幻のトライも生まれたリーグワンプレーオフ 堪能した「これぞラグビー」と、考えるべき「これからのラグビー」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は決勝進出をかけて行われたラグビー・リーグワンのプレーオフトーナメント準決勝にまつわるエピソードを紹介する。

幻のトライも生まれたリーグワンプレーオフ 堪能した「これぞラグビー」と、考えるべき「これからのラグビー」

【ラグビー リーグワン〈プレーオフ準決勝〉東京ベイ対東京SG】後半、突破を阻まれる東京SG・松島幸太朗。左は東京ベイの木田晴斗=2023年5月14日 秩父宮ラグビー場写真提供:産経新聞社

2年目のラグビー・リーグワンがいよいよ大詰めだ。13、14日と、リーグ戦トップ4によるプレーオフトーナメント準決勝が行われ、結果的には1位の埼玉パナソニックワイルドナイツと、2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイの上位2チームが順当に勝ち上がり、20日に国立競技場で行われる決勝戦へと駒を進めた。

ただ、その決戦の前にもう少し準決勝の余韻に浸りたい。14日のスピアーズ対東京サントリーサンゴリアスの一戦がまさに歴史的なゲームだったからだ。

試合は前半5分でサンゴリアスの選手に退場者が1人出てしまい、ほぼ1試合を14人対15人で戦う苦しい構図に。ただでさえ、今季リーグ戦では2戦してスピアーズの2勝である。この時点で、「勝敗は決まった」と思ったファンもいたかも知れない。

だが、サンゴリアスの選手たちは諦めなかった。試合後半、残り2分の時点で11点差がついても、そこから一気呵成に攻めてトライを決め、6点差に。コンバージョンキックを蹴ると同時に、前後半80分の終わりを告げるホーンの音が秩父宮に鳴り響く。

つまり、残されたのはラストワンプレー。そのワンプレーでサンゴリアスがトライ(5点)&キック(2点)を決めなければ、1度でもプレーが切れれば、そこでスピアーズの勝利が決まる。そんな絶体絶命の場面で、サンゴリアスのお家芸、ボールをつないで勝機を見出す「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」の本領発揮。5分以上ボールをつなぎ、プレーを継続。ノーサイドの笛が鳴るまでに2度も「幻のトライ」が生まれたのだ。

1度目はトライまでに至る展開でスローフォワードの反則があったとTMO(ビデオ判定)で覆り、トライは取り消しに。そして問題のシーンは後半46分、ラインアウトからモールを押し込み、最後は両チームがまさに団子状態になってゴールライン間際でプレーが止まった。

トライか否か、決着はこの日6度目のTMOへ。5分近く、さまざまな角度からの映像を何度もスロー再生や映像拡大を試みても、トライがあったかどうか(ボールのグラウンディングがあったかどうか)明確な判断ができないとして、最終的にトライ認定はされず。決まっていれば、まさに伝説のトライとなっただけに、ノーサイドの笛が鳴った瞬間、秩父宮ラグビー場はファンの歓喜と悲鳴が交錯する異様な興奮状態となった。

一方、グラウンドの選手たちは、勝ったスピアーズ側も、そして負けたサンゴリアス側も精魂尽き果て、そして結果を受け止められないのか、その場から動けない選手ばかり。そんななかで1人、主審を務めた滑川レフリーに向かって駆け出したのは、日本代表でも活躍するサンゴリアスのスクラムハーフ、流大。その直前まで、ゲームキャプテンとして主審に意見を述べていた流だったが、これぞまさに「ノーサイドの精神」とばかりに主審とがっちり握手を交わし、会場からも拍手が沸き起こった。

結果はどうあれ、14人でも諦めなかったサンゴリアス、最後まで集中力を切らさなかったスピアーズ、死力を尽くした両チームの選手たちのプレーは、「これぞラグビーの素晴らしさ」と言える満足感の高いものだったのは間違いない。

ただ、このままでいいのか、と考えたくもなる試合だった。その1つは、この試合でも物議を醸したTMOの運用について。1試合で6回……つまり、それだけ試合の流れが止まったわけだ。

準決勝のもう1試合、埼玉パナソニックワイルドナイツ対横浜キヤノンイーグル戦でもTMO運用は5回。この2試合に限らず、今季のリーグ全体を通じてもTMOで流れが止まる場面は何度もあった。

各競技場では、審判団だけでなく、観客や記者も一緒に、当該シーンについて同じ映像で確認することができる。筆者が見ても、問題のシーンはどちらとも言えない映像だった。だからこそ、試合後に物議を醸すことを予見した流は真っ先に主審にかけより、その尊厳を守ろうとしたのかも知れない。

試合後、流は2つの点で「何も言うことはない」と記者団に語った。

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「レフェリー陣の判断が全てだと思うので何も言うことはないです」

「14人で最高のゲームができた。何も言うことないパフォーマンスだったし、自分たちが持てる全ては出し切って負けたので、仕方がないと思います」

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そして試合後、自身のSNSでこんなツイートも。

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『緊迫した試合の中でレフリーの方々のジャッジは全て正しいものだったと思います。サンゴリアスファンの皆さん是非スピアーズの勝利を一緒に讃えましょう! ファン同士もリスペクトをもってラグビーをもっと良いものに』

~流 大 Yutaka Nagare Twitter投稿より

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悔しさが募るはずの試合直後にこんなコメントを発することができる胆力に感服するばかりだが、同時に流の言う「ラグビーをもっとよいものに」するための意見交換は今後なされるべきだろう。

サンゴリアスの田中澄憲監督は試合後の記者会見でTMOの在り方について、次のようにコメントしてくれた。

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「こういう一発勝負になると、より正確な判定が求められるのだと思います。TMOが多いという意見はあると思うが、そうした制度がある以上、チーム側で言うことはない。それくらいラグビーが難しくなっているのかなと思います」

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実際、リーグワンが開幕したことで試合レベルが上がり、より難しいジャッジが増えている側面もあるのだろう。それでも、ある元日本代表選手は、「TMOは必要だけれど、何でもかんでもTMOでは、ラグビーの魅力を損なうだけ」と嘆いていた。同じように危機感を抱いている層は決して少なくない。

1試合あたりの回数制限(もしくはテニスや野球のようなチャレンジ制にするか)や、どこまで振り返ることができるかの時間制限など、議論できる余地はあるのではないか。このまま何も手を打たないと、主審は「人」なのか「カメラ」なのか、という意見にまで発展しかねないと思うのだが。

いずれにせよ、選手たちは魅力的なプレーをしているのは間違いない。残すは19日(金)の3位決定戦と、20日(土)の決勝戦。激闘の行方を最後まで見守りたい。

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