言うと、暴行や脅迫を用いている、アルコールを飲ませている、意識が明瞭でない状況にしている。あるいは社会的地位として上司と部下の上下関係にあるなど、8つの行為を示しています。
飯田)8つの行為を。
佐々木)それに当てはまった場合は、強制性交罪になるということです。当てはまらない場合は、強制性交罪には当たらないと。
「拒絶困難」の要件である「8つの行為」はブラックリスト ~これに当てはまったら強制性交罪
佐々木)「ブラックリスト」と「ホワイトリスト」という考え方があります。ブラックリストは「やってはいけないこと」を記してあるもので、それに当てはまらない場合はすべてオッケーです。一方、ホワイトリストは「やっていいこと」が書いてあって、当てはまらないものは全部NGである。
飯田)「やってはいけないこと」と「やっていいこと」。
「同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うすることが困難な状態」にさせた場合に改めた
佐々木)この8つの要件は、要するに「ブラックリスト」になるわけです。「これに当てはまる場合はダメだけれど、それ以外はオッケー」という話。しかし、それだとその他のケースもあるのではないかと。8つには当てはまらないけれど、他にもブラックになり得る、強制性交が成立する状態はあり得るのではないかという批判が出たのです。
飯田)8つ以外にもあるのではないかと。
佐々木)拒絶困難な8つの条件だけではなく、同意しない意思、「性交してもいいですよ」としっかり表明しているかどうか。あるいは「それを言うことが難しかったのか」ということも入れましょうという、少し曖昧な要素をそこに加えたということです。
飯田)曖昧な要素を。
佐々木)これは苦肉の策で、少し曖昧だけれどそれを入れた。
被害者団体が訴えている「相手が同意している性行為以外はすべてNG」 ~「そのときにはオッケーだったのだけれど、あとから思い返すとやはり嫌だった」
佐々木)一方で被害者団体が訴えているのは、「これでは不十分だ」ということです。彼らはおそらくホワイトリストを求めているのです。相手が同意していればオッケーだけれど、相手が同意していない性行為はすべて許してはダメだということです。
飯田)ホワイトリストを求めている。
佐々木)相手が同意している性行為以外のものは、「すべてNG」という発想にしてしまう。しかし、これをやると今度は冤罪の可能性が出てきてしまうわけです。
飯田)冤罪の可能性が。
佐々木)実際によくある係争事案で、「そのときはオッケーだったのだけれど、あとから思い返すとやはり嫌だった」と言ってしまう場合もあります。
「本当は同意していませんでした」ということで強制性交罪が成立 ~冤罪の可能性も出てきてしまう
佐々木)それはエビデンスのない、気持ちの話なのですが。
飯田)内心の話になります。
佐々木)ホワイトリスト的にやれば、それも「本当は同意していませんでした」と言えてしまうので、要するに強制性交罪が成立する話になってしまうわけです。
飯田)そうですね。
佐々木)それは加害者とされた側からすれば、「あのときオッケーだと言ったではないか」という水掛け論になるし、それで罰せられてしまうと、冤罪的なことになってしまいかねない。この議論はとても難しいのです。強制と強制ではないところに、少しグレーな段階はいくかあるわけで、「グレーの段階をどれほど踏み込むのか」という議論なのだと思います。
飯田)そうですね。そして、それを法律で事前に規定するのか、あるいは事例ごとに裁判所に委ねる形で判例を積み重ねるのか。被害者団体は不同意性交罪の新設を求めている。しかし、場合によっては拡大解釈されてしまう可能性もあります。
「容疑者として逮捕される」というだけで社会的な制裁も非常に大きい ~慎重に運用すべきだというのもまた一方の真理
飯田)これは刑法の話になるので、警察や公権力がそれをもとに逮捕すると容疑者ということになります。ただ、この犯罪に関しては特にそうなのですが、「容疑者として逮捕される」というだけで社会的な制裁も非常に大きい。
佐々木)そうですね。性犯罪は社会的制裁が大きいですから。
飯田)そこを考えると、慎重に運用すべきだという意見も、また一方の真理だと思います。
ある程度グレーゾーンで置いておいて、それを判例で積み重ねる方法もある
佐々木)あまり法律でガチガチに決めず、ある程度グレーゾーンで置いておき、それを判例で積み重ねる方がいいのではないかと思います。
飯田)被害者団体等からは「事前に規定しなければ法として運用できないのではないか」という主張もあります。また、何歳なら同意の意思を示せるのかという問題もあります。
佐々木)これも難しいですよね。いま(性交同意年齢とされるのは)13歳ですか?
飯田)13歳です。
佐々木)では、15歳くらいの中学生の女の子だとどうなのか。これも以前、議論になって、「50代の男性が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まる」という国会議員の発言もありました。恋愛と性愛の違いもあり、内心の問題もあるので、法律が踏み込むのが難しいところも確かにあります。
飯田)まだ試案の段階ですので、これからまた議論が進んでいくのだと思います。
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