ジャーナリストの須田慎一郎が2月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米国が中国の気球を撃墜した背景について解説した。
アメリカ国防総省、本土上空を飛行していた中国の気球を撃墜
アメリカ国防総省は2月4日、アメリカ本土の上空を飛行していた中国の気球を、南部サウスカロライナ州の沖合で撃墜したと発表した。中国外務省は強い不満と抗議の意を表明している。
気球をあえて飛ばしてアメリカ国内の報道を盛り上げる意図もあったか
飯田)万が一住民の方々への被害が出ては困るということで、沖合に出るのを待つ形で撃墜したようです。
須田)住民の被害云々というのは、あくまで建て前だと思います。
飯田)そうですか。
須田)気球が飛来したことを奇貨として、政治的に活用するためにしばらく飛ばし、「国内の報道を盛り上げる」という段取りもあったのだと思います。
飯田)なるほど。やろうと思えばすぐにでもできたのだけれど。
須田)いつでもできたはずなのです。
「なぜ最初から撃墜しなかったのか」ということへのエクスキューズとしての「国民の安全のため」 ~沖合に出てから撃墜
飯田)大統領はかなり前に撃墜命令を出していたという話があります。
須田)2024年の大統領選挙を意識して、トランプ前大統領が「すぐに撃ち落とせ」とSNSでアピールし、国内では喝采を受けたわけです。そこでバイデン大統領に「弱腰」というスタンスが見えてしまうと、大統領選挙にも影響を与えかねないので、強気に出ているのでしょう。
飯田)大統領選も意識して。
須田)「なぜ最初から撃墜しなかったのか」という意見へのエクスキューズとして、「国民の安全が第一なのだ」というところもアピールする意味があったのではないでしょうか。
飯田)報道合戦になっていると感じるのは、実はトランプ政権時代にも3回くらい飛来していたことなど、いま出さなくてもいいような情報まで出てきている。お互いがお互いを批判し合っている感じがします。
中国とアメリカの情報戦としての駆け引きが行われていた
須田)中国は「しでかしてしまったな」ということです。低速で飛ぶことと、この種の材質では「レーダーに捕捉されないだろう」と、「できるのかできないのか」も含めて飛ばしていた形跡があるのです。
飯田)相手の能力をみるという意味でも。
須田)トランプ政権でも3回飛んできたということですが、アメリカ側は、気球が飛んできたことに大騒ぎするよりも、把握した上で「みている」という情報戦としての駆け引きが行われているのです。
飯田)泳がしていたという。
気球の飛行ルートから意図的に飛ばしていることは明らか
須田)飛行ルートですが、まずアラスカに入ってカナダを経由し、アメリカ本土を縦断するというものです。このルートをみても、観測機器が迷い込んだはずはない。上空でそのような風は流れていませんから。
飯田)そんなにきれいな気流はないということを考えると、意図的に飛ばしているとしか思えない。
須田)意図的に飛ばしているのです。
残骸から偵察衛星である証拠を取り上げ「中国は主権を侵害する勝手な国だ」ということをアピール
須田)その一方で、海上に飛散した残骸については、24時間以内に回収できるような体制も示しています。回収した残骸をどう料理するかが、アメリカの情報・諜報機関による腕の見せどころです。中国が主権を侵害し、領土・領空・領海を侵害し、「勝手なことをやっている国なのだ」とアピールするために残骸を利用するのだと思います。
飯田)そうすると、表に出すものと出さないものが出てくるでしょうね。
須田)「これは偵察衛星だ」という証拠を、何らかの形で見つけるのだろうと思います。
気球撃墜が米政府全体の意図なのか、一部の中国強硬派の意図なのか ~ブリンケン国務長官の訪中前のタイミング
飯田)この一件が出て、識者の方々が指摘していますけれども、米ソ冷戦時代の1960年にU2偵察機がソ連領内で撃墜されたことがありました。そこから雪どけムードだった米ソ関係が、再び緊張状態になった。そしてキューバ危機にまで及ぶという話がありましたけれども、今回のことで劇的に関係性が変わる可能性はありますか?
須田)今回の場合は、ブリンケン国務長官の訪中前という微妙なタイミングです。なぜこのタイミングで気球の飛来が表面化したのか、情報が開示されたのか。そのなかで訪中については、延期という名の中止になるわけです。
飯田)ブリンケン国務長官の訪中が。
須田)それがアメリカ政府全体の意図なのか、それとも一部の中国強硬派の意図なのか。政権内で綱引きがあって、強硬派が中国に対する融和策を潰すためにこういうことをやってきたのか。この辺りのアメリカ国内の政治状況を見極める必要があるのではないかと思います。
中国に対して黄禍論的な危機感が強いアメリカ
飯田)この情勢であっても、中国との間で一定の関係性、ビジネス関係を保ちたい人たちはいるわけですね。
須田)そうですね。特に民主党内にそういう人たちが多いのです。確かにアメリカ議会は上下院、共和党・民主党ともに中国強硬派に傾いているけれども、アメリカ国内の政治勢力のなかには、中国に対して融和的な人も少なくありません。アメリカ国内にも中国系が多いですから。
飯田)アジア系のなかでも、やはり中国系の人たちは多い。
須田)多いです。ただ、本音ベースで国務省職員の幹部や軍部の幹部などと話をすると、中国に対する黄禍論的な危機感が強いのです。
飯田)なるほど。
須田)人種差別的なものです。それが根っこにあるのではないでしょうか。
飯田)必要以上に恐れてしまったり、必要以上の強硬策に出るなど、誤算のようなものが起こる可能性もありますか?
中国に対する過剰な恐れから偶発的に何かが起こり、それに中国が過剰反応する可能性も ~誤算が誤算を呼ぶことも
須田)偶発的に何かが起こり、それに対して中国が過剰反応する可能性はあります。中国が自国の領海と主張している上空の空域は、大気圏まであります。ここにアメリカは偵察機を飛ばしているのです。その偵察機を撃墜するような動きが出てくる可能性もあります。
飯田)「こちらが撃墜されたのだから、やるぞ」という。
須田)ここは我々の領海の上空ではないか、領空ではないかという考え方です。
飯田)でも、国際法上では認められてもいない。
須田)認められていません。
飯田)航空の自由があるだろうと言って、軍用機を飛ばすかも知れない。誤算が誤算を呼んで……という可能性も考えなくてはいけないですね。
須田)逆に、中国の今後の動きは注目だと思います。
2020年に宮城県内でも発見されている気球 ~当時は見て見ぬふりをしていた可能性が高い
飯田)一方で、2020年6月17日朝、宮城県内で謎の白い物体が上空を浮遊しているのが目撃されています。宮城県の危機管理担当者が地元紙の取材に対し、今回のアメリカ本土を飛行した気球の写真を見て、「以前見たものと似ている」というようなことを言っています。やはり日本の上空も飛んでいた可能性はあるのですか?
須田)アメリカに飛ばすということは、米軍基地がある日本に飛ばしていても、何の不思議もないと思います。ただこの辺りについては、もともと把握していたけれど、向こうの出方を見るために見てみぬふりをしていた可能性も強いのではないかと思います。
飯田)中国の出方を見るために。
須田)最近になって、今回のようなケースを政治利用しようと表面化させ、中国に対してプレッシャーを掛ける材料にしようという動きが出てきたということです。
中国の「海外警察」
須田)もう1つは中国の海外警察です。これも最近になってスペインの調査団体が明らかにしたのではなく、実を言うとわかっていたのです。知ってはいた。
飯田)インテリジェンス関係者は。
須田)でも知らないふりをして、どういう行動を取るのか、誰と接触するのかを情報収集する。それが公安的な手法であり、常識なのです。
飯田)潰してしまうよりは、泳がせておいた方が情報がより取れる。
中国包囲網をさらに強化する方向に動くアメリカ ~どちらの陣営に入るのか、「主権を侵害してくる中国を選ぶのか」というある種の踏み絵に
須田)なぜ、ここへ来てカードを切り始めたのか。その背景を考えるべきではないかと私は思います。
飯田)アメリカが腹を括り出したのですか?
須田)中国包囲網をさらに強化する方向性です。アメリカは中国との融和策に動いて、「外交トップの国務長官が中国に行こうとしていたけれど、それを潰したのは中国ではないか」と。「友好ムードをぶち壊したのは中国だろう」として、アメリカが勝手に中国に対して喧嘩を売ったわけではないと主張しているのです。
飯田)なるほど。
須田)これは対中国へのプレッシャーであると同時に、「他の国々はどちらの陣営に属するのか」と。主権を堂々と侵害してくる中国を選ぶのか、そうではない自由の国アメリカを選ぶのかという、ある種の踏み絵になってくるのだろうと思います。
地政学的にアメリカと違う状況に置かれている日本が「どういう独自外交、安全保障策を打ち出すのか」が厳しく問われる
飯田)日本では林外務大臣が中国側から招請を受け、調整を進めているということです。ここで日本の外務大臣が中国へ行くわけにはいかないですよね。
須田)微妙な状況だと思います。アメリカと違い、日本は隣国ですから。第1次安倍政権が最初の外遊先に選んだのは中国と韓国でした。近隣国との融和は安全保障上いちばん大事だということです。
飯田)近隣国との融和が。
須田)でも、当時とは状況が変わってきているわけですから、その考えがいまの世界情勢で通用するのかどうか。地政学的にアメリカとは違う状況に置かれている日本が、「どういう独自外交、安全保障策を打ち出すのか」が厳しく問われてくると思います。
今後は日本の独自外交が必要になる ~フィリピンと南シナ海においてどういう関係を構築するのか
飯田)米中の狭間で動くことはこの先、難しくなってきますか?
須田)そうは言っても、西太平洋もキーカントリーになっているわけです。成長著しいアジア太平洋地域の北側としては日本、南側としてはオーストラリアがある種の要石になります。その辺りで、日本としての独自外交は必要になると思います。
飯田)この情勢のなかで、2月8日にはフィリピンのマルコス大統領が来日します。そこでどういう話をするか、どういうメッセージを出すかということも重要になるかも知れません。
須田)フィリピンは米軍基地の拡充という形で、米軍との間で合意しているわけです。それを受けて日本との関係性をどうするのか。もちろんフィリピンサイドとしては経済支援を強く求めてくるのでしょうけれども、安全保障上、特に南シナ海でどういう関係を構築するのかが、非常に大事なタイミングになってくると思います。
飯田)政権が変わったばかりだからこそ、というところがありますか?
須田)日本はマルコスさんのお父さんとは、かなり親しい関係にありましたから。
飯田)その辺りのパイプを使いながら、どうするか。
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