話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、キャンプインしたプロ野球注目選手のなかから、守備でファンを沸かす3人の遊撃手、今宮健太(ソフトバンク)、源田壮亮(西武)、そして龍空(中日)にまつわるエピソードを紹介する。
スタートをずらしていた西武ライオンズもキャンプインし、12球団球春到来となったプロ野球。この時期、それぞれの選手が自主トレで意識してきたこと、オフをどう過ごしてきたかの「答え合わせ」気分で楽しめるのも魅力の1つ。そのなかで、今年(2023年)のオフに目立ったのは「守備の要同士」が研鑽する姿だ。
昨季、キャリア最高となる打率.296をマークし、今季は打率3割を狙うソフトバンク、今宮健太。ただ、打率以上に闘志を燃やすのは、守備職人の称号「ゴールデン・グラブ賞」の奪還だろう。
2013年から2017年まで、5年連続でパ・リーグ遊撃手のゴールデン・グラブ賞を獲得し、球界屈指の名手という地位を確立しているかに思える今宮。だが、2018年以降は、西武の源田壮亮に5年連続でゴールデン・グラブ賞を許す形になっている。
記者投票という形式上、印象論でも決まりがちなゴールデン・グラブ賞。ただ、今宮自身、源田の実力を認め、過去にはこんな言葉を残している。
『源田は教科書ですね。僕は教科書に載らないタイプです(笑)。源田の守備は“捕る”“投げる”など全体的に分かりやすい。源田の守備を見て、僕も勉強することがあります』
~『週刊ベースボールONLINE』2019年7月9日配信記事 より
今宮にとって、源田は同じ大分県出身の1年後輩。それでも、その後輩を超えるべく、後輩から学ぶことを厭わない。
例えば、現在、ゼット社のグラブを使用している今宮だが、そのきっかけは源田がゼット社のグラブを使っていたことに影響を受けたから。さらに、今季使用する今宮のグラブは、源田モデルを参考に改良を重ねたという。そこにあるのは、認めるものは認め、それでも負けたくないというプロとしての矜持だ。
『今年はゴールデングラブ賞も目指して、(西武の)源田に負けないようにしたい。源田から(賞を)奪うことが僕にとって価値あること』
~『日刊スポーツ』2023年1月11日配信記事 より
迎え撃つ立場の源田は、侍ジャパンの正遊撃手候補として、守備から徹底する意識を見せている。
「今まではベンチから試合を見ている方が多かった、今回はまずは守備というところでしっかりやらなければいけない。『ショートに打たせれば安心』と思ってもらえるように、しっかり落ち着いてプレーしたい」
~『東スポWEB』2023年2月6日配信記事 より
奇しくもWBC本番前の侍ジャパンにとって最初の実戦形式となるのが今月2月25日と26日の対福岡ソフトバンク戦。球界最高峰の遊撃手による守備合戦を早速堪能できるかも知れない。
一方、そんな球界最高の遊撃手を目指すのは、プロ3年目の今季から登録名を「龍空」にした中日ドラゴンズの土田龍空だ。
2年目の昨季はシーズン中盤から遊撃手のレギュラーに固定され、まさに飛躍の1年に。加えて、それまでレギュラーだった京田陽太がDeNAに移籍し、登録名も変わり、まさに勝負の3年目と言える。
そんな龍空が狙うのは、遊撃手で全試合に出場すること。そしてその先には、井端弘和が2006年に樹立した球団記録、守備率.994の更新を目指している。
このときの井端は全146試合に先発出場し、4失策で守備率.994。対して、昨季の龍空は59試合に出場して5失策。出場試合を増やしてどう失策を減らしていくか。そこでこのオフ、実践したのはショートとセカンドの違いこそあれ、球界最高の二遊間、広島カープの菊池涼介の自主トレに参加すること。その狙いを次のように語っていた。
『打撃での10割は無理だけど、守備の10割は可能だと思っている。菊池さんは実際に年間ノーエラーを達成した。自分も目指すところ。何年も守備で実績を残している選手だし、教わりたいと思ってお願いした』
~『中日スポーツ』2022年11月21日配信記事 より
龍空といえば「アクロバティックな守備」が代名詞となりつつあるが、あくまでも目指すのは堅実な守備。守備率.994の更新のため、10割の男に学ぶ意識の高さは期待が持てる。
ただ、その前提となる「全試合出場」を果たすためには、ドラフトで加わった村松開人(ドラフト2位)、田中幹也(同6位)、福永裕基(同7位)らとの競争を勝ち抜く必要がある。立浪監督も「ショートの一番手ではあるが安心はさせない」といった発言をしているように、まだまだ安泰とは言えない立場。球界随一の守備職人からの教えをどう生かしていくのか、興味は尽きない。
キャンプ情報というと、「柵越え〇本」といった派手な話題ばかりが目立ってしまうが、彼ら守備職人たちのグラブのこだわりや特守で泥だらけになる姿もしっかり追いかけていきたい。