米中央銀行の見通しと市場の期待に乖離が生じる「アメリカ経済の事情」

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経済アナリストのジョセフ・クラフトが1月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。7営業日ぶりに反落したニューヨーク株式市場について解説した。

米中央銀行の見通しと市場の期待に乖離が生じる「アメリカ経済の事情」

米連邦準備制度理事会(FRB)本部(アメリカ・ワシントン)=2021年1月27日 EPA=時事 写真提供:時事通信

NY株7日ぶりに反落、260ドル安

現地1月30日のニューヨーク株式市場、ダウ平均株価は先週末と比べて260ドル99セント安い3万3717ドル9セントで取引を終えた。ハイテク銘柄中心ナスダック総合指数は227.90ポイント安の1万1393.81だった。一方、円相場は1ドル=130円40銭付近で取引されている。

飯田)週内に複数の重要イベントを控えた警戒感から、7営業日ぶりに反落しました。今週はイベントが多いのですか?

マーケットの期待と米中央銀行の見通しに乖離が生じている

クラフト)今週は多いですね。株高はマーケットが、2月1日のFOMCで利上げ幅が減速するのではないかという期待から、この1~2週間は株が上がってきたというところです。マーケットの期待とアメリカの中央銀行が示している見通しに乖離が生じています。

飯田)見通しに乖離が。

クラフト)FOMCは基本、政策金利を5.125%まで上げて、「年内はそのまま据え置く」という見通しを出しているにも関わらず、金融市場は来年(2024年)の1月までに3回の利下げを織り込んでいる。しかし、余程の景気後退がない限り、あり得ないのではないでしょうか。この乖離がどこまで縮んでいくのかが、今後の焦点だと思います。

FRBのアナウンスを市場が聞かない

飯田)現地1月31日~2月1日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれます。アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策決定会合ですが、しきりにFRB側はアナウンスをしていますけれど、なかなか市場が聞いてくれない。

クラフト)聞かないですし、聞いても「いいとこ取り」なだけです。危険なのは、マーケットの99%が0.25%の利上げ……いままで0.5%だったものを0.25%に下げるということですけれども、週末にウォール・ストリート・ジャーナルのFEDウォッチャーが出した観測記事によると、FOMC内ではインフレの粘着性、あるいは再燃を危惧する動きがあるということです。

FRBがブレーキを踏んでもインフレ率が思ったより下がらない ~労働市場が強い

クラフト)おそらく、これは私の推測ですが、0.25%の利上げをしたとしても、パウエル議長がタカ派なコメントで市場の楽観ムードを牽制する動き、あるいは市場の予想に反して0.5%も排除できないのではないかと思います。市場が期待しているよりも、タカ派なFOMCになるリスクがあるのではないかと推察します。

飯田)インフレの粘着性という言葉がありました。一生懸命、アメリカの中央銀行であるFRBがブレーキを踏んでいますが、インフレ率が思ったよりも下がってくれない。高いところに「ベターッ」と張り付いた形になっています。これを粘着性と言います。

クラフト)その背景にある最大の要因は、労働市場が非常に強いということです。そして賃金が着実に上がっている。日本とは逆の構図です。それによってサービスインフレ、レストランやサービスのインフレが高止まりしていることを懸念しているようですね。

労働者の人手不足が賃金を高止まりさせているアメリカ

飯田)雇用が未だに強い。失業率は3%台で、賃金も上がっています。根本には人手不足があるのでしょうか?

クラフト)まだ正式な見解はありませんが、おっしゃる通り労働力不足です。背景には、コロナ禍で労働市場から撤退した人が何百万人もいて、それに基づく労働者の不足が賃金を高止まりさせていると言われます。

飯田)日本と違って解雇に関する規制もないので、コロナ禍で経済が減速したときに一気に切った。その人たちがまだ戻りきっていないのですね。

クラフト)戻りきっていません。また、戻った人も、労働力不足なので転職が多いのです。いい待遇で転職できるので、企業は引き止めるために高い賃金を払わなければならず、平均時給が高い。そういったサービスインフレが高止まりしているということです。

日本もアメリカを後追いできるかどうか

クラフト)実は財のインフレが3.7%なのです。トータルのCPIは6%半ばですけれども、サービスインフレが7%です。日本は逆で、財のインフレが7%、サービスインフレが0.7%。

飯田)財のインフレが高いのは、日本の場合は海外からものを持ってくるから。

クラフト)そうです。コストプッシュインフレと言われていますが、日本でも賃金が着実に上がってくると、サービスインフレが徐々に上がっていくのです。アメリカを後追いできるかどうかが注目です。

コロナ禍での貯金が使われ、今年の後半から来年にかけて景気への圧力が高まる可能性も

飯田)アメリカの場合は、個人消費の引っ張りが非常に強いと言われているではないですか。一方でこれだけ利上げしてくると、クレジットカードの決済やローンを組むことが難しくなってきますよね。

クラフト)難しくなりますし、直近では消費者の懸念が高まっています。コロナ禍での貯金が使われ、クレジットカードの金利が上がってきていて、消費者に不安が広がっています。そのなかで、今後は消費を直撃するのではないかという懸念が高まっているのです。

飯田)なるほど。コロナ禍であれだけ給付金も出し、その積み上げをいま食い尽くしつつあると。

クラフト)そうです。今年(2023年)後半から来年にかけて、景気への圧力が強まってくるのではないかと思います。

飯田)インフレ率はまだ粘着性があって高いのに、景気がダウンしてしまったら大変です。

インフレが4%~5%で止まり、景気が減速すると難しい選択を強いられる米中央銀行 ~アメリカ経済が減速すると日本にも経済的な圧力が掛かる

クラフト)そうなのです。インフレが4%~5%で止まってしまい、景気が減速し始めると、中央銀行としては非常に難しい選択肢になります。金利を上げられず、でも下げられない。スタグフレーションの状況を招きかねません。

飯田)本来はそこで財政をどうにかして欲しいところですが。

クラフト)でも、もう財政を使いまくっていますし。

飯田)債務上限をどうするかという話も出ています。

クラフト)その通りです。今年はいろいろな試練が経済的に予想されます。

飯田)アメリカがそうなると、世界経済の影響も大きいですよね。

クラフト)アメリカも減速しますし、中国も経済が弱みを含んでいる。両方の影響を受けるのは日本です。いまはコロナ明けでいいですが、今年後半から来年にかけて、日本にも経済的にいろいろと圧力が掛かってくると思います。

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