ジャーナリストの佐々木俊尚が4月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日本における反撃能力の議論について解説した。
「反撃能力」のような戦術については自衛隊で検討すべきこと ~国会で議論するレベルのものではない
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飯田)4月4日の衆議院本会議で岸田総理は、防衛費増額に関して、「歳出改革や税制措置など所要の措置を講ずる」と述べ、増税方針を重ねて強調。そして反撃能力についても言及しました。
佐々木)反撃能力の議論は気になっています。そんなに細かいところまで議論するのが、政治の役割なのかと思うのです。
飯田)国会で。
佐々木)安全保障的に言うと戦略と戦術があって、戦略は「国家戦略」という言葉もあるように、例えば「ロシアや中国とどう向き合うか」というようなことです。しかし戦術は、「実際に攻撃を受けたときにどう反撃するか」というような細かい話になるわけです。
飯田)戦術は。
佐々木)それは自衛隊レベルの話であって、国会で議論するレベルではないと思います。
3つに分かれる反撃能力
佐々木)反撃能力は大体3つに分けられると言われていて、1つは我が国が現実に被害を受けているとき、それに対して反撃する。これは国際法上、完全に合法です。
飯田)個別的自衛権ですね。
佐々木)2つ目は、侵害の恐れがあるときです。例えば中国が「日本の自衛隊はけしからん。どうも攻めてくるらしいから攻撃しよう」というのは、国際法違反で誰も認めていません。また、ロシアが「北大西洋条約機構(NATO)が攻めてくるからウクライナを先に獲る」としたのは反撃能力だと言うかも知れないけれど、それも認められていない。
飯田)国際法違反であると。
「相手が武力攻撃に着手したのを見て先制攻撃に入る」のは国際法的には違反ではない ~「着手とは何だ」と細かいところを攻める野党
佐々木)いちばん問題になっているのが、「相手が武力攻撃に着手した時点で先制的に自衛攻撃する」というのが、どこまで認められるのかというところです。
飯田)そうですね。
佐々木)「相手が武力攻撃に着手したのを見て先制攻撃に入る」のは、国際法的には「違反ではない」と言われています。実際、アメリカでも韓国でも「こういうものは合法だ」と国内での議論は決着しています。
着手について説明した瞬間に手の内を明らかにしてしまうことに
佐々木)しかし、日本は細かいところを求めている。相手が武力攻撃に着手したというところの「着手とは一体何だ?」と野党は攻めますが、実際に「ここまでです」と説明した瞬間、例えば日本を取り囲んでいるロシア・中国・北朝鮮のような国に、「日本はそこまでやってもまだ動かないのだな」ということがわかってしまうわけです。それは「手の内を明らかにする」と岸田首相が言っている通りだと思います。そこまで細かいところを国会で言ってはいけないと思いますね。
飯田)やるのであれば外に情報が漏れない形で、秘密会の制度を使うならまだわかるのですが、「君たちは秘密を漏らしてしまうでしょう?」と思いますよね。
佐々木)そうなのです。日本はそこが昔からザルで、国家機密の情報を得た国会議員がすぐにペラペラ喋るような側面があります。岸田首相のウクライナ訪問もそうです。なかなか行けなかったのは、行けるタイミングはあったのだけれど、行こうかと計画した瞬間に官僚が喋ったのか議員が喋ったのか、ベラベラとみんな喋って、すぐマスコミに「岸田首相、ウクライナ訪問か?」と書かれてしまった。事前にそんなことを言われたら、ますます行けなくなりますよね。
飯田)岸田さんもさすがにブチ切れたという話もありますね。命が掛かっているのだと。
日本の防衛法制の「ポジティブリスト」方式では、いざという際にまともに戦えない
飯田)日本は「法律で事前に決めておかなければそれ以外のことができません」という、いわゆるポジティブリスト、「やってもいいリスト」のなかでしか動けないという全体の仕組みがあります。
佐々木)「ネガティブリスト」をつくって、「そこには抵触しないようにする」としなければ、フリーハンドではなくなってしまいます。
飯田)そうですよね。
佐々木)戦術レベルまで政治で縛ったら、まともな戦争はできないですよ。まともな戦争をしてもいいという話ではないけれど、少なくとも日本を守らないといけないのですから。
飯田)我々が仕掛けるのではなく、仕掛けられたときにどうするのかという議論ですからね。
「どうすれば我が国を効率的に守れるのか」という議論をするべき
佐々木)その認識を国会議員の人たちには新たにして欲しいと思います。結局、そういう議論をしているのも、岸田政権に対して「どこかで攻められないだろうか」と狙っているからそうなるわけです。
飯田)野党の議論の仕方は。
佐々木)「いかに攻められるところを突いて政権を攻撃するか」という論点ではなく、「どうすれば我が国を効率的に守れるのか」と。そのとき、変に「我が国が侵略する」という方向へ逸脱しないよう、歯止めを掛けるにはどうしたらいいかなど、目的地をそこに向けて議論して欲しいですね。
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