話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回はメジャーリーグから日本球界に復帰し、3年ぶりに勝利投手となった澤村拓一(ロッテ)にまつわるエピソードを紹介する。
海の向こうではレッドソックスの吉田正尚が早くも「マッチョマン」の異名で人気を掴みつつある。ならば、こちらの「元」レッドソックスの「マッチョマン」も負けていられない。昨季までレッドソックスでプレーし、今季から日本球界に復帰したロッテの澤村拓一だ。
振り返れば、メジャー移籍前のロッテ時代はコロナ禍の真っ只中。それゆえ、入場制限のあるZOZOマリンスタジアムのマウンドしか知らなかった澤村。だからこそ、ロッテ復帰の入団会見冒頭でこんな挨拶をしていたのが印象的だった。
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『澤村拓一です。3年ぶりに、千葉ロッテマリーンズに帰ってくることになりました。日本一熱いファンの前で投げられることにとても興奮しております』
~『ベースボールキング』2023年1月28日配信記事 より
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その“日本一熱いファン”が詰めかけるZOZOマリンのマウンドで、今季の澤村は早くも結果を残している。
まずは4月4日の日本ハム戦。2点リードの8回、公式戦で約2年4ヵ月ぶりとなるZOZOマリンのマウンドに立ち、ロッテの今季初勝利に貢献。さらに8日、ZOZOマリンでの楽天戦では2点リードの8回に3番手で登板。3ランを浴びて逆転を許しながらも、その直後に味方の逆転を呼び込み、日本では巨人時代の2020年6月以来、3年ぶりの勝利投手となった。まさに、ファンの声援を力に変えた形だ。
オープン戦でZOZOマリンのマウンドに立った際にも、ファンとともに今シーズンを歩みたいと、こんな前向きな言葉を残していた。
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『僕が前にいたときには、コロナ禍ということで、ファンの方の声援はなかったですけども、この声援をしてくれるファンの方とともにね、勝っていけたらいいなと思います』
『今日よりも明日、明日よりも明後日、今日より明日よくなるんだっていうマインドで練習に取り組みたいなって思います』
~『サンスポ』2023年3月8日配信記事 より
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「今日より明日よくなる」精神でトレーニングを積み重ねる。「マインド」という言葉使いからも、海の向こうで多くの経験を積んできたことを感じさせる。
そもそも、トレーニング論については造詣が深い澤村。プロ入り前の中大時代から筋トレに明け暮れ、巨人時代もトレーニングの専門書を読み漁っていたのは有名だ。
日々、ストイックに己を鍛え上げる澤村の筋トレ動画がバズッたのは今年(2023年)2月のキャンプ中のこと。球団公式YouTubeで公開された早朝アーリーワーク動画は、2本合わせて96万回再生(4月10日現在)を記録と、ほぼ「ミリオン」を達成。コメントは計1000件以上も寄せられている。
その動画では、「200キロは重いと感じない」と250キロのバーベルを肩に乗せ、鬼の形相でスクワット。鬼気迫るトレーニング風景もバズった理由の1つだろう。ただ、多くのコメントが寄せられた理由はそれだけではない。インターバル中に発した澤村の何気ないひと言もまた、多くの視聴者を惹きつけたはずだ。
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『時間のありがたみって感じません? 8時間寝て 練習して 飯食って マッサージ受けてたら 自分の残りの自由な時間って本当にないと思うんですよ。そうなった時にどこで他人と差をつけたり その時間でさえも有意義な時間にしたいから 無駄に時間を使いたくない』
~『千葉ロッテマリーンズ公式YouTube』2023年2月11日公開動画 より
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「耳の痛い話……」と、受け取る人もいるかも知れない。皆、平等に1日は24時間あるなかで本当に有意義な時間を過ごしているか。プロ野球選手だけでなく、ファンにとっても考えさせられるコメントが他にも散りばめられているのだ。
そんな澤村に対し、入団会見で「若手の面倒をしっかりみて欲しい」と要望を伝えていたのはロッテの吉井監督。そのリクエストへのアンサーのように、澤村はこんなコメントも残している。
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「僕なんか 本当に才能がないから。投げることもそんなに上手くないし。継続するだけっす。それが一番難しい」
「いつの時代でも 環境でも やるやつはやるし やらないやつはやらない。『若手に言ってやってくれ』って言われて ありがたい話なんですけど どんだけ促してフォローしても やるやつはやるし やらないやつはやらないんでね。やるやつが増えてほしいなと思います」
~『千葉ロッテマリーンズ公式YouTube』2023年2月11日公開動画 より
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組織のなかで言いづらいことでも、忖度なしでズバリ言い放つスタイルこそ澤村流。「僕なんか 本当に才能がない」と自分に厳しいこともまた説得力を生む。
こうした澤村の数々のコメントは、若手プロ野球選手のみならず、一般人の人生にも役立つ格言や金言があふれている。だからこそ期待したいのは、いまの澤村がヒーローインタビューで何を語るか、だ。
初勝利を挙げた4月8日の試合は、澤村自身はホームランを浴びたこともあり、野手陣がお立ち台に上がった。次の機会こそ、待ち望んだ「日本一熱いファン」の前でしっかり活躍した上で、自慢の長髪をマリンの風になびかせながらの金言に期待したい。